技術用語解説20 『食品のGMP(適正製造基準)(Good Manufacturing Practice)』

技術用語解説20『食品のGMP(適正製造基準)(Good Manufacturing Practice)』

1. GMPとは
 安全な食品を製造・加工し,流通させることは食品営業者の大きな社会的な責務である。そして衛生的で良い品質の食品を生産するには、しっかりした管理体制のもとで、綿密に計画された日常の品質・衛生管理を実施する必要がある。
 GMPとはGood Manufacturing Practiceの略で,「適正製造基準」と訳されている。GMPというのは、わが国の食品衛生法で規定されている「規格基準」のような抽象的に示された最低基準ではなく、より高い衛生的品質(Sanitary quality)の製品を得るための技術的基準であって、科学的根抛に基づき、しかもこれを具体的に示した法的規制ということができる。医薬品などでは広く導入が進んでいるが、食品のGMP(適正製造基準)の考え方の基となった歴史的な経緯、背景について少し解説することにする。

2. GMPの歴史と医薬品のGMP
 米国のFDA(食品・医薬品管理庁)では、1963年に医薬品のGMPを制定し、翌年から施行した。その狙いは、医薬品の原料の受け入れから最終製品の製造、保管、さらに出荷に至るまで、一貫した品質管理を行い、不良医薬品の発生防止ならびに医薬品の高度の品質確保を企図したものである。そしてこの考え方は国際的にも受け入れられるようになり、WHO(世界保健機関)では1969年に「医薬品に関するGMP」の設定を加盟国政府に勧告した。日本国内でもこの勧告に基づき、種々検討が行われ昭和49年(1974年)9月に厚生省薬務局長から「医薬品の製造及び品質に関する基準」が通達された。この基準は、わが国では医薬品のGMPと呼ばれたが、いわば自主製造・品質管理についての指導基準で、法的強制力はなかった。しかし昭和54年に薬事法の一部改正により「医薬品の製造管理及び品質管理規則」が制定され、「医薬品のGMP」は名実ともに法制化されたのである。

3. 米国における食品のGMP
 米国では1969年に「食品の製造、加工、包装または保管における一般的適正製造基準」Current Good Manufacturing Practice in Manufacturing、Processing、Packing or Holding Human Food、Code of Federal Regulation、Part 110を公布している。
これは一般に「食品のGMP基本法」といわれていて、加工食品の製造等に関する基本的衛生法規という性格のもので、この法律に基づいて具体的に食品別のGMPを定める仕組みになっているところから「GMPの傘」Umbrella GMPと呼ばれている。

米国における食品別のGMPの策定状況をみると、まず1970年に燻製魚類および冷凍パン粉つきえびのGMPが制定され、1973年には低酸性食品缶詰、1975年にはココアと砂糖菓子、びん詰飲料水などのGMPが制定され、現在までに10数品目の食品のGMPが策定されている。米国の食品のGMPは一見わが国とは全く無関係と思われるが,対米輸出缶詰製造業者は、缶詰食品のGMPの中の「緊急許可」の現定(Emergency Permit Control)により拘束を受け、対米輸出を前提としてFDAに対し缶詰の加熱殺菌条件を申告することが必要になった。

4. 国際食品規格とGMP
 1962年に発足したFAO/WHOの合同国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission)の加盟国は2019年7月現在180か国以上に達し、すでに300以上の規格が設けられている。この国際規格の中には、個別食品の品質規格のほか、食品添加物、残留農業、食品表示および食品衛生の分野も含まれていて、すでに衛生的取扱規定(Code of Hygienic Practice)をはじめ幾つかの食品についてGMPについても勧告されている。わが国も加盟国の1つである。食品の国際貿易の進展のため、今後は長期的視野に立って国際規格を受け入れるようにすべきであろう。特に特定の食品を定義づける標準規格で、主食となる米や麦などの穀物類、野菜、果物、肉、魚、缶詰、さらにはオリーブオイル、チョコレート、はちみつ、キムチなど、200品目を超える幅広い食品の定義づけがされていることから関係する食品については注視することが大切である。

5. 日本における食品のGMPの動向と問題点
 現在のところ厚生労働省では食品のGMPを法制化する計画があるとは聞いていない。しかし、GMPに近い技術的内容をもつ「衛生現範」策定の作業が進められていて、昭和54年4月に「弁当及びそう菜の衛生規範」が厚生省環境衛生局食品衛生課長通知として出され、次いで56年9月に「漬物」、58年3月に「洋生菓子」、そして62年1月に「セントラルキッチン/カミサリー・システム」の衛生規範が通知として出されている。一方、農林水産省食品流通局では,昭和49年7月に「缶詰食品」および「植物油脂」について製造流通基準を局長通牒として出して以来、煮豆、豆腐など幾つかの加工食品について製造流通基準が通達されている。これらは食品業界から、日本版食品のGMPといわれ、内容もかなり具体的に示された品質管理に関する技術基準といえるようである。

 しかし、現在の厚生労働省の「食品の衛生規範」も農林水産省の「製造流通基準」もいずれも法的拘束力はなく、この点では米国の食品のGMPや国内の医薬品のGMPとは根本的に性格が違っている。しかし、上記の「衛生規範」や「製造流通基準」を食品工場の自主衛生・品質管理に活用することは、安全で良い品質の生産・流通にとって極めて有効な手段となるに違いない。しかしながら、問題はどのようにして末端の中小・零細工場まで徹底させ、確実に自主的管理に活用させるかにかかっている。

 「衛生規範」の方は、地域保健所の食品衛生監視員の日常の監視・指導のガイドラインとして活用し得るが、農林水産省の方にはこのような法的根拠に基づく指導体制がないので「製造流通基準」の徹底にはいろいろ問題があるように思われる。

以上