『生乳の廃棄問題とはいったい何か?』

『生乳の廃棄問題とはいったい何か?』

 一昨年の夏は牛乳不足、昨年末は牛乳余りで5,000トン廃棄か、というニュースがあったのは記憶に新しい。ここから見えた問題とはいったい何か?「生乳の廃棄問題」について少し考えてみよう。

年末年始に生乳が5,000トンも余って廃棄されるという懸念を受けて、岸田首相が異例の呼びかけを行った。一時的にはしのげるが、この問題の根本的な解決にはならない。生乳5,000トンのこの問題の以前から、国内では毎日かなりの数の牛乳が廃棄されているからだ。

牛乳を毎日飲むという方は分かると思うが、スーパーやコンビニで牛乳が品切れするということは少ない。いつもしっかりと補充されていて、棚の奥から新しい牛乳が並べられ、手前にくるほど古くなる。こういう「新鮮な牛乳の安定供給」という体制を維持すると当然、廃棄品が大量に生まれることは想像がつく。

では、いったいどれだけの牛乳が捨てられているのか。2015年、公益財団法人流通経済研究所がスーパーや生協を対象に食品ロスを調査した「日配品の食品ロス実態調査結果」(2015年3月6日付)によると、廃棄される牛乳は、推計で年間4,723トンにも昇っているという結果が報告されている。ただしこの結果は、スーパーと生協だけの数なので、コンビニや飲食店などで扱う分をすべて合わせると、得られた結果のよりはるかに多い量の牛乳が廃棄処分にされているということだ。さらに忘れてはいけないのが、「家庭で廃棄される牛乳」がこれと同じくらいあるということだ。

農林水産省及び環境省の「平成30年度推計」によれば、日本の食品ロス量は年間600万トンでその内訳は、返品や売れ残りなどの事業系が324万トンで、家庭系からが276万トン。つまり、半分近くは家庭内で買いすぎ、食べ残し、消費期限切れなどが理由で廃棄されたものとなっている。そんな家庭から捨てられる食品の代表格が、実は牛乳である。牛乳をめぐる「厳しい現実」を直視すると、若い世代を中心に牛乳の消費が減少しているという、いわゆる「牛乳離れ」がそこにある。

国内では毎年、人口が減少し、子どもも減っている。にもかかわらず、飲料市場は多様化が進み、最近ではオーツミルクなど穀物系のミルクも普通にスーパーに並んでいる。これらの「人口減少」の変化を踏まえれば、「牛乳離れ」が進行するのも無理はない。では、こういう厳しい現実がある中で、どうすれば日本の酪農を守っていけるのか。それはつまり、生乳の生産量を減少させることなく、廃棄も減らすことができるのか、ということを考える必要がある。むろんのこと業界としては余ってしまった生乳を廃棄しないように、バターや脱脂粉乳に回すという努力を続けている。

実は一昨年、バターの在庫は20年ぶりの高水準となった。「生乳の廃棄を回避するため、長期保存のできるバターの生産を増やした」からで、畜産産業振興機構によれば20年7月時点のバター在庫は前年同月日40.8%増の3万9057トン。バターとともに加工される脱脂粉乳の在庫も15年ぶりの高水準となった。こういう努力を1年以上続けて、工場もフル稼働状態であったと報告されていた。

長期的な視点で生乳の廃棄問題が生じない方策を見出さなければ、この問題の根本は解決されない。新たな取組みとして、牛乳から取り出されたカゼインというたんぱく質に、アクリル繊維の原料になるアクリルニトリルを結合させてつくる「ミルク繊維」*というものがある。プロミックスと呼ばれる繊維。シルクのような風合いと光沢があり、吸湿、速乾性に優れ、適度な保湿性があると紹介されていた。

乳飲料業界(Jミルク)の新たな取組みであるが、アパレル業界といった業種の垣根を越えた「サスティナブル」な取組みを期待したい。

以上

【参考引用先】 *印:JミルクHP:「牛乳からできる意外なもの」
https://www.j-milk.jp/knowledge/products/berohe000000jhsj.html