『女子大学に工学部の設置が進んでいる?』

『女子大学に工学部の設置が進んでいる?』

 近年、理系離れの話をよく聞いていたが、少しの間に状況が変わって来たのかと感じるニュースがあった。奈良女子大学の工学部(2022年4月)と、お茶の水女子大学の共創工学部(2023年度予定)何といっても全国に2つしかない国立の女子大が女子大初となる工学部を続けて新設するというのだ。いったいそこにはどのような背景があるのか気になったので考えてみた。

その背景には、今までのモノづくり中心のハード系工学部から、情報や生活科学などソフト系工学部への大きな転換期にあるということである。産業革命から始まる伝統的工学は、発達する都市のインフラ(社会基盤)を整備するため、さらには企業の生産技術の向上に役立つ技術を目指していた。ところが、近年は都市化と情報化が著しく進んだ環境で、人々が安全で安心な生活を築く生活工学が要求されるようになってきた。こうしたことを背景に生まれた理系女子(工学系女子?)待望論の高まりも無視できない状況に変化してきたことが大きい。

同時に、国立大が今まで抑制されてきた定員の枠を拡大できる現在こそ、奈良女子大など首都圏以外の大学が学部新設に踏み切るタイミングでもあるといえる。大学経営の面からも、工学部誕生で企業連携が進み、国からの運営費交付金や学費など以外の収入増も望める。消費者も視野に入れた工学部の生活科学の学びには、企業側の期待も大きい。現在も、お茶の水女子大は企業に研究連携を呼びかけている。

工学系女子の経済的支援を打ち出した大阪大学の理工系学部だけでなく、女子学生の比率10%台がほとんどの工学部で、教育研究面で少数の悲哀を訴える女性も少なくなかった。その点、女子大ならまったく心配なく勉強や研究に打ち込める。この心理的メリットは非常に大きいと感じる。

工学部設立にあたって参考にしたのは、米国のハーベイ・マッド大学(カリフォルニア州)とオーリン工科大(マサチューセッツ州)の二つのリベラルアーツ系の工科大学のようである。女子が4~5割在籍し、社会や人間などの問題を学んだ上で工学の専門科目を組み込むカリキュラムになっている。

奈良女子大の新工学部は、データサイエンス(DS)・人工知能(AI)活用と、人の暮らしに役立つ生活工学などを学ぶ。生体医工学系、情報系、環境デザイン系、材料系の4系統で、それぞれ多彩な科目であり、意欲的なものが並んでいる。

お茶の水女子大も、2023年度に人の暮らしに役立つ生活工学などを学ぶ共創工学部を新設する予定だ。まず人間環境工学科を新設する計画で、環境や建築、医工学や材料など人間生活の視点で技術と情報を研究する現在の生活科学部人間・環境科学科をベースに、理学部情報科学科のノウハウもフルに活用する。続いて、2025年度には人文科学と情報学を融合させた文化情報工学科を増設、1学部2学科とすることが決まっている。今後増えるであろうDSやAIといった分野に興味を持つ女子生徒のニーズに対応できることが大切である。

2022年度から高校においても「情報」が必修科目となり、プログラミングやデータ分析の素養を持つ生徒が急増すると考えられる。奈良女子大やお茶の水女子大の新学部は、これから高校で情報を学ぶ女子受験生にとっても注目されるのではないか。そう考えると今後“理系女子(工学系女子?)”が多くなることが見込まれることから、受け皿となる活躍の場も増えることを大いに期待する。

以上