技術用語解説12『非加熱殺菌(Non-heat sterilization)』

技術用語解説12『非加熱殺菌(Non-heat sterilization)』

 明確な定義が無いが、食品等の材料の温度変化を伴わない殺菌と言える。紫外線、放射線、パルス状マイクロ波、超高圧、オゾン、高電圧極短パルス放電、電解酸性水、光パルス、衝撃波などのいわゆる物理的殺菌を総称する。生成したラジカルなど反応性物質が殺菌に大きな役割を果たし、その生成が物理手段の場合は物理的殺菌に分類することができ、非加熱殺菌と呼ぶことができる。

1. 紫外線

200~280nmを殺菌線と呼び、250~260nmの強い殺菌力が知られている。DNA分子などを励起し、分子内隣接チミン塩基の間に共有結合を生じるとされている。生じたチミンダイマーの部分では、DNAの水素結合が前後4塩基にわたって切断されて複製が不可能となり、細胞分裂が阻害されて微生物は死に至ると考えられている。注意すべきは保護効果と遮蔽効果である。前者は菌体以外の物質の低い紫外線透過率によって殺菌効果が減衰する現象であり、後者は菌が高密度で集積する時に表面位置で殺菌が生じても内部の菌がそのまま残る現象である。

2. 超高圧

 約200MPa以上の条件で殺菌が観察される。機構はまだ不明であるが、胞子に効果が少なく、栄養細胞で処理前後に膜由来と思われるタンパク画分が良く検出される。これを踏まえて、次の様な殺菌機構が考えられる。タンパク質は分子内の隙間(Cavity)が消失する形で不可逆的な圧変性を受けると同時に、膜を構成するリン脂質はその融点上昇により常温での液相から固相へと相変化を起こし、膜タンパクはリン脂質との疎水的相互作用を失い、一方で外部の自由水との親和性(体積減少系)を増して膜から離脱する。こうした過程を経て膜の機能障害が生じ、殺菌に至ると思われる。

3. パルス状マイクロ波

 ISM(lndustrial Scientific and Medical Use)の定めで2450MHzが主体である。無処理、マイクロ波の連続波(CW)およびパルス波(PW)処理でそれぞれの生存率が検討され、無処理に比べてCWとPWは同温度の無処理よりも生存率を低下させ、比較的高温の条件でPWが優位になることが認められている。これらは細胞膜の損傷、酵素タンパク質、DNAの不可逆的構造変化などを引き起こす電気的効果を示唆するが、確定の段階に至ってはいない。

4. 高電圧極短パルス放電

 衝撃波あるいはラジカルを生成する放電と異なり、高電圧のパルス電界は細胞膜に大きな損傷を引き起こす。その機構は,極点方向に最も大きな誘導膜電位が細胞の半径および印加電圧に応じて発生し、膜は電気的緊縮状態となる。誘導膜電位が約1Vに達すると、細胞外圧と内圧および膜の柔軟性との力のバランスが崩れ、不可逆的に膜に孔が生じて細胞は死に至る。この現象は電気穿孔(Electroporation)と呼ばれ、この原理から細胞膜構造を持たない胞子には効果が少ないことになる。

5. 放射線

 物質をイオン化(電離)する放射線は電離放射線と呼び、この電離放射線による殺菌が放射線殺菌である。食品・農産物照射に利用できる放射線はコバルト60とセシウム137からのガンマ線、10MeV以下の電子線、5MeV以下のX線に限られている。放射線照射で生じた・OHラジカルなどにより、DNAが2本鎖部分で切断されて、その修復が困難かあるいは修復ミスにより菌が死に至るとされている。ガンマ線照射に比べて線源補充が不要でスケールメリットと放射線エネルギー利用効率に優れる電子線照射に関心が集まりつつある。

6. オゾン、電解酸性水

 日本では食品添加物として認められている。主流の殺菌料である次亜塩素酸ナトリウムと比較して、そのままオゾンガスを溶かすのではなく単に水道水を電解し陽極にできたオゾン水によってオゾンの濃度を高めることで殺菌力を高くすることができ、使用後の洗浄が不必要で安全性が高く食品の味を損ねにくく、クロロホルムを生成しないという点が特徴的である。アメリカ合衆国では、1997年6月に食品の殺菌剤として安全性に問題がないGRAS(一般安全認定)に分類され、FDAが2001年6月に食品添加物として安全であると発表している。
 殺菌効果がある電解水は酸性電解水、電解次亜水と呼ばれており、それぞれ専用の装置からつくられる。海に近い漁港では、海水から殺菌電解水を作って、漁船や施設(魚市場や水産加工場)の洗浄に使われている。海水と電力があれば消毒・殺菌剤が不要である。

7. 光パルス

 光パルス殺菌は医薬品製造で実用化されているのみで、食品製造には用いられていない。 従来,光による殺菌方法として紫外線殺菌が実用化されているが、紫外線殺菌は低コストである反面,油脂の酸化や色素の退色の促進,あるいはタンパク質の変性など食品の品質を劣化させる場合があることが知られている。また、光の当る表面のみしか殺菌されないことなどから、食品の殺菌には適用困難とされていた。一方で、食品原料の微生物汚染は表面において著しいことが多く、薬剤殺菌や紫外線殺菌よりも効果的に殺菌が可能であれば光パルス殺菌は有効であると考えられる。

 最後に、
 衛生管理および品質・生産性の向上の観点から、以前に増して物理的手法による非加熱的殺菌に関心が集まりつつある。

以上