2022/05/23
技術用語解説43『バイオセンサ (Biosensor)』
生物素材の持つ分子識別能を素子として利用し、電極、半導体等の信号変換器と組み合 わせて、化学物質の量(濃度)を電圧や電流などの変化量として捉える検知器の総称である。
1. 構成と特徴
バイオセンサの基本構成は目的化学物質を識別する分子識別部位(レセプタ)と分子識別部位によってもたらされた物理・化学的変化を検出する信号変換部位(トランスデューサ)と から成る。分子識別部位には酵素をはじめとして微生物、オルガネラ、動物細胞、動植物組織、抗原・抗体等が用いられており、これらの素子は膜あるいは各種の支持体に固定化されている。また、トランスデューサとしては、固体電極、イオン電極、ガス感応電極、半導体素子さらにはサーミスタ、フォトン(光子)カウンタ等が用いられている。
バイオセンサの最大の特徴は生物素子の有する厳密な分子識別能を巧みに利用している点で、多種多様な成分が混在している被検液中から目的成分のみを直接、選択的にかつ鋭敏 に測定できることである。したがって、抽出、蒸留等の前処理や分解操作などをほとんど必要とせず、生体試料、食品試料の分析や廃水、発酵液のモニタリングなど有機物の検出・定量に威力を発揮している。
2. 種類と応用
分子識別素子、信号変換デバイスについては多種多様の組み合わせが可能であるが、用 いる素子の種類によって、酵素センサ、微生物センサ、オルガネラセンサ、免疫センサ等に区別されている、一方、用いるトランスデューサ によっても、電極バイオセンサ、半導体バイオセンサ 、バイオサミスタ、発光計測型バイオセンサ等に分類されている。
(1) 酵素センサ:
初期の段階から開発されているセンサで現在最も実用化が進んでいる。多くの場合、酵素固定化膜と酸素電極あるいは過酸化水素電極との組み合わせで構成されている。代表的なセンサはグルコースセンサであり、糖尿病患者の血糖値測定など医療分野で利用されている。この他に、多数の糖類、脂質、尿素、尿酸、アミノ酸、アルコールさらには有機酸などを測定するセンサが開発されている。
(2) 微生物センサ:
分子識別素子に微生物を利用したセンサである。微生物を生きたまま膜などに固定化し、微生物の呼吸活性あるいは代謝産物をモニターする。水質汚濁の指標であるBOD(生物学的酸素要求量)を測定するセンサやグルタミン酸発酵の工程管理などに利用されるグルタミン酸センサなど多数開発されている。
(3) オルガネラセンサ:
ミトコンドリアやミクロソームなど細胞内に存在する小器官(オルガネラ)を素子とするセンサである。ミトコンドリアの電子伝達系を用いNADHの識別や肝ミクロソームを用 いる亜硫酸の測定が行われている。
(4) 免疫センサ:
抗原・抗体反応を利用したセンサである。初期の免疫センサは、抗原あるいは抗体を固定化した膜と酸素電極とから構成され、このセンサで各種のタンパク質、ホルモンなどが測定 された。最近、ガン細胞と特異的に反応するモノクローナル抗体を用いてガン細胞を識別す る免疫センサも開発されている。
3. 最近の動向
初期のセンサは単一の化学物質を測定するものであったが、最近では2種類以上の化学物質を同時に測定する多機能型センサの開発が盛んである。魚肉の鮮度を測定する鮮度セ ンサは3種類の物質を測定しコンピュータ解析により鮮度を表示するシステムである。ま た、バイオセンサの寿命は比較的短いといわれているが、好熱性微生物由来の耐熱性酵素を用いて長寿命化が図られている。
一方、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)を利用 したバイオセンサや半導体加工技術を利用した微小過酸化水素電極は、多成分同時定量や臨床医学における体内埋込型センサを目指すものであり、今後の発展が期待されている。
以上
【参考文献・引用】
- 「バイオセンサ」鈴木周一編 講談社サイエンティフィク
- 「バイオセンシング」軽部征夫編・著 啓学出版