2021/08/16
技術用語解説24『膜乳化 (Membrane Emulsification Method)』
1. 膜乳化とは
膜乳化とは、分散相液体を多孔質膜の細孔を通して微小液滴化し、連続相中に分散させることによりエマルションを得る乳化法である。ここで、分散相(内相)とは微小液滴として分散している液相,連続相(外相)とは分散相液滴を取り囲んでいる液相のことをいう(図1)。
この膜乳化で調製されるエマルションの液滴径は、分散相が通過する膜の細孔径によって決まることから、多孔質膜の細孔径でエマルションの液滴径を任意に制御でき、細孔径が均一ならば単分散エマルションの調製も可能である。
膜乳化では、膜の細孔を通過しない物質や細孔を詰まらせてしまう成分を含む系を乳化することはできないが、単分散性と安定性が高いエマルションを調製できることに大きな特徴がある。この膜乳化には、多孔質膜を介して分散相液体を直接連続相中に圧入分散させる方法と、予備乳化した粒子の粗いエマルションを、多孔質膜を介して膜乳化を行う方法とがある。
2. 膜乳化の条件と乳化特性
膜乳化法では、分散相と連続相にそれぞれに油と水を用いることにより水中油型(O/W)エマルションが調製でき、油中水型(W/O)エマルションを調製する場合はその逆とすればよい。膜乳化を良好な状態で行なうためには、膜乳化中は膜の細孔が連続相液体で十分濡れているように保つことが必要であり、連続相が水の場合は親水性膜,油の場合は疎水性膜を使用する。膜の細孔に分散相液体を直接透過させる膜乳化で、細孔を連続相で濡れた状態に保つにためには、次のような条件が必要である。
(1) 使用した多孔質膜と親和性のよい乳化剤を連続相に使用すること
(2) 分散相の膜透過速度を膜透過の下限速度よりあまり高くない範囲に抑えること
(3) 連続相を撹拌または循環させること
(4) 分散相濃度をあまり高くしないこと
などの注意が必要である。
これらの条件が満足されないと、粒径分布の広い多分散エマルションとなったり、膜乳化そのものが不可能となったりする。この分散相の直接膜乳化法では、乳化速度を高くできないことから、少量でも高い単分散性が要求される場合や付加価値の高いエマルションの調製への利用が検討されている。食用油脂類を用いて単分散性の高いエマルションを得るためには、連続相だけでなく分散相にも乳化剤を適量添加することが望ましい。分散相液体の直接膜乳化法で調製されるエマルションの平均粒径は、膜の平均細孔径の3.25倍または5倍とされている。
安定性が高く単分散なエマルションを調製できる膜乳化の利用を食品分野で促進するためには、膜乳化法の生産性を改善することが必要である。その一方法として予備乳化を伴う膜乳化法がある。この予備乳化法では、緩やかな条件での予備乳化によって分散相粒子界面を予め連続相で覆っておき、その予備乳化エマルションを膜乳化させるため,膜が分散相液体で濡れる危険性は格段に少なくなる。この方法では、連続相の撹絆や循環を行う必要がないため乳化装置と操作が単純化できることに加え、分散相液体(予備乳化エマルション)の膜透過速度に制限がない。この方法で調製されるエマルションの平均粒径は膜平均細孔径の約2倍程度とされる。
3. 食品エマルション用の多孔質膜
膜乳化法を食品分野へ利用するためには、細孔径分布が狭く、無害でしかも耐薬品性が高く、洗浄によって親水性又は疎水性が損なわれないような多孔質膜の開発が望まれる。
現在、膜乳化では主に親水性の高いガラス多孔質膜(通常SPG膜と呼ばれている)が用いられているが、基本的には膜が親水性であればO/Wエマルション、疎水性であればW/Oエマルションが調製できる。但し、膜乳化の良否には膜の親水性又は疎水性の程度に加え、使用する乳化剤と膜との親和性も関与すると考えられる。
以上
【参考記事】
H.Pライブラリー【技術レポート】2021.07.13 「食品膜製造技術に用いる無機膜」