2022/09/05
技術用語解説50『食物アレルギー (Food Allergy)』
食品の摂取によって引き起こされる身体の異常の内で、特に免疫反応が関係するものを食物アレルギーと呼んでいる。食物アレルギーを起こす食品としては、牛乳、卵、魚などの動物性食品が古くから知られていたが、最近では、米、小麦、大豆などの植物性食品によるアレルギー症も増加している。食物アレルギーの症状は、じんま疹、皮膚炎、喘息などが主であるが、一部のそばアレルギーや欧米人にみられるセリアック病とよばれる特殊な小麦アレルギーの場合には、激しい胃腸障害を起すことが知られている。
一般に、アレルギーはその発症機序によって1型からIV型までの4種類に分類される。このうち、I型からIII型までのアレルギーは、免疫グロブリンが関係するものであり、発 症までの時間は短い。これに対し、IV型アレルギーはリンパ球が直接関与するものであり、発症までの時間は長い。食物アレルギーは、主としてI型アレルギーに属するものと考え られており、II型あるいはIII型アレルギーに属するものは少ないといわれている。しかし、研究者によってはI型とIV型アレルギーの複合反応が起る可能性も考えており、必ずしも単純ではない。 食物アレルギーの主体をなすと考えられるI型アレルギーは、外来抗原によって体内に誘導された特異的IgE 抗体の働きで起こる。IgE抗体は、正常な人の場合には、その誘導が厳 しく抑御されていて、血中における濃度も他の抗体に比べて極めて低い。しかし、アレルギーを起こし易い人の場合には、種々の外来抗原の侵入によってIgE抗体が誘導され易い。一旦、産生されたIgE抗体は、腸管または気管表面に広く分布している肥満細胞と呼ばれる大型の細胞の表面に強く結合して存在する。再度、侵入してきた外来抗原は、このようなIgE抗体に反応し、肥満細胞の細胞膜組織を活性化する。活性化された細胞膜組織の変化は、細 胞内化学変化に発展し、細胞内からヒスタミン、セロトニンなどの活性物質 (化学伝達物質 とよばれる) を放出する。放出された化学伝達物質は、身体の各組織に作用して、様々なア レルギー症状を引き起こす。
食物アレルギーの治療を行う場合に第一に行うことは、原因食品の同定である。この場合によく用いられる方法は、患者血清中に存在する特異的IgE抗体との反応性を利用するものであり、RAST (Radio Allergo Sorbent Testの略) と呼ばれている。RASTは種々の食品成分をろ紙片に付着させておき、IgE抗体を含む食物アレルギー患者血清を加えて反応させ、放射活性標識IgE抗体との反応を利用して、食品成分と反応したIgE抗体の量を測定するものである。 RASTによる分析結果は、通常反応の強さに従って0 から4までの5段階に分けて示される。
食物アレルギーは、食品の全ての成分によって示されるわけではなく、通常一部のタンバク成分によって示される場合が多い。したがって、このようなアレルギーを起こす成分(アレルゲンと呼ばれる)が同定された場合には、タンパク分解酵素を使ってアレルゲン成分を分解し、その食品のアレルゲン活性を低減化させることができる。牛乳や米などの食品について、このような処理によるアレルゲン活性の低減化が実際的にも有効であることが示されている。
以上
【参考文献・引用先】
1. 「第1章アレルギー総論」発行:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-17.pdf
2. 「第4章食品アレルギー」発行:厚生労働書
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf
3. 「加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック」発行:消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_210514_01.pdf
4. 「食物アレルギー表示に関する情報」消費者庁H.P
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/