2021/05/10
技術用語解説18『固定化酵素・微生物 (Immobilized enzymes / microorganisms)』
1. 酵素・微生物を固定化する利点
酵素や微生物などの生体触媒は、通常は水に溶けた状態、あるいは懸濁した状態で使用するが、固定化することにより次のような利点が生じる。
(1)不安定な生体触媒を安定化できる
(2)回収が容易になるため繰り返し使用できる
(3)高濃度で固定化すれば高密度生体触媒が得られる
(4)水溶液ばかりでなく有機溶媒でも使用できる
等の利点である。
2. 固定化法
生体触媒を固定化する方法は大きく分けて次の3つがある。
(1)生体触媒どうしを結び付け高分子化する架橋法
(2)水不溶性の固体(担体)に生体触媒を結合する担体結合法
(3)微少な生体触媒を高分子物質で包み込んでしまう包括法
があり、担体結合法には、共有結合法、イオン結合法、物理的吸着法がある。
(1)架橋法
担体を使用せずに生体触媒を、架橋試薬を用いて化学的に結合することにより固定化する方法であり酵素、微生物に適用できる。架橋試薬の反応性が重要であり、各種の架橋試薬が開発されている。古典的な架橋試薬としては、グルタルアルデヒドがあり、微生物の細胞壁や細胞膜の強化、工業用固定化酵素の製造等に多用されている。
(2) 担体結合法
①共有結合法
不溶性の担体上に共有結合により固定化する方法であり、主として酵素の固定化に用いられる。担体としては、多糖類、アミノ酸共重合体、ポリアクリルアミド、スチレン樹脂、多孔性ガラスの誘導体、セルロース誘導体等、多種多様なものが開発されている。
最も手軽に活用されている担体としては、セルロース、セファデックス、セファロース等の多糖類系の担体を臭化シアンで活性化したものであり、酵素と活性化担体を弱アルカリ性で混和するだけで固定化が完了し、固定化した酵素の漏出も少ない。
②イオン結合法
イオン交換基を有する水不溶性の担体に生体触媒をイオン結合により固定化する方法であり、主として酵素の固定化に用いられる。この固定化法は、酵素と担体を撹拌するだけでよく、固定化条件が極めて穏和であり操拌条件であるため、固定化による酵素の失活が少なく比活性の高い固定化酵素が得られる。しかし共有結合法に比べ酵素と担体との結合力が弱く、イオン強度の変化やpHの変化により固定化した酵素が担体から溶出しやすいという欠点を有する。この欠点は固定化酵素の再生が容易であるという利点にもつながり、活性の低下した固定化酵素を洗浄後、新たな酵素と混和すれば再生できる。固定化に用いる担体は、多糖類誘導体、合成高分子、無機物と様々であり、その表面に強・弱陰イオン交換基,強・弱陽イオン交換基等の各種官能基が付いている。
③物理的吸着法
活性炭、多孔性ガラス、シリカゲル、疎水性残基を有するアガロースやセルロース等の物理的吸着力を利用する方法であり、固定化操作はイオン結合法と同様であり、極めて簡単であるが、酵素と担体との相互作用が弱く固定化した酵素が担体から離脱しやすいという欠点がある。
(3)包括法
微生物の固定化に適した方法であるが、酵素の固定化にも適用できる。カラギーナン、アルギン酸を始め、寒天、ペクチン、こんにゃく粉、キトサンなど、ゲル化する天然多糖類と生体触媒を混和し固定化する。こうした天然物以外に化学合成した樹脂も開発されている。光架橋性樹脂の場合には、プレポリマと生体触媒を混和し、可視光線や近紫外線を照射すればフィルム状、あるいは粒状の固定化生体触媒が得られる。プレポリマの鎖長を変えることにより、形成されるゲルの格子構造の粗密度合いを変化させることができるし、疎水性のゲルをつくることもできる。低温下で放射線重合するプレポリマも開発されている。
3. 実用例
ブドウ糖を原料とする異性化糖(果糖ブドウ糖混液)の製造では既に架橋法で固定化した微生物が利用されている。さらにサイクロデキストリン、オリゴ糖等の食品素材、屠畜血液や乳を原料とする高機能性蛋白素材の製造、さらには、醤油、食酢の製造等、多くの分野で固定化酵素・微生物の実用化に向けた研究がなされている。また、ブドウ糖エタノール、アミノ酸等を測定するため各種酵素あるいは微生物を固定化した酵素センサー、微生物センサーに関しては極めて多くの研究報告があり、既に一部の汎用的なセンサーは実用化されている。
以上