2021/04/19
技術用語解説17「非破壊分析 (Non-destructive analysis)」
非破壊分析は、食品の成分・品質特性をそのままの状態で分析する技術であって、食品の外部から入力されたエネルギが出力されるとき、入力と出力の関係から成分等に関する情報を得る方法である。多くの場合、エネルギは食品に対して能動的に作用するが、外部からエネルギを入力することなく、自らが発するエネルギを利用する受動的方法もある。赤外放射や化学発光(ケミルミネッセンス)などが後者の例である。
非破壊分析は、使われるエネルギの種類によって、次の5つになる。
(1) 光学的方法 (紫外、可視、近赤外、赤外などの光学的エネルギを利用する)
(2) 放射線的方法 (エックス線、べータ線などの放射線的エネルギを利用する)
(3) 力学的方法 (振動,超音波などの力学的エネルギを利用する)
(4) 極磁気学的方法 (マイクロ波,磁力生どの電磁気学的エネルギを利用する)
(5) その他の方法に分類される
狭義には非破壊分析では対象物を壊さないことが要求される。しかし、食品を対象とする場合、粉砕のような簡単な物理的、機械的前処理を施す場合でも非破壊分析に含めることが一般的である。すなわち、分析に際し試薬など化学薬品を使う湿式化学分析法と異なり、一切の化学薬品を使わない物理計測による分析法であって、分析後においても対象物が食に供される状態にあり、分析により商品価値を損なうことのない分析法であれば広義に非破壊分析の範疇に含められると考えてよい。
非破壊法の特徴としては、次の5つがあげられる。
(1) 分析に際し化学薬品を必要としないため、分析コストの低減化が図られる
(2) 試料の調製が簡単で迅速な分析が可能である
(3) 分析に際し特別に熟練した者を必要としない
(4) 同一の検体を反復して使える
(5) 分析に際し秤量のプロセスを必要としない
などがあげられる。
非破壊分析の中では光学的方法が最も普及している。中でも近赤外の吸収を利用した方法は、固体、粉体、液体、ペーストなど食品の形態によらず応用され、小麦中のタンパク質定量の例のように、公的機関における公定法となっているものもある。この方法の検出限界は0.1~0.2%程度であって、対象とする成分がこの範囲以上であれば、湿式化学分析に代わる有効な分析法となる可能性が高い。
最近、近赤外域に吸収を持たない灰分、食塩など無機質の分析にも応用されているが、この場合は、無機物と水または無機物と有機物との相互作用が、近赤外スペクトルに微妙な変化を及ぼすことを利用する。また、近赤外による非破壊分析の特徴の一つは、一度に複数の成分値が得られるため、米の食味や小麦の製パン性などの例のように、複数の成分値が関連する食品の総合的品質を評価する手段として応用できることである。
電磁気学的方法のうち、電気伝導度を利用した分析法として、果汁中の有機酸含量などの迅速分析法が実用化されている。果実の成熟度をインピーダンスにより分析するための技術開発が行われているが、実用化にあたっては、現状の侵襲型電極に代わる無侵襲型電極の開発が望まれる。溶液中の特定のイオン濃度に対応した起電力を発生するイオン選択性電極を用いたイオンメータが開発されており、この方法は、バイオセンサを含め極めて特異性の高い分析が可能な点が特徴である。
核磁気共鳴(NMR)や電子スピン共鳴(ESR)のように磁気共鳴を利用した非破壊分析も注目されている。NMRでは水、油など液体状の物質の分析は可能であるが、本来デンプンのように結晶性が高い固体成分の分析には向かない。FT-NMRや超伝導による強磁場を利用したNMRの開発により、従来の欠点が改良されるとともに、成分の内部分布を映像化することのできるNMR-CTが実用化されている。
ESRによる非破壊分析は、食品中の油脂が酸化する過程で生じるフリーラジカルのような不対電子を有する物質を検出することにより、食品の酸化度を分析するために利用される。
今後、非破壊分析を普及させるためには、ハードとソフトの両面からの技術開発が必要であり、迅速性の確保とともに測定精度の向上を図る必要がありまた、機器の価格の低減も重要な要因となるといえる。
以上