2021/05/24
技術用語解説19 『洗剤 (Detergent)』
洗剤とは汚れをおとす際に物理的な力と共に使用される薬剤一般の呼称で,その成分は対象とする汚れの種類、基材の種類,洗浄方法により大きく異なる。本解説では食品工業で使用される洗剤に的を絞り、成分を組み立てる場合の考え方や組成について述べる。
1. 洗剤の設計
洗剤は洗浄する汚れの種類、固体表面の性質および機械力の種類により要求される品質が大きく変わる。汚れと最適洗剤成分の関係は次のようである。
① デンプン類:
糊化しない状態のデンプンは水により容易に除去可能であるが、糊化老化したデンプンはアルカリ性洗剤の使用やデンプン分解酵素の添加が有効である。
② 油脂類:
油の融点以上の温度では界面活性剤の乳化・可溶化作用により、融点以下の場合は分散・懸濁作用により除去する。付着が強固な時にはアルカリの添加によりケン化作用を利用する。
③ 蛋白質:
水に不溶でアルカリに溶解するためアルカリ性で洗浄する。蛋白分解酵素の添加が非常に有効である。
④ 無機質:
スケールのような水不溶性物質は酸性で洗浄する。燐酸塩、有機酸のようなキレートビルダーの添加が有効である。
⑤ 有機・無機混合汚れ:
弱酸またはキレート剤を配合したアルカリ性洗剤が効果的である。
機械力の面を考えると、高圧液体噴霧洗浄、循環洗浄等の機械洗浄では、洗浄液が泡立つと泡がクッションの役割をして機械力が弱まるため、この用途の洗剤には抑泡性が要求される。
2. 洗剤の種類と使用法
食品工業用洗剤は使用時のpHにより表1のように分類される。
① 中性洗剤:
中性洗剤のpHは6.0~8.0の範囲にあり、その組成例を表2に示す。
主成分は直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、硫酸アルキルポリオキシエチレン塩(AES)のようなアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤であるアルキルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド等が用いられる。使用上の便利さの面から液体の製品が多く液状を保つために、エタノール、尿素、低級アルキルベンゼンスルホン酸塩のような可溶化剤が配合されている。界面活性剤を主成分とするため油脂類に対する洗浄性が良いことが特徴であり、pHが中性であることから皮膚に対する影響が少ないので主に手洗いに用いられる。
表1.洗浄時のpHによる洗剤の分類
種類 | 酸性洗剤 | 中性洗剤 | 弱アルカリ性洗剤 | 強アルカリ性洗剤 |
---|---|---|---|---|
pH | < 6.0 | 6.0~8.0 | 8.0~12.5 | >12.5 |
主成分 | 無機酸 燐酸 硝酸 有機酸 クエン酸 グルコン酸 界面活性剤 |
アニオン 界面活性剤 ノニオン 界面活性剤 溶剤 |
無機アルカリ塩 燐酸ナトリウム 珪酸ナトリウム 炭酸ナトリウム 界面活性剤 キレート剤 |
無機アルカリ 水酸化ナトリウム 水酸化カリウム 珪酸ナトリウム 界面活性剤 キレート剤 |
主な用途 | 無機スケール除去用 | 手作業用(COP) | 自動洗浄機用 手作業用(COP) |
定置洗浄用(CIP) 洗壜機用 |
表2. 中性洗剤の組成例 (%)
組成主成分例 | 例1 | 例2 | 例3 | 例4 |
---|---|---|---|---|
1.直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム | 24 | 20 | 12 | – |
2.硫酸アルキルポリオキシエチレンナトリウム | 14 | 5 | – | 12 |
3.アルキルポリオキシエチレンエーテル | – | – | 3 | – |
4.脂肪酸アルカノールアミド | – | – | – | 8 |
5.エタノール | – | – | – | 5 |
6.尿素 | – | 5 | – | 5 |
7.キシレンスルホン酸ナトリウム | 7 | – | – | – |
8.その他 | 3 | 3 | 1 | – |
9.水 | 残余 | 残余 | 残余 | 残余 |
② 弱アルカリ性洗剤:
使用時のpHが8.0~12.5であり水酸化アルカリは含まない。主成分は、トリポリ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、第2燐酸ナトリウム等の各種燐酸塩、オルソ珪酸ナトリウム並びにメタ珪酸ナトリウムなどの珪酸塩、および、炭酸ナトリウムのような無機成分である。通常、低泡性のアルキルおよびアルキルフェノールのポリオキシエチレンエーテル、オキシエチレンオキシプロピレンのブロックポリマー等ノニオン界面活性剤を少量含む。強アルカリ性洗剤より化学的洗浄力は劣るが、作用が比較的おだやかで中性洗剤と同様に手洗いにも使用する。形状は無機塩が主成分であるので粉体が多い。
③ 強アルカリ性洗剤:
pHが12.5以上の強アルカリ性である。水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を主成分としている。各種の耐アルカリ性界面活性剤が少量配合される。強い水酸化アルカリの化学反応力により、蛋白質や炭水化物に対する洗浄力は食品工業用洗剤中で最も高い。強力な作用のため循環洗浄や洗壜等の自動洗浄機用に用途が限定される。使用の際には、溶解熱や希釈熱が大きいこと、強アルカリであることに留意し、皮膚などに直接接触しないよう注意が必要である。
④ 酸性洗剤:
pHは6.0以下である。アルカリ性洗剤では除去不可能な各種のカルシウム塩、マグネシウム塩および珪酸塩からなる水不溶性の無機質スケールを除去するのに使用する。主成分は無機・有機の各種の酸である。燐酸は作用がおだやかで界面活性剤を配合し無機物だけでなく有機汚れに対する洗浄力を賦与できる。この他の無機酸として硝酸は、ステンレス鋼表面を酸化力により不動体化し腐食しないので用いられるが、塩酸・硫酸は腐食性が激しいため特定の用途以外には使用されない。クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等の有機酸類は、湖沼等の閉鎖水域の富栄養化問題に対する洗剤の無燐化に関連し、燐酸に代わる酸性成分として使用されている。
以上