2021/06/06
『浮体式洋上風力発電シンポジウムオンライン配信無観客を聴講』
環境省浮体式洋上風力発電広報アンバサダーとして就任された“科学のお姉さん”五十嵐美樹さんとは月刊誌「機械設計」でのご縁があり6月5日シンポジウムに参加する予定であったが、コロナ禍によりオンライン無観客での配信を聴講することになった。もう一つ過去のブログでも触れているが、ギアーメーカーに在籍していたときに、洋上風力発電の風車に用いる増速機(遊星歯車機構)の開発設計に携わった関係で興味があった。
シンポジウムでは、地産地消型浮体式洋上風力発電に関する国内外の動向、地域振興、雇用創出、漁業協調など各自治体の「現状の課題」、「地域地産型浮体式導入への期待」、「浮体式導入への地域の課題と解決策」のテーマを7名のパネラーで食とエネルギーや再生可能エネルギー、水素、EVなど幅広く活用した事例を基にパネルディスカッションがされた。
そこで気になる“洋上風力発電”について日本の現状について技術屋目線でまとめてみる。
2050年温室効果ガスゼロへ向けて、今年は実質的な各種の取り組みがスタートする年といえる。その実行計画で、エネルギーの電化を進めて再生可能エネルギーを最大限導入し、その切り札として洋上風力発電を大型火力45基分導入する目標を国が打ち出している。
ただ、国内の洋上風力は先行するヨーロッパから30年遅れでほとんど実用化されておらず、本当に実現できるのか、課題は山積で洋上風力拡大には何が必要か探ってみよう。
2050年温室効果ガスゼロの実行計画となるグリーン成長戦略の柱は化石燃料に頼ってきたエネルギー利用の電化推進である。その切り札と位置づけられたのが洋上風力発電となった。
毎年100万kWずつ増やし2030年に1000万kWに。これは大型風車を毎年100基以上海に設置するイメージである。そして2040年には3000万から4500万kW、大型火力45基分にまで引き上げる目標を打ち出している。
ただ実現には相当な困難を伴うことが容易に想像できる。というのも日本は完全に風力後進国となってしまったからである。これまでの導入量は陸上中心に360万kW、大型火力3基分あまりしかなく、電力の0.7%を賄っているに過ぎない。なぜ普及しなかったのか。
これまでの設置場所は陸上だったが、平地で風が強い適地が限られ、設備が大型で景観を損ねること、風車の騒音も問題になった。このため環境アセスメントに時間がかかったことが主な原因といえる。さらに国レベルでの政策的な後押しが弱かったことも大きな足かせになってきたと感じる。
そこで再エネ拡大のために、国が手を付けざるを得なかったのが未開の洋上風力だったわけである。海底に据え付けたり、深いところでは海上に浮かせたりと、陸上より技術的にハードルが上がるが、日本は四方を海に囲まれ大量導入が可能で、風が強く発電量も増える上に、騒音問題の心配も少なくなる。さらにヨーロッパでは30年前から導入が進み、コストが下がってきたことも後押ししている。
現在位置で言うと日本の洋上風力は原発事故以降国が実証用に設置した実績はわずか5基。
そこで国は今回の布石として風が強く、漁業者の理解が得られた海域を、洋上風力を30年運用できる促進区域に指定する制度をつくった。これまでに長崎や秋田、千葉の5海域を指定して事業者を公募しており、東京電力などの大手電力や商社などが関心を示しているようだ。そして今回の実行計画で、海域の風や地質の調査を国主導で行うなど、経済産業省と国土交通省にまたがる審査を一本化しての事業者支援をする方針のようである。
今後大きな課題がいくつもあり、まず必要なのは技術、人材の再構築であろう。というのも日本ではもはや大型風車を作れなくなってしまったからである。以前は日立や三菱などが陸上風車を手がけていたが、国内で売れず全て撤退し、技術も人材も散逸してしまった。現在洋上風車は1基1万kW、東京タワーに迫るほど大型が主流で日本メーカーだけではつくることが困難となってしまった。当面は海外メーカーからの輸入に頼るほかない。
ただ洋上風車は1基あたり部品が数万点に上り、1か所数十基設置すれば事業規模は数千億円にのぼる一大産業となる。またメンテナンスも必要で、国内でサプライチェーンを再構築し風力産業を復活させていかなければならない。そのためには専門的な人材の育成が不可欠で、今後10年で8000人以上の海洋技術者の育成が必要という試算も出ている。その点参考になる話として沿岸が促進区域に指定された長崎県の取り組みで、洋上風力の法律関連や技術面の基礎知識を学ぶなど民間のNPOや長崎県、長崎大学などが立ち上げた人材育成機関・海洋アカデミーなど人材育成に向けた紹介がされていた。
そしてもう一つの大きな課題は洋上風力で作った電気を送る送電網の整備である。大手電力の地域独占時代に作られた送電網は地域を越えたやりとりに制約あり、特に北海道から本州へ電気を送る送電線の容量は少なく、あらたな送電網を検討する必要がある。
シンポジウムを聴講してみて、2050年温室効果ガスゼロに向けて、洋上に風車があるのが当たり前の風景になるために必要な技術開発が加速して進展することを期待する。
以上