『乳製品 (クリーム、バター及びチーズ) の基礎知識』

『乳製品 (クリーム、バター及びチーズ) の基礎知識』
Basic knowledge of dairy products (cream, butter and cheese)

1. 加工乳・乳飲料

 加工乳や乳飲料は牛乳と異なり、原材料に必ずしも生乳を使用しなくても製造することができる。加工乳では原料に使用する乳製品(脱脂粉乳、クリーム、バター)の配合割合を変えることによって、成分の調整を自由に行うことができる。したがって低脂肪タイプ、高脂肪タイプ(濃厚タイプ)などの製品をつくることができる。
 乳飲料は乳固形分や乳脂肪分についての規定がなく、他の食品や食品添加物を加えることができるため、さまざまな嗜好性に対応することができる。「コーヒー〇〇」や「フルーツ△△」などはその代表例である。
 近年は健康志向の高まりに呼応して、カルシウム強化、ビタミン強化、鉄強化などを行った製品が製造されている。MBPは乳塩基性タンパク質と言われるもので、もともと牛乳中に微量に含まれているが、この成分を特殊な方法で強化した原料を用いたものである。その他の乳飲料として、鉄ラクトフェリン添加(鉄を強化)したものや、乳糖不耐症の人のために牛乳中の乳糖を酵素によって一部加水分解したものなどもある。

2. クリーム

 クリームと呼ばれるのはいわゆる生クリームである。クリームは新鮮な牛乳を遠心分離機にかけて脂肪分の高い部分を集め、殺菌したものであり、バターの原料となるほか、コーヒー用クリーム、ホイッピングクリームなどに使用される。脂肪含量(脂肪率)はバター用クリームで30~40%、コーヒー用クリームで20~30%、ホイップクリームで25~40%である。
 クリームの性質には乳脂肪の物性が大きな影響を与える。コーヒークリームのフェザリング(コーヒーに淹れると羽毛のように固まる現象をいう)やホイッピングクリームのホイップ時間、安定性などはクリームの製造工程だけでなく、流通・保管条件(温度変化)に大きく依存している。なお植物性脂肪を混合したものは、乳製品に該当しないので表示については留意する必要がある。

3. バター

 バターの製造工程を図1.に示す。生乳から遠心分離したクリームを殺菌冷却し、その後3~10℃で8~12時間保持する。保持の間に温度を変化させることも行われる。この操作をエージング(熟成)という。エージングの目的は、殺菌によって融解した脂肪の結晶を再形成させ、安定化させるためである。クリーム中では脂肪は平均直径3μmの球状粒子として水相中に分散している(O/Wエマルションという)。脂肪球の表面にはタンパク質やリン脂質、糖脂質などからできた乳脂肪球皮膜(以下MFGM:Milk Fat Globule Membraneの略)があり、これが脂肪球同士の凝集を抑制している。加熱殺菌されたクリームの脂肪球内部では、すべての脂肪が一旦液状になるが、冷却によって徐々に結晶化する。乳脂肪には高融点~低融点の各種の脂肪が含まれているが、急速に冷却するとこれらの脂肪は混合結晶になる。しかし徐々に冷却する場合は、最初に高融点脂肪結晶化し、脂肪球内部で最も皮膜に近い部位(表面)に集まり、低融点脂肪は脂肪球中心部に集まるようになる。

図1. バターの製造工程
図1. バターの製造工程

 エージングを終了したクリームに激しく機械的な衝撃を与え、バター粒をつくらせる。この工程はバター製造の最も基本的な部分であり、チャーニングと呼ばれる。古典的な方法ではクリームを木の樽に入れ、手で樽を回転させていた。この原理をそのまま大きくしたものがメタルチャーンであり、現在でも一部使用されている。ステンレス製の大きなキュービック形状をした容器にクリームを入れ機械的に撹拌するものである(写真1.)

写真1. ステンレス製角型バターチャン
写真1. ステンレス製角型バターチャン

 チャーニングはクリームに撹拌などの激しい機械的衝撃を与えてMFGMを破壊し、内部の脂肪を外部に流出させる操作である。流出した脂肪同士は凝集して大きな粒になる。これがバター粒と言われるものである。この変化は模式的に図2.のように示される。すなわちチャーニング工程ではMFGMの一部が破壊され、流出した脂肪同士が接触し、これを残ったMFGMが新しく覆って大きな粒子をつくる。このような粒子をグラニュールという。チャーニングの基本は脂肪のグラニュールをつくる工程である。この工程によりO/WエマルションはW/Oエマルションに変化する。

図2. チャーニングによるバター粒の形成過程
図2. チャーニングによるバター粒の形成過程

 グラニュールは脂肪球より大きいため、安定した状態で水相中に分散できずに分離する。チャーニングの開始直後はグラニュールの大きさは小さいが、チャーニング時間の経過とともにグラニュールは次第に大きくなり、チャーニング終了直前には数cmにもなる。その結果水相とグラニュールとが分離する。分離した水相をバターミルクという。バターミルクには脂肪やタンパク質、脂肪が含まれているが、特にリン脂質が多く含まれており、乾燥して育児用粉乳などの原料に使用される。
 クリームは殺菌後冷却される。もし冷却を数日かけてゆっくりと行えば、脂肪の結晶化は徐々に進行し、融点ごとの脂肪結晶が生成されるが、微生物による二次汚染を防ぐためと、工程の効率化を図るため、通常は急速冷却される。この状態でチャーニングを行うと、融点の異なる乳脂肪の混合結晶からできたバター粒が生成され、微細な結晶が緻密に分布して、液状脂肪が少ない組織となり、結果としてバターは硬くなる。クリームの熟成は冷却されたクリームをある温度まで昇温して少なくとも2時間程度保持して混合結晶を再溶解させ、再び所定の温度まで冷却する工程である。その結果、高融点脂肪は溶解せず微細結晶のまま存在するが、溶解した低融点脂肪は液体脂肪の連続相を形成する。冷却・結晶後の脂肪結晶の再溶解温度と再結晶温度を選ぶことにより、混合結晶の量、固体脂肪と液体脂肪の比率が決定される。実際の操作ではこれらの温度は季節により変化する。すなわち原料クリーム中の脂肪の硬さ(ヨウ素価)に応じて決められる。その事例を表1.に示す。

表1. クリームの熟成における温度変化の事例
クリームの
ヨウ素価(注)
温度変化
冷却温度 加温温度 熟成温度
<28 8 21 20
28~29 8 21 16
30~31 8 20 13
32~34 6 19 12
35~37 6 17 11
38~39 6 15 10
>40 20 8 11

(注):ヨウ素価とは、不飽和脂肪酸含量の目安で夏は高く冬は低い

バターが低温では硬いことはよく知られているが、これは乳脂肪の脂肪酸組織によるもので、基本的には変化させることはできない。古くからバターの硬さを改良するための試みが多く行われてきたが、その一つは脂肪結晶の大きさと数をコントロールしようとするものである。すなわち、高融点脂肪の微細結晶(HM)が連続的に広がると硬いバターになるため、クリームの熟成温度と時間を調節して、最終的に低融点脂肪(LM)連続相中に高融点脂肪の結晶を取り込ませ、HMの連続相を少なくする方法である。この方法はArlnap法といわれ、クリーム熟成の基本となっている。
 チャーニングはバター製造の基本であるが、従来の方法は非連続式であった。すなわち1回にチャーニングできるクリームの量は装置の大きさに依存していた。これを連続的に行う装置が開発され、現在ではほとんどのバターが連続式チャーニング法により製造され、さらにワーキングも同時に行えるようになった(図3.)

図3. 連続式バター製造機と模式図
図3. 連続式バター製造機と模式図

 ワーキングは、練圧と言われる操作である。チャーニングによりつくられたバター粒子には水滴が含まれているが、バター粒子の大きさや水滴の大きさと分散状態はさまざまである。ワーキングはバター粒子を集めて機械的に混錬し、バター粒子を結合させて連続層をつくり、その中に水滴を均一に分散させる操作である。チャーニング終了時にはエマルションの構造はW/Oに変化しているが、この状態を安定化させる操作がワーキングである。必要に応じて食塩を添加(加塩)することも行われる。
 古典的な方法ではワーキングは木製の台上で木製のローラを用いて手でこねていた。非連続式製造法ではチャーニング終了後、バターミルクを除去した後、さらにチャーニングを回転させることにより行われる。連続式製造法では、装置の前方に送られたバター粒がスクリュにより目皿に押し込まれ、その結果練圧される。ワーキングを終了したバターは最先端から帯状に押し出される。
 クリーム中では脂肪球が1個ずつばらばらに存在し、連続相を形成している。水相中にはカゼインミセルの小さな粒子が分散していることが分かる。一部のカゼインミセルは脂肪球表面に吸着されている。これが典型的なO/Wエマルションである。一方チャーニング終了後のバターの組織では、脂肪が連続相を形成しており、水相は細かな粒子となって分散している。この中に食塩などが溶解している。脂肪結晶には比較的大きいもの(LM)と細かいもの(HM)の2種類あることが知られている。大きい方は低融点脂肪の結晶であり、細かな方は高融点脂肪の結晶である。これらの脂肪結晶が連続的な相を形成し、水滴は巨大な粒子となって1個ずつ分散している(W/O型)。
 ハターが低温では硬いことはよく知られているが、これは乳脂肪の脂肪酸組成によるもので、基本的には変化させることはできない。しかし乳牛に与える飼料、季節などにより脂肪酸組成は変化する。一般に夏バターは軟らかく、冬バターは硬い。これは乳脂肪中の不飽和脂肪酸含量に関係している。夏季には乳牛は青草を摂取することが多く、オレイン酸のような不飽和脂肪酸が増加するため、乳脂肪の融点は低くなる。冬季には青草が少なく配合飼料などを与えるため、パルミチン酸のような飽和脂肪酸が増加し、その結果乳脂肪の融点は高くなる。
 また夏バターでは青草に由来するカロチンなどが多いため色調は黄色味が強いが、冬バターではカロチンが少ないため色調は白っぽくなる。市販されているバターでは、年間を通じて一定の硬さや色調となるよう、原料バターを配合して製造されている。また低融点脂肪画分を用いてバターをつくる方法、乳牛に不飽和脂肪酸の多い資料を与える方法があるが、まだ一般的なものとはなっていない。
 バターを軟らかくする簡便な方法としては、冷蔵庫から取り出したバターを使用する分だけ容器に取り分け、ナイフや箸などでよくこね混ぜることが有効である。これは混練によってHMの連続相が破壊されるためである。また、ソフトバターと言われるホイップしたものもあるが、これはバターに窒素ガスを吹き込みながら激しく撹拌して、窒素の微細な気泡をバター中に分散させたものである。しかしこの方法も一定の限界があるので留意する必要がある。

4. チーズ

 チーズは乳酸菌や酵素の働きで乳を凝固させ、水分(可溶性成分を含む)を除いたものである。凝固したものをカードと呼び、凝固しない水相を乳清(ホエイ)という。カードを一定の形に成形し、温度と湿度を一定にした条件下で熟成したものがナチュラルチーズであり、ナチュラルチーズを数種類混合して、加熱溶解殺菌したものがプロセスチーズである。ナチュラルチーズの分類法は硬さによる方法と、熟成方法の違いによる方法がある(図4.)

図4. チーズの分類(硬さによる分類)
図4. チーズの分類(硬さによる分類)

(1) ナチュラルチーズ
 ナチュラルチーズの製造法は種類によって異なるが、図5.に代表的な事例を示す。

・硬質チーズ (グラナ)

硬質チーズ (グラナ)

・半硬質チーズ (ゴーダ)

半硬質チーズ (ゴーダ)

・カビ熟成チーズ (カマンベール)

カビ熟成チーズ (カマンベール)
図5. チーズ (熟成タイプ) の製造工程例

基本的な工程は乳を凝固させてカードをつくることで、これをカードメイキングという。古典的な、あるいは小規模な工場では、開放型のチーズバット写真2.左を用いてカードメイキングを行うが、大規模工場では密閉型のチーズバット写真2.右が使用される。

写真2. 開放型 (左) と 密閉型 (右) チーズバット
写真2. 開放型 (左) と 密閉型 (右) チーズバット

カードとは乳中のタンパク質であるカゼインが酸および酵素によって凝固したものである。カゼインは水に不溶性であるが、乳中ではリン酸カルシウムと複合体(ミセル)をつくって安定した状態で分散している。ミセルの表面にはカゼイン中の成分の1つであるκ-カゼインが分布している。κ-カゼインは親水性が高く、水を吸着して保護コロイドをつくっているため、ミセル同士は凝集せず安定した状態で分散することができる。
 チーズ製造では原料乳を殺菌後、スタータと呼ばれる乳酸菌などの微生物を添加する。これは乳酸を生成させて牛乳のpHを低下させ、次に添加する酵素が作用しやすくするため、また乳中のカルシウムイオン量を増加させるためであるが、さらに重要なことは、後の熟成中にスタータが生産する酵素によってタンパク質や脂肪を分解し、風味を形成させるためである。
 乳酸菌を添加して一定時間経過すると、乳のpHは5.2前後に低下する(新鮮乳のpHは6.6~6.8である)。ここで凝乳酵素と呼ばれる物質を添加する。凝乳酵素は通常レンネットと呼ばれ、子牛の第四胃の粘膜から抽出した成分を食塩等で希釈した粉末である。このほかにはキシモン(レンニン)と呼ばれる酵素や、ペプシンなどが含まれる。キモシンはpH5.0前後においてカルシウムイオンが共存すると、κ-カゼインのペプシド鎖の特定部位(105Phe-106Met)を選択的に加水分解してκ-カゼインを2つに分散する。N-末端から105番目までのアミノ酸がつながった部分をパラーκ-カゼイン、106番目からC-末端(169番目)までの部分をグリコマクロペプチドという。
 カゼインミセル表面に存在するκ-カゼインがキモシンにより加水分解されると、親水性のグリコマクロペプチドが除かれるため、ミセルの表面は疎水性になる。このような状態になったミセルは不安定となり、ミセル同士が接近すると、保護コロイドの役割を果たしていた水相がなくなるため、相互に接着凝集して巨大な粒子となり、安定した状態での分散ができなくなって凝固する。これがカードである。肉眼的には牛乳全体が豆腐のように軟らかく固まった状態になる。この中には水分や、脂肪、乳糖、さらにはキモシンの作用を受けなかった乳清タンパク質が含まれている。凝固したカードをさいの目状に切断すると内部に内部に含まれていた水分が分離してくる。この操作は加温して行うが、加温により豆粒状になったカードは収縮し、内部の水分がさらに除かれて硬くなる。この現象をシネレシス(離水)という。十分に水分(乳清)を除いたカードを、布を敷いた容器(木製、ステンレス製またはプラスチック製)に入れ、蓋をして機械的に圧搾しさらに水分を除く。圧搾終了後にはカード粒子が相互に結着して、一定の大きさと形を持った塊になる。これをグリーンチーズという。グリーンチーズを食塩水中に一定時間浸漬して、塩分を吸収させた後乾燥する。その後過剰な乾燥を防ぎ、また外部からの汚染を防ぐため、ワックスなどでコーティングした後、熟成庫に移す(写真3.)。熟成とは温度、湿度が制御できる場所で一定期間保管する操作であるが、熟成中には定期的に表面を清浄化する。早いものでは2~3か月、長いもの(硬質チーズ)では1年近く熟成が行われる。かび熟成チーズの場合は1~3か月で終了する。熟成中にチーズのタンパク質や脂肪はスタータの酵素によって分解され、風味物質が生成される。スタータとして一般的には乳酸菌が用いられるが、かび熟成チーズでは青かびおよび白かび、またスイスタイプチーズではプロピオン酸菌が用いられる。ウオッシュタイプチーズではリネンス菌が用いられる(表2.に示す)。写真3. はゴーダチーズへのワックスコーティング作業と熟成庫の例である。

表2. チーズスタータ用微生物の種類
スタータ
微生物
菌 株 チーズの
種類
乳酸菌 Lactococcus lactis subsp. cremoris
L.lactis subsp. Lactis
L.lactis subsp. Lactis bivar. Diacetylactis
Lenconostoc mesenteroides subsp. cremoris
全タイプ
Streptococcus thermophilus
Lactobacillus delbrueckii subsp.
Bulgaricus
L.delbrueckii subsp. Lactis
L.helveticus
L.casei subsp. casei
イタリア系
スイス系
プロピオン
酸菌
Propionibacterium freundenreichii subsp. shermanii スイス系
粘質細菌 Brevibacterium linens リンバーガ
ブリック
カビ Penicillium camembertii
P.caseicolum
P.roqueforti
カマンベール
ブリー
ロックフォール
ブルー
酵母 Geotrichum candidum
Candida lipolytica
Debaryomyces hansenii
カマンベール
ブリー
リンバーガ
写真3. ゴーダチーズのワックスコーティングと熟成庫 (撮影先:丹那牛乳) 1.
写真3. ゴーダチーズのワックスコーティングと熟成庫 (撮影先:丹那牛乳) 1.

(2) プロセスチーズ
 プロセスチーズは各種のナチュラルチーズを配合し、加熱・溶融・殺菌して製造される。プロセスチーズは加熱殺菌されているため、ナチュラルチーズのようにスタータや酵素が作用することがなく、品質が変化せず保存性に優れている。そのほかナチュラルチーズにはない風味や形態(物性)をつくり出すことも可能である。プロセスチーズの製造工程は図6.の通りである。

図6. プロセスチーズの製造工程
図6. プロセスチーズの製造工程

原料チーズを加熱融解する装置(クッカ)の一例を写真4.に示す。

写真4. プロセスチーズ用クッカ
写真4. プロセスチーズ用クッカ

加熱溶融の際には溶融塩と呼ばれる物質を添加する。溶融塩とはポリリン酸塩類、クエン酸などのような有機酸塩類(多くはナトリウム塩またはカルシウム塩)が用いられる。
 ナチュラルチーズ中ではカゼインはパラカゼインとなってカルシウムと結合しており、これは水に不溶解性である。したがってナチュラルチーズを単独で加熱すると、タンパク質は熱により収縮してゴム状になり、含まれていた水分や脂肪が分離してしまう。しかし溶融塩を加えて加熱すると、溶融塩がパラカゼイン・カルシウムからカルシウムを奪い、ナトリウムまたはカリウムと置き換えるため、パラカゼインは可溶性になる。可溶性になったパラカゼイン・ナトリウム(カリウム)は乳化剤として作用し、チーズ中の脂肪と水分を乳化して均一な組織にする。これを一定の形にして冷却したものがプロセスチーズである。
 溶融塩の種類、添加量、加熱、冷却などの条件を変えることにより、各種の特性を持つプロセスチーズをつくることができる。同じ原料ナチュラルチーズ配合を用いても、用いる溶融塩の種類が異なるとできたプロセスの味が異なることがある。これは溶融塩がパラカゼイン・カルシウムを分散させる力が異なるためであり、ポリリン酸塩類のように分散力の強いものではカゼイン粒子の間に存在している呈味ペプチドが遊離されやすくなるためと考えられる。逆にクエン酸塩類のような分散力の弱い溶融塩では、呈味成分が十分遊離されず、さっぱりした味を感じるようになると考えられる。このように溶融塩の作用をよく理解して、各種のプロセスチーズを製造することは優れた乳業技術の1つである。

(3) 新しいチーズ製造技術
・ロングライフチーズ
アルミ缶やプラスチック容器に入ったチーズで代表的なものとしてカマンベールがある。このようにある程度熟成させたナチュラルチーズをアルミ缶やプラスチック容器に充填密封しレトルト釜で加熱殺菌して造られたチーズが「ロングライフチーズ」である。
 高温で加熱することによりチーズ内の微生物は死滅し、酵素も失活するため、チーズは熟成が止まり(=状態が変化しなくなり)、賞味期限を長くすることができる(未開封・要冷蔵(10℃以下)でおよそ1年間)。プロセスチーズもナチュラルチーズを加熱殺菌することで長期保存を可能にしたチーズであるが、プロセスチーズとロングライフチーズの違いはチーズ造りの際、「乳化剤を加えて乳化する工程があるかないか」である。つまり、プロセスチーズはナチュラルチーズを粉砕したものに熱を加えて一旦溶かした後、乳化剤を加えて乳化(=組織を滑らかに均一化すること)し、固めたものであるのに対して、ロングライフチーズはナチュラルチーズを粉砕することなく缶詰めなどにパッケージングし、丸ごと加熱殺菌したものである。海外では、カマンベールのほか、ウォッシュタイプや青カビタイプのロングライフチーズも市販され、国内でも市販されるようになった。
・膜濃縮製法によるチーズ
 チーズの主要成分は脂肪とタンパク質であることから、膜(主にUF膜)でこれら主要成分を濃縮し、水分や乳糖の多くを除く(一部は残存する)と、チーズ乳の容量が少なくなり、小型の設備でチーズを製造することができる。ホエイタンパク質もカードに取り込まれるため歩留りが向上する。近年、この手法を用いて製造されたフランスの白カビタイプのチーズが輸入されている。
・代替チーズ
 一般的にはナチュラルチーズを乳タンパク、乳脂肪、水分、その他成分に分けた場合、これらの乳タンパク、あるいは乳脂肪のどちらか、あるいはその両方の一部またはすべてをそれぞれ植物性タンパク、植物油脂に置き換えた組織がチーズに似ているもの、科学的に模したもの(チーズもどき)と言えるが、定まった定義はない。そのため外観や特性(溶け方や伸び方など)、風味がチーズと似ていてターゲットとするチーズの特徴を有する代替乳製品と言える。海外では、シュレッドタイプ、スライスタイプ、ブロックタイプ、パウダータイプといった形態が販売されていて代替チーズとして認知されている。呼び方にも各種あり、「アナログチーズ」、「イミテーションチーズ」、「人工チーズ」、「植物性チーズ」などとも呼ばれることがある。ただし、国内では、食品衛生法の「乳及び乳製品の成分規約等に関する省令(乳等省令)」で規定されているチーズ(ナチュラルチーズおよびプロセスチーズ)に該当しないため、販売、使用にあたってはチーズという名称は使用できないので注意しなければならない。

以上

【参考引用先・文献】

  1. 一般社団法人日本乳業協会HP「乳と乳製品のQ&A」
    https://nyukyou.jp/dairyqa/
  2. 株式会社明治HP「明治の食育 バターができるまで」
    https://www.meiji.co.jp/meiji-shokuiku/know/lovable-milk/butter/manufacture/
  3. 雪印メグミルク株式会社HP「チーズクラブ」
    https://www.meg-snow.com/cheeseclub/
  4. カルピス株式会社HP「特選バターができるまで」
    https://www.calpis.co.jp/lineup/butter/process/
  5. NPO法人チーズプロフェッショナル協会HP「乳科学 マルド博士のミルク語り」
    https://www.cheese-professional.com/article/column/detail.php?KIJI_ID=1185
  6. 「初心者のための食品製造学」中島一郎 著 光琳
  7. 「牛乳・乳製品の知識」堂迫俊一 著 幸書房