『無菌充填技術』

『無菌充填技術』
Aseptic filling technology

1. はじめに

 無菌充填技術は、タンク、配管、充填システムを洗浄滅菌する、CIP/SIP技術、包装資材を滅菌する技術、充填環境を無菌化する滅菌技術、、充填環境の無菌状態を維持する空調技術からなっている。それぞれに各社特徴があるが、目的とする無菌達成レベルがまちまちであり、コスト、制御対象微生物の差異により使用される技術レベル、様式も異なってくる。 無菌充填技術を採用したい場合には、まず
・対象物
・対象製品の保管条件(目標)
・充填内容物の製造条件
を明らかにし、各メーカー、エンジニアリング会社が必要な無菌充填技術を選択しまたは適用の可否を判断できるようにする必要がある。

2. CIP/SIP技術

 調合タンク、配管、充填タンク等を全ての配管が接続されたまま、アルカリ、酸、温水、水をシーケンスプログラムに沿ってバルブを自動操作して(一部手動操作もある)洗浄し、圧空(エアパージ)を用いて排出させ、更に滅菌上記を用いて滅菌する技術であるが、水抜きのため配管勾配、バルブの選定、配管系と立ち上がり距離の関係、配管長に応じた時定数の選定、タンクと配管出口・入口の関係、タンク洗浄用スプレーボールの設計等固有技術が多く、実績の多いメーカーに利がある。

3. 包装資材を滅菌する技術

 包装資材を滅菌する技術は、現在では過酸化水素水を用いる方法が一般的になっており、またそれを支持する実績、妥当性の確認結果も数多くなってきている。過酸化水素水を常時用いる形式では、充填空間の無菌状態を維持するための陽圧管理による(つまり常時微量の吹き出しを周囲に行う技術)は注意を要し、気密チャンバーと触媒による吹き出し空気の無菌化が必要となる。なお、これ以外に、極短時間光パルスによる滅菌、紫外線による殺菌等の技術もある。包装資材の滅菌については、各装置を製造するメーカーに次のことを確認する。
・該滅菌技術による実績(取扱い製品名も)
・該滅菌技術により達成できる無菌化レベルとそれを証明する文献
の二点を必ず確認、入手することが必須である。

4. 充填環境を無菌化する滅菌技術

 充填環境を無菌化する技術は
・高圧蒸気による方法
・過酸化水素水の噴霧による方法
・過酸化水素の微小液滴を蒸気に混入する方法
・過酸化水素を気化させて用いる方法
・紫外線源による一定時間の照射
・オゾン発生機によりオゾンを充満させる方法
等々が知られており、また実用化されているが、その取扱いの確実さ、滅菌効果の高さから、過酸化水素を気化させて用いる方法が優れていると考えられている。

5. 充填環境の無菌状態を維持する空調技術

 充填環境の無菌状態の維持は、主にHEPAフィルター(高効率塵埃除去:High Efficiency Particulate Absorption)によりクラス100程度まで無菌化(無塵化)した空気を充填環境内に、外部との内部(正圧あるいは陽圧)の圧力差を設けて無菌エアを流入させ、常時外部からの無管理空気の侵入を防ぐのが一般的である。このような場合、充填環境(充填チャンバー)内は原理的に気密なのか、それとも一定の管理された間隙から常時外部に流出させる原理なのかを良く理解して導入をする必要がある。

6. 無菌充填技術 Q & A

 無菌充填技術についてQ&A形式で解説する。

【Q】
HEPAフィルター(高効率塵埃除去:High Efficiency Particulate Absorption)について詳しく教えてください。
【A】
 HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Airフィルター)は、微細な粒子を高効率で捕集するために設計されたフィルターです。直径0.3ミクロン以上の粒子を99.97%以上の効率で除去できるため、医療施設や製造業で重要な役割を果たしています。
(1) 主な特徴
・高い捕集効率:0.3ミクロン以上の粒子を99.97%以上の効率で除去します。
・多用途:空気清浄機、クリーンルーム、原子力施設などで使用されます。
・構 造:細かい繊維の層が重なり合った構造を持ち、空気中の微粒子やアレルゲン、さらには一部の細菌やウイルスをも捕らえることができます。
(2) 使用上の注意点
・細菌やカビの繁殖:使用環境によってはフィルター内部で細菌やカビが繁殖するリスクがあります。定期的な点検とメンテナンスが不可欠です。
・破損しやすい:非常に繊細で、交換や取り扱いの際に破損しやすい特徴があります。取り扱いには細心の注意が必要です。
(3) 寿命を延ばすコツ
・1次・2次フィルターを組み合わせる:1次フィルターや2次フィルターと組み合わせて使用することで、HEPAフィルターの寿命を延ばすことができます。
・定期的な清掃:1次フィルターを定期的に清掃することで、HEPAフィルターの劣化を抑え、長期的な運用コストの削減につながります。

 HEPAフィルターは、その高い性能から、医療施設や研究機関、製造業のクリーンルームなどで重要な役割を果たしています。空気中の微粒子やアレルゲンを効果的に除去し、清潔で安全な環境を提供するための重要なツールです。

【Q】
HEPAフィルター以外にも塵埃除去フィルターありますか?
【A】
 HEPAフィルター以外にも、さまざまな種類のフィルターがあります。以下にいくつかの例を挙げます。
(1) ULPAフィルター(Ultra-Low Penetration Airフィルター)
・特 徴: HEPAフィルターよりもさらに高い捕集効率を持ち、0.12ミクロン以上の粒子を99.999%以上の効率で除去します。
・用 途:クリーンルームやバイオハザード対策など、極めて高い清浄度が求められる環境で使用されます。
(2) 活性炭フィルター
・特 徴:活性炭を使用して、空気中のガスや臭いを吸着・除去します。
・用 途:空気清浄機や換気システムで、臭いや有害ガスの除去に使用されます。
(3) プレフィルター
・特 徴:大きな粒子やホコリを捕集するためのフィルターで、主に他のフィルターの寿命を延ばすために使用されます。
・用 途:HEPAフィルターやULPAフィルターの前段階で使用され、フィルターの劣化を防ぎます。
(4) 電気集塵フィルター
・特 徴:電気的に帯電させたフィルターを通過することで、微粒子を捕集します。
・用 途:工場の排気ガス処理や空気清浄機で使用されます。
(5) メッシュフィルター
・特 徴:金属やプラスチックのメッシュを使用して、大きな粒子やホコリを捕集します。
・用 途:エアコンや換気扇などで使用され、簡単に洗浄して再利用できます。

 これらのフィルターは、それぞれ異なる用途や特性を持っており、目的に応じて選択されます。どのフィルターが最適かは、使用環境や目的によって異なりますので、具体的なニーズに合わせて選ぶことが重要です。

【問】
無菌環境の清浄度について詳しく教えてください。
【回答】
 無菌環境の清浄度は、特に医薬品製造やバイオテクノロジー、半導体製造などの分野で重要です。無菌環境の清浄度は、空気中の微粒子や微生物の数を基準にして評価されます。以下に、無菌環境の清浄度について詳しく説明します。
(1) 清浄度クラス
 無菌環境の清浄度は、ISO 14644-1規格に基づいてクラス分けされます。クラスは1から9まであり、数字が小さいほど清浄度が高いことを示します。例えば、ISOクラス5は非常に高い清浄度を持ち、0.5ミクロン以上の粒子が1立方メートルあたり3520個以下であることを意味します。
(2) クリーンルームのクラス
 クリーンルームは、空気中の微粒子の数に基づいてクラス分けされます。以下は、一般的なクリーンルームのクラスとその基準です。
・クラス 1:0.1ミクロン以上の粒子が1立方メートルあたり10個以下
・クラス10: 0.1ミクロン以上の粒子が1立方メートルあたり100個以下
・クラス100:0.1ミクロン以上の粒子が1立方メートルあたり1000個以下
・クラス1000:0.1ミクロン以上の粒子が1立方メートルあたり10000個以下
(3) 清浄度の管理
 無菌環境の清浄度を維持するためには、定期的なモニタリングとメンテナンスが必要です。例えば、クリーンルームの清浄度を維持するためには、以下のような対策が取られます。
・パーティクルカウンタ:空気中の微粒子の数を測定する装置を使用して、定期的に清浄度を確認します。
・フィルターの交換: HEPAフィルターやULPAフィルターなどの高性能フィルターを定期的に交換し、清浄度を維持します。
・作業員の管理:作業員がクリーンルームに入る際には、専用のクリーンスーツを着用し、微粒子の持ち込みを防ぎます。

 無菌環境の清浄度を維持することは、製品の品質や安全性を確保するために非常に重要です。

【Q】
液体・飲料の充填機の無菌環境で充填チャンバーに要求される設計的な技術について詳しく教えてください。
【A】
 無菌環境での液体・飲料の充填機の設計には、いくつかの重要な技術的要素があります。以下に、充填チャンバーに要求される主な設計技術を詳しく説明します。
(1) 殺菌システム
 充填チャンバー内の無菌環境を維持するためには、効果的な殺菌システムが必要です。一般的には、過酸化水素や過酢酸を含む殺菌剤が使用されます。これらの殺菌剤は、充填チャンバー内の微生物を効果的に除去します。
(2) 温度管理
 殺菌効果を最大化するために、充填チャンバー内の温度を適切に管理することが重要です。例えば、殺菌剤の温度を高く保つことで、殺菌効果を向上させることができます。
(3) 洗浄システム
 充填チャンバー内の洗浄は、無菌環境を維持するために不可欠です。洗浄システムは、充填機の内部を徹底的に洗浄し、残留物や汚染物質を除去します。これには、CIP(定置洗浄)システムが一般的に使用されます。
(4) 気密性
 充填チャンバーの気密性を確保することは、外部からの汚染物質の侵入を防ぐために重要です。高い気密性を持つ設計により、無菌環境を維持しやすくなります。
(5) 自動化とモニタリング
 無菌環境を維持するためには、充填チャンバー内の環境を常にモニタリングし、必要に応じて自動的に調整するシステムが必要です。これには、パーティクルカウンタや温度センサーなどのモニタリング装置が含まれます。
(6) 材料選定
 充填チャンバーの材料は、耐腐食性や耐熱性に優れたものを選定することが重要です。これにより、長期間にわたって無菌環境を維持することができます。

 これらの技術的要素を組み合わせることで、無菌環境での液体・飲料の充填機の充填チャンバーが効果的に設計され、製品の品質と安全性を確保することができます。

【Q】
液体・飲料製造工場で使用される過酸化水素水について詳しく教えてください。
【A】
 過酸化水素水(H₂O₂)は、液体・飲料製造工場で広く使用される殺菌剤です。その主な特徴と用途について詳しく説明します。
(1) 特 徴
・化学式: H₂O₂
・物理的性質:無色透明の液体で、特有の弱い臭気(オゾン臭)があります。
・分解産物:水(H₂O)と酸素(O₂)に分解されるため、環境に優しいです。
(2) 主な用途
・殺 菌:過酸化水素水は強力な酸化剤であり、微生物を効果的に殺菌します。食品製造機器や容器の洗浄・殺菌に使用されます。
・漂 白:紙・パルプの漂白や繊維の漂白に使用されます。特に環境に配慮した漂白法として注目されています。
・脱 臭:下水処理場などで発生する硫化水素を酸化することで脱臭・無害化します。
・土壌改良:土壌の有機汚染物を酸化することで、土壌浄化期間を短縮します。
(3) 液体・飲料製造工場での使用
・ボトル滅菌:過酸化水素水を使用してボトルの内外を均一に噴霧し、確実な滅菌を行います。これにより、製品の品質と安全性が確保されます。
・無菌充填システム:無菌環境下での充填において、過酸化水素水は重要な役割を果たします。特に、低酸性飲料の充填に適しています。

 過酸化水素水は、その強力な殺菌効果と環境への優しさから、液体・飲料製造工場での重要なツールとなっています。

【Q】
液体・飲料製造工場で使用される高圧蒸気殺菌について詳しく教えてください。
【A】
 高圧蒸気殺菌は、液体や飲料の製造工場で広く使用される殺菌方法です。この方法は、製品の品質と安全性を確保するために非常に効果的です。以下に、高圧蒸気殺菌の主な特徴と技術的な要素について詳しく説明します。
(1) 高圧蒸気殺菌の特徴
・高温高圧:高圧蒸気殺菌は、通常121℃以上の高温と高圧(約2気圧以上)で行われます。この条件下で、微生物や病原菌を効果的に殺菌します。
・短時間:高温高圧の条件により、短時間で殺菌が完了します。これにより、製品の品質を保ちながら効率的な殺菌が可能です。
・均一な殺菌:高圧蒸気は均一に分布し、製品全体を均一に殺菌します。これにより、部分的な殺菌不足を防ぎます。
(2) 技術的な要素
・オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器):高圧蒸気殺菌には、オートクレーブと呼ばれる専用の装置が使用されます。オートクレーブは、密閉された容器内で高温高圧の蒸気を生成し、製品を殺菌します。
・温度と時間の制御:高圧蒸気殺菌では、温度と時間の制御が重要です。適切な温度と時間を設定することで、効果的な殺菌が行われます。一般的には、121℃で15分間の殺菌が標準的です。
・密閉容器:高圧蒸気殺菌は、密閉された容器内で行われるため、外部からの汚染を防ぎます。これにより、無菌状態を維持しやすくなります。
・自動化システム:現代の高圧蒸気殺菌装置は、自動化システムを備えており、温度や圧力のモニタリングと制御が自動で行われます。これにより、安定した殺菌効果が得られます。
(3) 使用例
・飲料製造:ジュースや乳飲料などの製造過程で、高圧蒸気殺菌が使用されます。これにより、製品の安全性と品質が確保されます。
・医薬品製造:医薬品の製造過程でも、高圧蒸気殺菌が使用されます。無菌状態を維持するために重要な役割を果たします。

 高圧蒸気殺菌は、その高い効果と効率性から、液体・飲料製造工場で広く採用されています。

以上

【参考文献・引用先】
「食品設備・機器事典~食品流通・加工技術:環境衛生~」
編集:食品設備・機器事典編集委員会 発行:産業調査会 事典出版センター