2021/10/11
『火力発電による日本製品は競争力を失う!工業製品の評価にLCAが与える影響』
自動車の電動化が急がれている。温室効果ガスの排出によって、想定を上回るペースで地球温暖化問題が深刻化しているからである。特に、過去に例を見ない洪水や山火事に見舞われているEU各国の危機感は非常に強く、脱炭素関連政策の立案が急ピッチで進んでいる。
まず、23年に欧州委員会は、炭素の「国境調整」(環境規制が緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける制度)の導入を目指している。それに加えて欧州委員会は、原材料の調達、生産、廃棄によって排出される二酸化炭素の量を評価する「ライフサイクルアセスメント」(以下LCAとする)の確立にも取り組んでいる。現状では、24年7月から車載バッテリーや産業用の充電池を対象に、ライフサイクル各段階での二酸化炭素排出量の計測と第3者による証明実施が予定されている。
工業製品などの価値評価にLCAが与えるインパクトは大きい。LCAに対応するために独フォルクスワーゲンは洋上風力発電事業に参入したりしている。走行時にEVは温室効果ガスを出さないが、生産工程ではガスが排出される。同社は、EVライフサイクルの中で温室効果ガスの排出量が大きいバッテリー製造を中心に再生可能エネルギーを用いた自動車生産を目指している。また、米国でもLCAを重視する企業が増えている。20年7月、アップルは30年までに、自社のビジネス、サプライチェーン全体、および製品のライフサイクルすべてにおいてカーボンニュートラルを達成すると発表している。マイクロソフトはさらに、30年に「カーボンネガティブ」(排出量 < 吸収量)を達成し、50年までに1975年の創業以来に直接、および電力消費によって間接的に排出した二酸化炭素を完全に除去すると表明した。
製品のライフサイクル全体でどれだけ温室効果ガスの排出を抑えられているかが、顧客企業や消費者により厳しく評価される時代が到来している。そのため日本にとっては逆風である。LCAを基準にした製品やサービスの評価の定着は、火力発電によって電力を供給しているわが国経済にとって大きなマイナスの影響を与える恐れがある。火力発電を主とするエネルギー政策の下で生産活動が続けば、メード・イン・ジャパンの製品の競争力は大きく低下する、場合によっては失われるかもしれない。
わが国に求められることは、経済活動の基礎であるエネルギー政策の転換を進めることが急務である。具体的な方策として、再生可能エネルギーの切り札といわれる洋上風力発電をはじめ、太陽光発電、水力発電などの推進が待ったなしである。洋上風力発電に関しては、わが国には大型の風車を生産できるメーカーがない。その状況下、まず、海外の風力発電機メーカーからの調達を進める必要がある。その上で海外の再生可能エネルギーを支えるインフラ導入の事例を参考にして、再生可能エネルギーを中心とする発電源構成を目指すことになるだろう。そうした取り組みが遅れると、欧州などでLCAを基準とするサプライチェーンおよびバリューチェーンの整備が進行し、わが国企業のシェア、および競争力は低下する可能性が高まる。
コストを吸収することが難しい場合、かつてワープロの登場によってタイプライターの需要が消え、ブラウン管テレビが液晶テレビとなり、パソコンがワープロを淘汰したように、個々の企業だけでなく産業そのものの存続が危ぶまれる展開も視野に入れておくべきである。自動車のエンジンも例外ではない。そうしたリスクにどう対応するか、各企業は迅速に、競争力を失わないためのグランドデザインを策定し、わが国企業全体が向かうべき方向を示さなければならないと考える。
以上