2022/03/22
技術用語解説39『 マイクロ波加熱 (Microwave heating) 』
1. マイクロ波と高周波
高周波とは周波数が10KHzから300MHzの範囲の交流 (注:1MHz=103KHz=106Hz) の ことであり、300MHz以上の交流で、極めて短かい波長の電磁波をマイクロ波と呼んでいる。したがって、高周波では1秒間に1万 ~3億回も電場の極性が変化しており、マイクロ波ではそれ以上に電場の極性が変わる。このように交流の周波数が多くなると電流は、導体中はもちろん、絶縁物や空間でさえ自由に流れやすくなる性質がある。自由空間に流れ出た高周波やマイクロ波は電波と呼ばれ、その速度は光の速度と同じなので、周波数の多い電波ほど波長が短くなる。そこで高周波のことを短波または超短波といい、マイクロ波は極超短波とか超高周波と呼んでいる。
2. 高周波誘電加熱とマイクロ波加熱の原理
誘電体(絶縁体)を2枚の平行電極板の間に挿入し、これに高周波電圧を加えてみる。誘電体 を構成する分子のほとんどは、その両端に正負等量の電荷を有する双極子を形成している。誘電体はこのような多数の双極子の集合体とみなされ、それぞれの双極子は任意の方向に向いているが、電極に高周波電圧が印加されると、双極子の有する正負の電荷は、異符号の電極電位との間に引力を生じて、その向きを変える結果、すべての双極子が一定方向に整列することになる。
しかし高周波電圧は周期的にその極性が変わるので、電極の電圧極性が反転するに伴って、双極子の向きも逆転する。このようにして、誘電体を構成する各分子が電源の周波数に応じて反転を繰り返す際、互に衝突したり、摩擦し合ったりして内部発熱するのである。以上が高周波誘電加熱の発熱原理であり、発熱量は周波数が多いほど大となる。しかし最適周波数以上の高周波を用いると、かえって双極子の反転が行われなくなって、発熱量が低下する。高周波誘電加熱では物体の内部も外部もほとんど同時に発熱するので、通常の熱源による外部加熱方式に対して、内部加熱方式ということがきる。
一方、マイクロ波加熱の最も基本的な形態は、オーブン (密閉金属函) の中に食品を置き、こ れにマイクロ波を照射する方式で、国内では2450MHz (波長120mm) のマイクロ波が用いられている。このマイクロ波はオーブンの金属壁によって乱反射されるので、食品は四方八方からマイクロ波の照射を受けるわけであり、食品組織中ではマイクロ波エネルギが分子の回転や振動に変わって摩擦熱を発生し、内外部ともに発熱して食品の温度が上昇するが、マイクロ波の強度は急速に減衰する。
3. マイクロ波加熱の特色
マイクロ波加熱はマイクロ波エネルギを被加熱物体内で熱に変換するのが目的であり、これを図式化すると、マイクロ波エネルギ ⇒ 双極子の振動・回転 ⇒ 熱エネルギ (摩擦熱) ⇒ 試料温度の上昇となる。しかしマイクロ波は空間に流れやすい性質があるので、加熱装置か らは多少なりとも外部に電波となって漏洩し、付近のラジオ、テレビなどを妨害することが ある。これを防止する目的で電波法が設けられており、工業用マイクロ波加熱設備は若干 の規制を受けている。しかし表1.に示す工業用の割当電波を使用すれば、電波法の規制を受けないですむ。そのため、国内の食品工業界では、2450MHzのマイクロ波が最も多く使用されている。
割当周波数(MHz) | 許容偏差(MHz) | 波長(mm) |
---|---|---|
13.56 | ±0.05% | |
27.12 | ±0.06% | |
40.68 | ±0.05% | |
915.0 | ±25.0 | 328.0 |
2450.0 | ±50.0 | 122.5 |
5800.0 | ±75.0 | 51.7 |
22125.0 | ±125.0 | 13.6 |
人類は石炭、重油、電熱などの熱源を用い、外部加熱方式によって、食品の調理加工を行ってきた。これら従来の加熱は外部熱源から物体に熱エネルギを与えて加熱する方式であり、熱は被加熱物体の表面から内部へと伝導によって伝えられる。したがって被加熱物体の品質を劣化させないように表面温度を抑えると、熱が食品の内部まで達するのに、多くの時間を必要とする。これに対しマイクロ波加熱では、被加熱物体が外部熱源なしで発熱するという特異な性質があり、大きな物体でも、表面と内部をほとんど同時に加熱することがで きるので、食品の品質を損なうことなく、短時間で加熱処理が可能となる。しかしマイクロ波の浸透深度には限界があり、厚物食品には半減深度の深い周波数の少ないマイクロ波、薄 物食品には半減深度の浅い周波数の多いマイクロ波が適している。これらのことから、食品の調理はもとより、虫害防除、殺菌保存等に広く応用されるに至っている。
以上