「なぜお茶はおいしいのか?」お茶の不思議を考える

「なぜお茶はおいしいのか?」お茶の不思議を考える
“Why is tea delicious?” Thinking about the wonders of tea

 PETボトルの普及に伴い、持ち歩くにも便利なこともあり近年、販売量が急激に増えている。飲料メーカーにおいても、嗜好品としての飲み物としてコーヒー飲料とともに各社それぞれ力を入れている。人気の秘密は、お茶に含まれている成分にあるが、特にポリフェノールの一種であるカテキンには、さまざまな健康効果があるとされている。そのほかにも、眠気防止効果を持つカフェイン、リラックス効果が期待できるテアニン、各種ビタミン、ミネラルも含んでいる。
 近年、特に注目されている“お茶”について「なぜお茶がおいしいのか?」リーフとドリンクにおける原材料の視点で解説することにする。

1. 日本の茶樹には、どんな品種があるか?

 2016年時点で農林水産省に登録されているのは、57品種である。さらに研究機関で名前が付けられているものを含めると、118を超える品種がある。その中でも代表的なものは、次の通りである。
 2017年6月の農林水産省「茶をめぐる事情」のデータを基に全国における緑茶の品種別内訳を図1.に示す。

図1.全国における緑茶の品種別栽培面積(2015年度)
図1.全国における緑茶の品種別栽培面積(2015年度)
引用先:農林水産省「茶をめぐる情勢」(2017年6月)データを基に作成

全国における緑茶の品種別栽培の多い品種の旨味、渋味、香りなどのバランスを5段階評価で比較した一覧を表1.に示す。

表1.品種別評価比較(5段階)
表1.品種別評価比較(5段階)

引用先:「日本茶ふせん」そふと研究室のデータを参考に作成

2. お茶の旨味を左右するアミノ酸の働き

 お茶には、いろいろな成分が含まれている。その中でも「お茶の味」を決めている成分はアミノ酸、カテキン、カフェインの3つである(図2.)。これらの性質を理解しておくことが重要になる。

図2.お茶の味を決める3つの成分と主な物質
図2.お茶の味を決める3つの成分と主な物質

 まず、お茶に含まれているアミノ酸は、その旨味のもとといえる成分である。茶葉にはさまざまなアミノ酸が含まれており、テアニン、アスバラギン酸、グルタミン、グルタミン酸ナトリウム、アルギニン、セリン、γ-アミノ酪酸(GABA)など15種類あまりが知られている。その中ではテアニンが最も多く、含有量はアミノ酸の50%占めている。テアニンは、お茶の旨味の主成分といわれている。しかしながらテアニンだけでは旨味を増すことができず、他のアミノ酸と組み合わさることで旨味が感じられるようになっていると考えられている。また、テアニンを摂取すると、α波が出現することが報告されている。α波には、心身をリラックスさせる効果や脳機能に与える影響(ストレス緩和)があるとされていて、近年、特に注目されている。テアニンの効果には、血圧上昇の抑制、ドーパミンの放出促進などがある。
 テアニンのほかに注目されているお茶のアミノ酸として、アルギニンがある。単体で摂取すると苦味の成分として働くことがわかっているが、最近の研究で、アルギニンが多いと美味しいお茶になることが報告されている。そのため、特に旨味が重要視される抹茶や玉露をつくるためには、このアルギニンをいかに多くするかが重要なキーポイントとなっている。ただ、このアルギニンを増やすとなぜ旨味が増すのかメカニズムについて解明されることが待たれている。

3. 苦渋味をもたらすカテキンの働き

 お茶の渋味、そして苦味をもたらすのがカテキンで、ポリフェノールの一種である。茶葉に含まれるカテキンは主に4種類あり、2つのタイプに分かれる。タイプ別に解説すると、苦味をもたらす遊離型で、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)がある。次に苦渋味をもたらすガレード型で、エピカテキンガレード(ECG)、エピガロカテキンガレード(EGCG)である。緑茶に含まれるカテキンの内、約50%はエピガロカテキンガレード(EGCG)である。ちなみに、エピカテキン以外の3種類は、お茶特有のカテキンである。
 カテキンは、健康効果があり、突然変異抑制作用による生活習慣病やがんの予防に有効といわれている。お茶のカテキンやアスコルビン酸にはそれを抑制する効果がある。
次に、ポリフェノールの一種であることから、抗酸化作用も注目されている。近年では、お茶のカテキンは脂肪の分解と消化に寄与していると推察されたことから、特定保健用食品(トクホ)のペットボトル商品が販売されている。この研究成果は“花王”の発表がよく知られている。これは、1日約540mgの茶カテキンを長期間摂取した場合、内臓脂肪の減少が見られるという報告である。最近の傾向として、高濃度茶カテキンを含む飲料が流行し、カテキン以外のポリフェノール類を添加したものなども販売されダイエット効果が期待されている。ただし、何事も過度な摂取は禁物である。

4. 苦味成分カフェインの働き

 カフェインは、カテキンより軽い苦味を感じさせる成分で、さまざまな植物に含まれており、C8H10N4O2という化学式で表せるものか、それが水分子を含んだものしかない。カフェインに、覚醒、興奮作用があることはよく知られている。表2.にカフェインの含有量例を示す。

表2.カフェインの含有量例一覧
表2.カフェインの含有量例一覧

引用先:食品安全委員会「食品中のカフェインファクトシート」(2018.02.23)より抜粋

「お茶にはカフェインだけでなく、リラックス効果のあるテアニンも含まれているが、どちらの効果が強いか」最近の研究では、テアニンがカフェインの興奮作用を抑制することが報告され周知されるようになった。リラックス効果を高めたいときには、お茶を飲むのがよいということがわかる。ただし、これにも条件があり、60~70℃といった低温のお湯で淹れたときである。淹れた液中のカフェイン含有率が最も多いのは玉露である。次は、抹茶、そしてコーヒー、紅茶の順である。
 カフェインはその中毒性が注目されることもある。欧州食品安全機関など各国は、健康な成人の体に影響がない最大摂取量を400mg/日としている。さらに子どもや妊婦には少ない基準が設けられている。
 カフェインの生物学的な半減期は摂取してから4時間程度ということなので、1日に複数回飲む場合、摂取量を少量ずつ、時間をおいて飲むようにするとよい。ただし、玉露は旨味が強いので飲む頻度に、特に注意が必要である。

5. 育つ間に旨味や苦渋味が変化する

 茶葉に含まれるアミノ酸、カテキン、カフェインは、茶樹の栽培条件によって、生成される量が異なる。茶葉・茎は根から窒素化合物を吸収してアミノ酸を合成し、それを茎や葉で使って、成長していく。このアミノ酸が、前述したお茶の旨味のもとで、その代表がテアニンである。
 茶畑では、旨味をどんどん増やそうと、窒素肥料を使うこともよく行われている。その効果は新茶に強く現れ、二番茶以降よりおいしい理由と考えられている。
また、旨味成分のテアニンは、葉が太陽光を浴びて光合成を行うと、分解されて苦渋味成分のカテキンに変化する。そのため、テアニンは、育ちきった葉より新芽に多く含まれ、あまり光合成をしない茎によく残ることが知られている。玉露や碾茶(抹茶の原料)などの畑で、太陽光を遮る覆いを使うのも同様の理由である。
 なお、日本茶や中国茶に使われる中国種より、紅茶に使われるアッサム種の方が、酸化酵素の活性が強く、カテキンを多く含むため、紅茶は苦渋味を楽しむお茶になったといえる。ここまで解説してきたアミノ酸、カテキン、カフェインのほか、お茶にはビタミン、ミネラル分などが含まれているが、味にはあまり関係しない。お茶に含まれるビタミン・ミネラルの例を表3.に示す。

表3.お茶に含まれるビタミン・ミネラル(浸出液100gあたり)例の一覧
表3.お茶に含まれるビタミン・ミネラル(浸出液100gあたり)例の一覧

引用先:「日本食品標準成分表2015年版」より抜粋一部改編
**印:最小記載量以下を表す

 ちなみに、製茶の過程では、加熱して香ばしくなるといった場合があるが、旨味、渋味、苦味は大きく変わらない。煎茶やほうじ茶、ウーロン茶、紅茶から受ける印象が大きく違うのは、その色や香り、淹れ方も強く影響している。

6. なぜいろいろな色のお茶があるのか?

 お茶にはいろいろな色のものがある。乾燥させて売られている状態なら、煎茶は緑色、ほうじ茶は茶色、紅茶は赤褐色、ウーロン茶は淡い緑色から褐色である。これらのような違いが見られるのはなぜであろうか。摘み取られた茶葉では、内部に含まれている酸化酵素が働くことなどから、その酵素の働きをいつ止めるかなどにより、違った色になる。
 まず、煎茶の緑色は葉緑素由来である。次に、ほうじ茶が茶色なのは、緑色の茶葉を加熱した際に、カテキン、糖、デンプン、ビタミンC、脂質、タンパク質、アミノ酸などが変化するためである。これらがさまざまに反応して、あの焼き色や香ばしいフレーバーが生まれる。最も特徴的なのが、糖とアミノ酸が反応するメイラード反応で、このときに生じる褐色色素は、メラノイジンと総称されている。
そして、紅茶の赤褐色は、摘んで萎らせた葉を、加熱することなく揉んでいくことで生まれる。葉内のカテキンが、酸化酵素ポリフェノールオキシターゼに反応して酸化し、カテキンどうしがくっついて分子量の大きい化合物となる(酸化重合)。その化合物がテアフラビンという橙赤色色素、そしてテアルビジンという赤褐色色素なので、赤っぽい色になる。
 最後に、ウーロン茶は煎茶より酸化を進行させ、紅茶ほど酸化させないものなので、その中間的な位置になる。ちなみに、煎茶のカテキンは無色で、ウーロン茶にもカテキンは残っている。炒って酸化をとめるため、テアフラビンなどは紅茶より少なく、全体が茶色っぽく見える。
 また、それぞれのお茶は、茶葉の色だけでなく、淹れたときの水色も違うが、おおむね上述に準じた色をしている。ただ、茶葉の葉緑素に含まれる緑色のクロロフィルは、そのままでは水に溶けない。生葉を加熱・乾燥させると、クロロフィルが変化して、クロロフィリッド、フェオフィチンなどになり、これが組み合わさって緑色になるといわれている。ちなみに、高級煎茶や玉露の水色は、真緑というより、黄みがかった色をしているが、この黄色は、フラボノール配糖体、C-グリコシルフラボン配糖体によるものである。

7. なぜよい香りがするのか?

 お茶の香りについては、現在もわかっていないことが多い。多くの研究によって少しずつ、そのメカニズムが明らかになってきている。お茶の香気成分として同定されている化合物は、現在700種以上ある。
 これは、生葉に含まれていたテルペン配糖体、カロテノイド、脂肪酸、アミノ酸、糖、カテキン類、リグニン類などが栽培・製茶中に変化したものである。お茶の香りの例を表4.に示す。

表4.お茶の香りの例一覧
表4.お茶の香りの例一覧

 例えば、煎茶の爽やかな香りは、「青葉アルコール」などによるものだといわれている。この成分は、生葉にあるリノレン酸やリノール酸が変化することで生まれると考えられている。また、茶樹に覆いをしてつくったお茶には、海苔のような「覆い香」がするが、これはジメチルスルフィドという物質が原因とされている。覆いをすることで、アミノ酸の一種であるメチルメチオニンスルホニウム(ビタミンU)が増えるが、製茶中の加熱を経て、ジメチルスルフィドとなる。
そして、ウーロン茶や紅茶には花のような香りを持つものが多く、ダージリンなどのように、果物に例えられる香りを持つものも少なくない。例えば、マステルフレーバーは、3,7-ジメチル-1,5,7-オクタトリエン-3-オールなどによるものと考えられている。ただ、ダージリンにしても、マスカットのような香りの他に、花のような香り、甘いバニラのような香り、青葉の爽やかな香り、スパイシーな香りを感じさせる成分などを含んでいる。このようにさまざまな要素が重なって、それぞれのお茶の複雑な香りが構成されている。

8. おいしいお茶には「適温」がある

 ここまで、さまざまな種類のお茶があること、そしてその生育や栽培、製茶の仕組みを通じて、それぞれの特徴があることがわかる。旨味を引き立てる煎茶なら、まずお湯の温度が大切です。お茶を淹れる際の温度や時間の目安を表5.示す。

表5.お茶を淹れる際の温度や時間の目安一覧
表5.お茶を淹れる際の温度や時間の目安一覧
図⒋温度や時間によって異なる煎茶成分の溶出割合
図⒋温度や時間によって異なる煎茶成分の溶出割合
引用先:日本茶業学会「煎茶の浸出条件と可溶成分との関係」

 煎茶を熱湯で淹れた場合、苦渋味成分のカテキン、苦味成分のカフェインが多量に出るので、その苦渋味に、アミノ酸の旨味が負けてしまう(図⒋)。
 人の味覚としても、高温より低温の方が旨味を感じやすいので、低めの温度がよいことになる。熱湯のまま淹れると、カフェインの効果を得やすくなる。
 また、カテキンもその健康効果が注目されているが、カテキンの一種、エピガロカテキンは冷水で浸出されることが知られている。「カテキンやビタミンCを多く、カフェインを少なくしたい」という場合は、冷茶にするのも効果的である。エピガロカテキンは、紅茶のテアフラビンなどより分子量が小さく、吸収されやすいと考えられている。一方、ウーロン茶や紅茶は、煎茶よりアミノ酸が少なく、香りや渋味を引き出すために熱湯で淹れる。熱湯で淹れると揮発性の香気成分がしっかりと抽出され、カテキン類やカフェインも多く抽出するので、香り高く、メリハリのある味になる。

最後に
 PETボトルや缶といった飲料メーカーで大量につくられるお茶は高級茶葉を用いて抽出されてはいない。二番茶、三番茶などが使われ、あるいはブレンドされた茶葉の原材料が使われたお茶が販売され、いつでも気軽に飲めるものになった。しかしながら、機会があれば、急須やティーポットなどを使って新芽の高級茶と飲み比べてみるのもよい。飲み比べてみると旨味や香りなど違いがわかる。
 コーヒーとも通じるものがあるが、原材料や産地、茶葉の処理の仕方によって味わいが異なることである。飲料製造設備で数多くの清涼飲料にも携わっているが、大量生産プラント設備でつくるお茶であっても、高級茶葉特有の原材料の特徴を知り活かしたあるべきお茶の味を製造設備においても表現できるように考えたいものである。

以上

【引用先】 1. お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ
著者:大森 正司発行:ブルーバックス
2. おいしいお茶の秘密
著者:三木雄貴秀 発行:SB Creative
3. 日本茶のすべてがわかる本―日本茶検定公式テキスト
発行:日本茶検定委員会、 日本茶インストラクター協会
4. H.P内「食品工場キーワード」
技術用語解説10『茶(緑茶)飲料 (Tea (green tea) beverage )』
https://www.kimoto-proeng.com/keyword/1317
5. 参考:農林水産省品種登録ホームページ
http://www.hinshu2.maff.go.jp/