2022/07/19
『食品製造業におけるAI自動検査の活用による食品ロス低減』
Reduction of food loss by utilizing automatic AI inspection in the food manufacturing industry
食品製造業における労働不足の課題が深刻化している。厚生労働省「雇用動向調査」によると平成29年の食品製造業における欠員率が3.2%、全製造業平均の1.8%に比べて1.7倍と高水準である。昨今の食品製造業においても製造工程では自動化が進んでいる工程もあるが、外観検査工程は主に人手に依存した目視による検品・検査が行われ製造ラインのボトルネックとなっている実態を見聞きすることが多い。
この要因として考えられるのは、自動車や電機といった工場に比べて、食品自体に個体差が多いことや判定基準が曖昧で幅があり、画像処理装置を適用することが困難な点にある。食品工場の製造ラインに適合させ、検品・検査の自動化・機械化にAI技術の活用が始まっていることからそれらの技術の導入による食品ロス削減について解説する。
1. 食品工場における人手による検査の現状
食品工場の生産現場では、原材料工程や包装工程での検品・検査作業の多くを作業者が手作業で対応しているが、自動化や機械化が進まない要因として次のような理由があげられる。
(1) 原材料の例えば野菜や魚肉類においては、大きさ、形状、色など一様でなく、季節ごとに違いがある。また、部位による違い、納入先によって異なる場合がある。
(2) 製品検査においては、品目数や品種の違い、形状やサイズのバラツキ、生産している時間帯によっても異なる場合がある。
現状の原材料受入れ後の選別工程は、人手による複雑な判断を頼りに検品・検査を行っている現場が多いく、1人の作業者が複数の処理を同時並行的に行う必要が生じている。この複数の作業と判断を瞬時に行うことが要求されるため、自動化や機械化が困難な要因となっている。
2. 食品サプライチェーンにおける食品ロスの発生要因
コロナ禍に伴う巣ごもり需要から特に近年注目されている食品の代表として「冷凍食品」があげられる。冷凍食品も他の食品と同様にサプライチェーンを考えると 図1. に示すような流れになる。
図1.のようなサプライチェーンの流れとなるが、それぞれの流れの中で食品ロスが発生していてその要因として次のことがあげられる。
(1) 原材料調達
・天候不良や病気などによる生育不良、収穫被害
・収穫時や流通保管時の取扱い不備による破損、品質劣化
・収穫過多による供給過剰
(2) 製造(加工・調理)
・原材料検査時の不可食部(皮や骨)の過剰な除去
・製品の形状や重量の規格外など不適合品の発生
・製造段階あるいは終了時に設備内などに残った食品残渣など
(3) 流通・販売
・過剰在庫による賞味期限切れ
・流通・保管時の破損など不適合品の発生
・納入期限、販売期限切れによる返品
(4) 消費
□ 外食店・惣菜販売店など
・調理時の不可食部(皮や骨)の過剰な除去
・料理の注文量や提供量が多いことによる食べ残し
・作り過ぎによる品質劣化や売れ残り
・原材料や仕掛品の賞味期限切れ
□ 家庭
・調理時の不可食部(皮や骨)の過剰な除去
・作り過ぎによる食べ残し
・買い置き食品の賞味期限切れ
これらサプライチェーンの流れの中での食品ロスは 図2. 農林水産業の推計データ(令和2年度)を引用すると次のように報告されている。
(1) 製造(加工・調理)での発生量は121万トン (23%)
(2) 食品製造業の製造メーカから出荷された以降での流通・販売での発生量は73万トン(14%)
(3) 外食での発生量は81万トン (16%)
(4) 家庭での発生量は247万トン (47%)
という結果となっていることから考察すると、近年は減少に転じているがまだ高い水準にあることが分かる。これらのデータから食品製造メーカ単独での取り組みには限界があると思われることからサプライチェーン全体での取り組み、消費者の家庭での食品ロスを減らすことが重要である。
図2. の推計値は国内のすべての食品を対象としているので、先に述べた冷凍食品においては最終製品の保管温度が-18℃以下と冷凍保管されているため、賞味期限が1年以上と長いことが特徴である。そのため店舗や家庭での長期での保管が可能なため「賞味期限切れ」による廃棄は回避できる。また最終製品だけでなく原材料や仕掛品(中間品)も冷凍保管することで原材料調達や製造(加工・調理)での期限切れを抑制でき廃棄によるロスを低減できるといった利点がある。
例えば冷凍野菜は収穫直後に洗浄、加熱処理をしたり使いやすいサイズに予めカットしたりといった前処理を行い、その後急速凍結し包装を行うことで、外食店や家庭でそのまま調理に使えるようにすることで不可食部(皮や骨など)の廃棄を抑制することができる。さらに調理済み冷凍食品を使用すれば、家庭での生ごみや下処理などに用いる調味料やパン粉などの余剰廃棄も削減できる。
このことから「冷凍技術」は食品ロス削減に大きく貢献できることから、製品にやさしいを付加できるような更なる技術の向上を期待したい。
3. AI自動化による食品ロス削減の取り組み事例
食品サプライチェーンの消費での食品ロス抑制として「冷凍食品」を事例に取上げたが、食品工場ではそれぞれの工程で食品ロスが発生している。食品工場でのAI技術を活用した検査の自動化について解説する。
・AI導入の目的は何かを考える
検品・検査では人手に頼った作業が未だに多いことを前述しているが、AIを活用する場合に心得ておかなければならないこととして、AIには得意、不得意があることである。AIは原材料などの個体差のある物や曖昧な判定基準に適しているため、目視に頼っている食品の検品・検査に向いている技術である。合否判定の機械学習において何が正解で、何が不正解かを学習させることが最も重要である。実働ラインに組み込むと想定していない不正解事例が多く発生しラインが正常に稼働しないなどの事例にも遭遇している。トライ&エラーを繰り返すことで学習することになってくる。最初から100点の検査装置はないと心得るべきである。
中食の惣菜弁当で具材の配置検査をAI技術で行う場合は、まず具材があるか、ないかの判別は学習することなくカメラなどを活用した画像処理技術でも判別が可能である。しかしながら配置場所の違いやちょっとしたはみだしなどは判定できない。また別の事例で冷凍ピザの具材のトッピングの割合の判定などにもAI技術が活用されている。配合割合が規定されている商品の具材を面積と比重の割合で判定結果を得る検査で、例えば具材はチーズ、コーン、サラミであり、それぞれの割合を配合率(%)で判定し、規定の%の割合を外れると不合格とする検査である。
AIを活用する目的に適合した手段を選定することがポイントであることを心得てほしい。
(1) 原材料調達工程
加工食品の原材料には農産物、水産物および畜産物が多く用いられている。栽培や飼育などには長い期間と時間を要するため天候や病気などで収穫量や生育に左右されることも多く、品質を一定に均一に保つのはなかなか難しい。このため原材料調達先に対してできるだけ安定した均質な原材料を供給してもらうなど相互のコミュニケーションも大切にしていくことが、食品工場受入後の作業員の検査を軽減することにもつながる。
AI技術を活用したAI自動選別装置も導入されている工場もあるが、人手を完全に省くまでに至っていない。選別の自動化で7~8割程度の選別ができたとしても残りの判定は人手に頼るしかない状況にある。しかし、選別工程で例えば5名の作業者で行っていた選別が2名で実施できるようになれば労働生産性は向上する。
水産物や畜産物の皮や骨も検査で判別できれば製造時の加工・調理工程での不可食部の除去も多くの人手を頼ることなく自動化・機械化することも可能になってくる。
(2) 製造(加工・調理)工程
原材料調達工程において選別、不可食部の判定がされ取り除かれた状態で次工程となる製造工程に送られる。加工・調理にともなう食品ロスはこの工程においても発生する。魚などの血合いや肉類に混入しやすい軟骨などは加工時に不可食部として更に処理されているためである。
自動化・機械化を進めるには周辺技術、特に画像処理・解析技術の向上が必要と感じる。
前工程での処理が重要であるが、製造工程の各所で発生する食品残渣をいかに削減するかが食品ロス削減の成果につながる。
4. 今後の課題
現在、食品製造業におけるAIの活用については開発途上と言える。まだ食品工場の製造工程での取り組みが主になっている。食品サプライチェーン全体の取り組みとしていかないと更なる食品ロス削減につながらないと感じる。また食品ロスの4割強を占めている家庭からの食品ロスについても同様に考える必要がある。
食品は原材料や製品が多種多様で性状や特性が異なることから、単純な技術応用では十分な精度や効果が期待しにくい状況があり、全体的な最適化に至っていない。AI自動検査装置やシステムの精度向上には、まだ少し時間を要するだろうが食品分野での取り組みが進むことを期待する。
以上
【参考引用先】
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農林水産省プレスリリース「食品ロス量(令和2年度推計値)」
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/220609.html -
木本技術士事務所HP「2022/01/24技術用語解説35『冷凍食品 (Frozen food)』」
https://www.kimoto-proeng.com/keyword/2208 - 木本技術士事務所HP 「2019/12/19食品化学新聞 食品技術士リレーシリーズ寄稿記事 題名:食品ロス削減の課題と取り組み」https://www.kimoto-proeng.com/news/518