2021/01/04
技術用語解説7
『近赤外分光分析法(Near Infrared Spectroscopy)』
近赤外分光分析法は食品に含まれる各種成分の分子構造及び有機成分とくにその官能基に基づく近赤外領域の吸収現象、そして重回帰分析を始めとする統計手法およびコンピュータ技術を利用した成分・理化学的特性の分析法である。近赤外分析法あるいは単に近赤外法ともいう。
近赤外分光分析法は、1960年代に米国において盛んに研究された食品品質の非破壊計測技術に関連して発展したもので、米国農務省のK.H. NORRIS博士が生みの親といわれている。
近赤外分光法は、次のような特徴を持っている。
(1)化学薬品を必要としない
(2)試料の調整が簡単で迅速な分析が可能である
(3)分析システムが開発されれば、分析に際し熟練した技術を必要としない
(4)同一試料を反復して使用できる
(5)測定に際して秤量の必要がない
(6)同時に多項目の分析情報を得ることができる
(7)実時間での分析が可能なため工程管理を自動化することができる
などが挙げられる。
近赤外線は,可視光線と赤外線の間にあって、上限、下限ともに波長の領域は明瞭でないが、一般に800~2500nmの電磁波をいう。近赤外領域における吸収は、すべて赤外領域における基準振動の倍音または結合音による振動によって生じ、特に水素原子が関与するO-H、N-H,、C-Hの官能基による吸収が主である。基準振動は、主に伸縮振動と変角振動からなり、照射光は励起された分子内の振動および回転運動のエネルギーとして消費される。2原子分子の場合、基準振動は原子間の伸縮振動だけであるが、3原子以上の分子では、変角振動も加わり極めて複雑な振動型となる。
赤外領域に基準振動による吸収が生じると、その振動の整数倍の振動数に相当する波長に弱い吸収が現れる。これが倍音による吸収といわれるものである。2個以上の基準振動による吸収が同時に生じると、各々の基準振動の振動数の和または差の波長における吸収が現れる。これが結合振動による吸収といわれるものである。
図1に大豆および米、ならびにそれぞれの主要成分である水、タンパク質、脂質、デンプンの近赤外スペクトルを示す。吸光度は吸収される光の量が大きいほど高い値を示す。構成成分の吸収バンドは、成分特有の官能基に基づくもので、米および大豆のスペクトルにおいても、内容成分に由来した吸収バンドが見られる。大豆、米のいずれの試料でも観察される1935nmの吸収バンドは主に水に由来するものである。米のスペクトルの2100nmに見られる吸収バンドは主にデンプンに由来するもので、デンプンをほとんど含まない大豆ではこの吸収バンドは顕著でない。2180nmに見られるタンパク質の吸収バンド、並びに2305nmおよび2345nmに見られる脂質の吸収バンドはタンパク質、脂肪含量が多い大豆においてはっきりと見ることができる。
上述のように食品の近赤外スペクトルには複数の成分の情報が含まれており、近赤外分光分析法では、これらのスペクトルから重回帰分析などの統計手法を用いていろいろな情報が抽出、解析することが可能になっている。この近赤外光を利用した食品の原材料の光選別装置など非破壊センシング技術に現在、応用されている。
以上