2023/05/22
『食品工場における自動化 (FA化) に向けた考え方』
Ideas for automation (FA) in food factories
1.食品工場のFAとは
工場のオートメーションは、あらゆる産業で導入が、実施されている。特に自動車、電機などは早くから自動化(FA化)に伴う概念が生まれ各種の技術が著しく発達し、大きな変革が起こって発展してきたと言える。
FAの定義は明確ではないが、一言で表現すると『工場の生産活動における管理を含めた自動化』で究極には“無人化”を実現するための一貫工場生産システムと言える。さらに表現を変えて言うと『FAとは受注から計画、製造、検査、出荷までを、最新技術を駆使しフレキシブルな生産を指向した工場一貫生産システム』である。
従来はストレージ、搬送、投入、混合、加工、包装といった「物の流れ」を中心に、生産設備の自動化を積極的に進めてきていた。ところが多品種少量生産が主流となった現在、生産は煩雑化するばかりで、従来のような生産設備の考え方や、人手による生産の管理が限界になってきている。
現在のFAは生産に“情報の流れ”IT技術を積極的に活用し、科学的管理の実用化も進んでいる。これは情報の一元化によってトータル管理システムを構築することが目的である。
図1.に示すようにプロセスの自動化レベル、工程管理レベル、生産管理レベル、事務管理レベルなどに分類して考えると、それぞれのレベルがどんな価値を創出しなければならないのか、そのために、どんな管理機能が必要なのかを追及し、各レベル間の情報の受渡しを明確にして、全体最適化を図ったトータル管理システムを目指すことになる。「物の流れ」を横方向への展開とすると、「情報の流れ」を縦方向の展開と言うことができる。この2さの流れの関係を上手に組み立てるのがFAのキーポイントになる。
横方向の展開「物の流れ」の自動化は従来から進められていたが、課題として自動化のコスト、技術面でどうしても限界があった。近年、ハード面、ソフト面の技術進歩により、従来技術にさらなるロボット化が進み次々と新技術、新製品がリリースされ、今まで無理とされていた自動化が可能になり始めている。特にAI技術を活用した新たな武器が食品工場に導入されている点にある。
2.FAの目標と評価
FAの目標はQ、C、Dの性能向上である。図2. の中に示されているFAの目標は、次の3つになる。
(1) Q(Quality):品質の向上、安定
(2) C(Cost):コストの低減
(3) D(Delivery):安定供給
これら3つの性能をいかに向上させるかということになる。これからは食品の多様化に対応しながら、Q、C、Dの性能をあげることが要求されている。
食品によって異なるが、表1. に食品の効用に対し、それぞれ要求される性能、製造上の想定される問題点(解決されるべき技術上の問題および関連機器)について示す。これはQ、C、D性能向上に大きな影響を与えることになる。
食品の難しさは、
多様性(不明確性)=食品の効用(表1. の項目)×個人の価値観(重要度、レベル)
となり、個人の価値観のファクターが極めて強いことである。
従って品質との関連すべて解決しようとしてもそこには高いハードルがある。いずれにしても食品の品質向上、安定化は商品の生命であり、絶対条件であることを考慮して考えなければならない。食品のコストは、原料費の占める割合が、他の産業に比べて非常に高い。しかも産地の原料の生産状況に応じて、価格変動が生じやすい。また輸入原料が多いため国際相場の影響を受けるなど外部要因が多く、原料によってはコストを低減しようとしてもコントロールが極めて難しい。昨年突然起こったロシアのウクライナとの紛争の影響により小麦粉や家畜の飼料などコスト高騰に影響を及ぼしている。そのため残された加工費の低減が課題になってくる。削減可能な加工費の主な要素に、人件費(直接人件費、間接人件費)、エネルギー費、設備費などの削減がターゲットになることは言うまでもない。また歩留りあるいは収率の工場、設備の最適化、効率化などがある。さらに保管、流通費用も大きな削減要素となる。
さらに、生産はもとより流通面で改善が必要となっている。つまりジャストイン/ジャストアウト生産、流通が要求され、FAの最適な生産システムが必要となり、検討課題となってくる。また食品品質として要求が高い「新鮮さ」を確保するためには、当日出荷、少なくとも翌日出荷が必須となってくる。食品ロスの観点からも賞味期限/消費期限を考慮した流通面の取り組みからも取り組む必要性があり、Q、C、Dの性能を向上させるためには、受注から生産、流通までを一貫して管理する総合システムの確立が必須となる。
3.FA化で期待したい効果
FAによって期待できる効果は多数あるが、特に加工型の食品工場でよく見かける運搬、供給、横持ちといった重量物のマテハンからの解放、高温、多湿、塵埃といった苦渋作業、悪環境に対する課題であり、これらをターゲットに解決できれば効果は大きい。また熟練者不足は食品製造企業にとって深刻な問題となっていて、さらに作業者は疲労、精神面で左右され、それに起因するミスも多くなる。これらを解決する効果としてもFA導入は期待できる。
さらにFAの究極の目標である無人化に限りなく近づけるためにも、まずは作業従事者の少人数操業への期待も大きい。当然、少人数操業になると必然的に、少数精鋭、自主管理体制の構築などが求められ、そのためには一人ひとりの柔軟な対応と、意識の高揚、組織の改革が必須となってくる。
4.FA導入による厳密な経済性評価
FAを実現する場合、まず直面する問題はFAによってどの程度の経済性価値を生み出すかである。この難しさ商品の将来性、企業方針、地域性、操業度などさまざまな要因を考慮する必要性があるため安易に述べることはできない。しかしながら、目安として参考にすべき考え方を示す。
P < I
P ≦ M + N - L
M = a・b・c・d
P:FA化のための設備費
I:FA化のための許容投資額
M:要因削減による利益
a:FAによって削減できる作業員数(間接作業員も含む)
b:作業員1人当たりの1年間の企業負担費用(賃金、間接費、退職金)
c:作業交代数(24時間3交代制の場合は3、8時間1部制の場合は1)
d:FA化設備の原価償却年数(企業によって異なる)
N:FA化によって得られる他の利益
(品質の向上、歩留り、収率の向上、包装材料の削減、衛生面の向上、作業時間、原料、電力、
燃料など無駄の削減、稼働時間の向上、作業の高速化、精密化、安全操業、労働環境の改善、
宣伝効果、精神的な余裕の増加、将来の布石などの有形、無形の利益)
L:FA化することによって生じる損出
(現有設備の廃棄、変更による損失、設備にかかる固定資産税、保険料、ならびに消耗費、
補修費、動力費などのランニングコスト等々など)
上記式が成立すれば一応経済的価値があると判断する目安にできる。
要因は削減できたとしても、設備のFA化に伴うメンテナンス要員として高度な技術者が必要となり、運転操作が煩雑になるようでは、得られた効果が半減されてしまうので考慮する必要がある。したがってFA化導入に向けた事前準備として既存の従事者への教育・訓練によりメンテナンス体制を確立して運転操作に支障とならないようにすることが大切である。
FA化によって得られるその他の利益Nは、定量的に算出することは難しく、評価対象から外す場合もある。さらに無形の評価を利益に換算することも、極めて困難と言えるが、品質、歩留り、収率など、できる限りFA化前のデータを蓄積しておき、数値化することが望ましい。現在であればIoTやAI技術などを活用することも考慮すべきである。数値化がすぐに難しい場合は、推定値を設定して検討しても良い。
特に難しい評価がFA化で得られた、数値化できない「意識(やる気)の高揚」、「人材育成」、「新事業への布石」、「企業イメージアップによる社会的影響度」など企業独自の数値化をすることも重要になる。無形の効果の中でも作業者の“やる気”は、優れた人材育成にもつながる大きなものである。
以上
【参考文献・引用先】
- 「新 食品工場は宝の山」著者:山田谷勝善他 幸書房
- 「ファインケミカルプラントFA化技術の新展開」監修:高松武一郎 CMC
- 「食品製造業の自動化の現状と抱えている課題」技術レポート2023.05.08
木本技術士事務所HP https://www.kimoto-proeng.com/report/3408