2022/11/07
技術用語解説54『培養肉(Cultured meat)』
1.培養肉とは
培養肉は動物の細胞を取り出し、それを培養液に浸漬させて、細胞培養のテクニックを使って増殖させたものである。増殖しているのは正しく動物細胞であり、その細胞がつくり出した動物性タンパク質である。
タンパク細胞を細胞分裂によって増殖するだけの細胞培養であれば、その技術は既に完成している。医療分野では、皮膚、筋肉、肝臓などの細胞培養は日常的に行われているが、食品分野への応用は発展途上にあり、課題が多い。
2.培養肉の製造技術
現在、公知の培養技術には各種のものが研究・開発されている。細胞をバラバラの状態で培養するほかに、2次元平面での細胞増殖の方法などは一般的になってきている。しかしながら、その他にも、細胞を浮遊させたり、球状に集合させたりする、さまざまな方法や製造技術が考案・開発され報告されている。
本年3月に、大阪大学と島津製作所、シグマックスが共同で培養肉を自動生産する「3Dバイオプリント」技術をプレスリリースしている。3Dバイオプリンタによりステーキ肉のような厚みのある構造をつくり出す、すなわち組織の構造化(肉もどき化)を可能にした技術である。図1. に培養肉自動生産システムのイメージを示す。
3.培養肉の生産性とコスト
培養肉の製造技術は近年、急激に開発が進んだ新しい技術である。現在も世界各地で商品化に向けた研究・開発が行われている。その背景には、将来の世界人口増加による巨大な食肉需要が見込まれ、需要に対応する解決策の手段として注目されるようになった。現在の大きな課題は、大量生産方法の確立と製造コスト低減である。
培養肉は、1つの細胞があれば、いくらでも多くの培養肉を生産できると言えるが、実際に無限大に生産できるかと言えば課題がある。例えば、細胞を培養する培養液も生産した培養肉と同等以上の量の栄養素が必要である。
2013年に世界初の細胞培養の培養肉が開発され、その時の培養肉ハンバーガのコストは1個あたり32.5万ユーロ(約4,130万円)と破格なコストが示された。その後、技術開発が進み、2016年には1ポンド(450g)あたり18,000ドル(225万円)となり、2018年には2,400ドル(30万円)にまで低下してきた。最新情報では、2019年7月には、1kgあたり112ドル(14,000円)にまでコスト低減した企業が現れた。このコスト低減推移を見ると、この数年で培養肉ハンバーガが10ドル(1ドル145円の場合1,450円)程度で販売される日もそう遠くなさそうである。
4.培養肉の課題と展望
培養肉の最も大きな課題は、製造コストの削減と言える。細胞培養技術は、元来医療目的で開発されたものであり、費用や大量生産を考慮したものではない。
さらにコスト問題を解決しても別の課題として、国内の規制や人々の心理的な抵抗感を払しょくしなければ、一般の食卓に培養肉が並ぶことは難しいなどハードルは高い。培養肉単体としての商品化というより、植物性代替肉との併用による商品開発を先行してもよい。実際、2020年に発表されたチキンナゲットは培養肉100%ではなく、鶏の細胞組織と植物由来の素材を混ぜ合わしたものであった。
近い将来、培養肉が栄養バランスの取れた食肉となって上市されるようになった場合、本物の肉に代わって付加価値をもった肉となることから、既存の本物の食肉を脅かす存在になるかもしれない。
以上
【参考文献・引用先】
- 島津製作所H.Pプレスリリース
https://www.shimadzu.co.jp/news/press/3det1rp9km4d405w.html - 大阪大学大学院工学研究科H.Pプレスリリース
8b0bb76898e01b384016109fa0d2a9fb.pdf (osaka-u.ac.jp)