技術用語解説11『褐変(Browning)』

技術用語解説11『褐変(Browning)』

 食品は、加工、貯蔵、調理などによって褐色に着色することが多い。これを一般に褐変とよんでいる。褐変には酵素の関与するもの(酵素的褐変:enzymatic browning)と、酵素の関与しないもの(非酵素的褐変:nonenzymatic browning)とに大別できる。

1. 酵素的褐変

①ポリフェノールオキシダーゼ (polyphenol oxidase)による褐変:
 ポリフェノールオキシターゼはカテコールオキシダーゼ(catechol oxidase)、チロシナーゼ(tyrosinase)などの酸化酵素の総称である。リンゴなどが褐変するのは、リンゴの中のポリフェノール類(クロロゲン酸、カテキンなど)がカテコールオキシターゼによって酸化され、キノン類に変化し、キノン類はさらに酸化、重合して、褐色の着色物質を生成することによる。またジャガイモが褐変するのは、オキシゲナーゼ(oxygenase)により、チロシンからDOPA(3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)が生成し、さらにチロシナーゼ(tyrosinase)により、重合体のメラニン(melanine)という黒褐色の着色物質を生じるためである。

②アスコルビン酸酸化酵素 (ascorbate oxidase)による褐変:
 果汁、乾燥果実の褐変にはアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に酸化するアスコルビン酸酸化酵素が関与する、デヒドロアスコルビン酸はそれ自身またはアミノ化合物などと非酵素的に反応し褐変する。
 以上の例のように酵素的褐変には、酸素,酸化酵素、基質の3者の存在が必要であるから、褐変を防止するにはそのうち一つでも除去すればよい。実用上有効なのは加熱処理、いわゆるブランチングである。これによって酵素を失活させる。一方、ポリフェノールオキシターゼの作用を積極的に利用した例は紅茶である。茶生葉を発酵させることによって、カテキン類が酵素的酸化をうけて紅茶の紅色を決定づけるテアフラビンが生成する。

2. 非酵素的褐変

 還元糖、少糖類、フェノール類、脂質、アスコルビン酸などの電気陰性度の高い酸素原子を有する化合物と、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などのアミノ基をもつ化合物の反応による広義のアミノ・カルボニル反応や成分それ自身の重合反応によって褐変する。したがって、ほとんどすべての食品成分が関与している可能性がある。

①カラメル化反応 (caramelization):
 糖類を加熱すると、カラメル(caramel)とよばれる褐色物質が生成する。味噌、醤油、パン、ビスケットの褐変の一因となる反応である。

②メイラード反応 (Maillard reaction):
 アミノ酸、ペプチドやタンパク質と還元糖が反応して、メラノイジン(melanoidin)とよばれる褐色の物質が生成する。この反応は、1912年MAILLARD L.C.が発見したことから、 MAILLARD反応(メイラード反応、マイヤー反応、マイヤール反応)とよばれている。味噌、醤油の褐変の主要な反応の一つである。また乳製品の褐変(乳糖とタンパク質の反応が主体)、パン、ビスケット、果汁・乾燥果実などの褐変もメイラード反応によるところが大きい。

③酸化による着色:
 酸化作用を利用した着色には、次の4つがあげられる。
a)ポリフェノールの酸化
b)アスコルビン酸の酸化,
c)油の自動酸化から生じるアルデヒドが酸化重合することによる褐変
d)ヘムタンパク質の酸化
 これらの酸化反応による褐変は、鉄、銅などの金属イオンによって促進されるし、アミノ酸などのアミノ化合物によっても着色が促進される。
食品では、次のような例があげられる。
a)の例として、味噌、醤油の褐変
b)では果汁・乾燥果実の褐変
c)では油の褐変
d)では筋肉タンパク質の一つであるミオグロビンが空気中の酸素により酸化されるとメトミオグロビンに変化し褐色化する。
肉を加熱調理すると褐色になるのも、この反応による。

④金属との結合による着色:
 茶の着色のように茶のタンニンと鉄が結合して、黒色のタンニン鉄を生じる。非酵素的褐変には、あらゆる食品成分が関与しており、褐変を促進または防止するには食品の素材を考慮して行なわなければならない。
褐変を有効に利用したものでは、水産練製品やコーヒー、ケーキなどの嗜好品のように食品の色、フレーバーに好ましい状態を与える場合がある。また食品の品質をそこなう場合の褐変防止には、一般的に水分活性(0 .4以下にする)、温度(10℃ 以下にする)、pH (pH5以下とする)などの制御、共存金属イオンの除去、亜硫酸塩などの添加が考えられる。

以上