技術用語解説9『超高温瞬間殺菌(Ultra High Temperature Sterilization)』

技術用語解説9
『超高温瞬間殺菌(Ultra High Temperature Sterilization)』

 食品の加熱殺菌においては、殺菌効果が同一であっても、高温で短時間加熱の方が低温長時間加熱に比べて栄養素、色調、風味、組織など品質の熱破壊が少ないことが認められ、これを基礎としてとくに液状食品に広く採用されているのが高温短時間殺菌法である。このうち130~150℃ の高温で数秒間処理するのが超高温瞬間殺菌(超高温殺菌、Ultra High Temperature Sterilization、UHT殺菌)という。UHT法によって牛乳を殺菌し、それを無菌条件下で紙容器などに充填、密封したロングライフミルクが1950年代からヨーロッパで普及し始めた。従来の63℃、30分の殺菌条件に比べて、72℃、 15秒あるいは75~85℃、15秒などの条件で高温短時間殺菌した牛乳では、冷蔵しても保存期間は精々7~10日間程度であったが、UHT殺菌によって3か月は常温流通が可能となった。それは130~150℃の高温条件下では、耐熱性細菌胞子をも死滅することができることで、しかも加熱による品質低下も少ないことが認められている(例えばD121℃=5分、Z=10℃B. stearothermophilus胞子のD値は140℃で0.05分、150℃で0.005分となる)。
 130℃以上の高温で短時間に液状食品を処理するためには、水蒸気と直接接触させる直接加熱法と、金属板を介して熱媒体と熱交換させる間接加熱法とが利用されている。直接加熱法では食品の流れに蒸気を吹き込む方法(インジェクション法)と蒸気の充満しているところに食品を噴射するインフュージョン法とがある。直接加熱法では蒸気と食品とが直接接触するため,蒸気よりの異物混入のないようにするため特別の蒸気洗浄装置が必要であり、温度、圧力、流量制御が複雑である。しかし品温が瞬間的に殺菌温度まで上昇するし、伝熱面での汚れの恐れがなく、加熱後真空装置を用いて凝縮水の蒸発が行われるので脱臭効果も期待することができる。これに対して間接加熱法では、伝熱板を通しての加熱であるため熱伝達速度が遅いし、伝熱板での焦付きがあり、加熱臭や加熱不均一の問題がある。

表1.加熱処理法の牛乳栄養価の低下度比較
加熱処理法 平均低下度(%)
有効リジン ビタミンB12 葉酸 ビタミンC
HTST殺菌 1.8 4.6 7.3 12.8
直接的UHT殺菌 3.8 16.8 19.6 17.7
間接的UHT殺菌 5.7 30.1 35.2 31.6
ポリエチレン容器中での殺菌 8.9 36.5 45.6 50.0
ガラス容器中での殺菌 11.3 39.0 54.8 66.5

 表1.は種々の加熱法を適用した場合の牛乳栄養価の低下度を比較したものであり、直接加熱法で78℃、20秒の高温短時間殺菌法に近い値となっている。さらに直接加熱法のうち牛乳などを滝のように蒸気の中を落下させる薄膜降下式加熱装置では、加熱がより一層均一に行われるので他の直接加熱法より品質のすぐれた製品が得られるとの報告がある。
 以上のようにUHT殺菌法は各種の無菌充填装置の開発とあいまって牛乳以外のものにも利用拡大されつつある。しかしすでに牛乳で認められているように、牛乳自体の酵素、あるいは原乳冷蔵中に低温性細菌の生産した耐熱性酵素の残存が問題である。

表2.低温性細菌などの生産する酵素の耐熱性
微生物酵素 加熱処理条件 不活性化度(%)
Ps.ftuorescens プテアーゼ 142℃、2秒 99
Ps.ftuorescens MC 60 プロテアーゼ 149℃、90秒 90
Ps.ftuorescens 22F リパーゼ 150℃、4.8分 90
Ps.ftuorescens MC 50 リパーゼ 150℃、63秒 90

 表2.には低温性細菌の生産する酵素の耐熱性を示している。薄膜降下式加熱装置ではこの耐熱性酵素の問題はかなり低減されているし、またUHT加熱の前後に55℃、1時間の処理を行っても改善できるという提案もなされている。
 さらに果実や野菜をUHT処理するときにはパーオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、ポリフェノールオキシターゼなどのうち耐熱性のものが問題となる。

以上