2020/12/31
「年の瀬に機械設計技術者として気になった3つの出来事」
2020年12月最後に気になった出来事は、次の3つのこと。
1つ目は、お帰り「はやぶさ2」である。
宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が5日午後2時半ごろ、地球から約22万キロ離れた地点で、小惑星リュウグウで採取した試料入りのカプセルを本体から切り離されて、順調にカプセルは6日午前3時頃に、オーストラリア南部に無事に着地した出来事。
日本のものづくりの凄さを証明した。「はやぶさ2」の完璧ともいえる大成功の裏には、実に多くの中小企業の献身的なサポートがあったことである。過酷な環境の宇宙空間の旅を6年間目立った故障もなく成し遂げたということは、きわめて高い品質が保証されたということになる。開発に関わった会社はおよそ100社。特筆すべきは広い分野から大小さまざまなメーカーが参加していることといえる。
例えば、設計開発の中心はNEC。実はNECからは、はやぶさの開発に携わった5人が現代の名工に選ばれているということからも技術の高さを物語る。また岩石を採取する鼻のように伸びたサンプラホーンを開発したのは住友重工。細かく噴射し機体の姿勢を変えるスラスタは三菱重工。機体を温度変化から守る多層断熱材は宇部興産、地上システムの一部は富士通といった具合である。
だが最も注目し存在感を示したのは日本の中小企業・町工場である。驚くことに、「はやぶさ2」を構成する重要パーツの多くを中小企業・町工場が担っていたことである。国内のメジャー企業とそん色がない技術力を示していた。詳細の説明は割愛するが、「ミヤタエレバム株式会社」、「日本工機」、「石川製作所」、「タマテック」、「東成イービー東北」など、重要パーツの開発秘話を知ることで、なぜ「はやぶさ2」の成功がものづくりの実力の証明になるのかを実感していただけると思う。
2つ目が、「JAL機エンジン損傷「疲労破壊」が確認され、重大インシデント」である。
那覇発羽田行き日本航空機(ボーイング777―200型機)が4日、エンジン損傷で引き返した重大インシデントである。運輸安全委員会は28日、エンジン内部で高速回転する羽根(ファンブレード)1枚に、細かい傷が広がる「疲労破壊」の特徴が見つかり、ファンブレードの破損は国内初の事例で、引き続き原因を詳しく調べると発表した出来事。
4日の那覇発羽田行きの日本航空(JAL)904便が左エンジン損傷で緊急着陸した重大インシデントで、国の運輸安全委員会は28日、「ファンブレード」と呼ばれるチタニウム合金で作られた羽根の一部に、「疲労破壊」を確認したと発表した。同委員会によると、疲労破壊が確認されたのはファンブレードに装着されている計22枚の羽根のうち、1枚(16番目)で、その破壊に伴い、15番目の羽根も欠けていた。本来、羽根は縦約105センチ、横(根元部分)31・8センチあるが疲労破壊が確認されたファンブレードは縦約18センチしか残っていなかった。ファンブレードは空気を大量に取り入れて、飛行機の推進力を生み出す役割を担っており、航空法では飛行回数が6500回を超えると検査が義務付けられている。
JAL広報によると今回破損したファンブレードの飛行回数は約3700回で、担当者は「本来であれば金属疲労を起こすような時期ではない」と説明している。破損したファンブレードは、米国の航空機用エンジンメーカー、プラット&ホイットニー社が製造したもので、海外では同メーカー製で同様の破損事例が確認されているが、国内での破損事例は初めてという。
機械設計技術者としての所見として考えることを述べる。日本航空(ボーイング777―200型機)に搭載されているエンジンPW4000型のファンブレードはファン外径が非常に大きく、遠心力によるセレーション(根元)への負担はかなりのものになるはずである。目視確認や打音といった方法などでは、破断前に見つけるのはまず無理であろう。今回のファンブレードは飛行回数にてメーカー検査に回される部品と定められているが、日本航空内では非破壊検査などは実施していないと聞く。エンジン内でも特にデリケートなタービンブレードおよびノズルガイドベーン、ファンブレードは基本メーカー検査、メーカー修理が定石である。
また、日本航空内にて実施される点検、整備はメーカー発行のメンテナンスマニュアルに基づいて実施しなければならず、勝手な対策などが出来ない。なぜなら事故が起こった場合、手を加えてしまえばメーカー責任が問えなくなるからであるが、航空業界の安全に対する取り組みはアメリカ主導なので従わざるを得ない実情があることを知っておく必要がある。
運輸安全委員会は今後、金属疲労によって壊れた原因を詳しく調べ、事故報告書を作成し、国土交通省に報告するとしているので、結果について注視していきたい。
3つ目は、「温室ガス実質ゼロへの成長戦略の中心に据えられた洋上風力発電」である。
25日、2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロに向けた「グリーン成長戦略」を政府が発表し、洋上風力発電や次世代エネルギーと期待される水素、自動車の電動化など、14の重点分野で数値目標や政府の支援策を盛り込むとしている中で、注目したのが「洋上風力発電」である。再生エネルギーの主力電源化に向けた切り札と位置づけられたが、海外メーカーに遅れをとっていて10年くらい前に色々試した結果、再生エネルギーの主力電源化は困難と判断された経緯がある。洋上風力発電には「着床式」と「浮体式」がある。
最近の動向について知るところを述べる。風力発電メーカーのベスト3(19年新規導入シェア)は、デンマークのヴェスタス(18.04%)、スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(15.71%)、中国のゴールドウインド(13.18%)である。
米国GWECによると、2019年の新規導入量は6040万kwで18年の5130万kwより増加した。新規の立地案件は去年に引き続き、中国や中南米などの新興市場は好調だった。再生可能エネルギーのなかでも大規模な発電所がつくりやすい欧州では、デンマークやオランダなどで電力需要に占める比率が高い。一方で、ドイツの陸上風力は縮小傾向にあり、ドイツ向けに多く風車を作ってきたエネルコンやノルデックスは苦戦を強いられている。
英国ウッドマッケンジーによると、新型コロナウイルスの影響で20年の世界全体の風力発電設備生産能力は15~20%減少する見込みである。
国内に目を向けると19年12月に長崎県五島市沖の海域が、国主導で洋上風力の発電事業者を公募する「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域」に選ばれるなど、日本国内の洋上風力発電導入への準備が進行中である。海外メーカーとの技術的な差をどのように縮めるのか、洋上風力発電メーカーを育成していくのか注視したい。
2020年12月31日、今年最後のブログとして、機械技術に携わる関係から「気になった3つの出来事」を取り上げた。
追記:
4つ目として、19日一般公開開始の「動くガンダムが横浜に出現!GUNDAM FACTORY YOKOHAMA(ガンダムファクトリーヨコハマ)」を取り上げようと思ったがやめておく。2021年1月に実物を見てきてからブログとしよう。
以上