2022/07/19
技術用語解説47『 3Dフードプリンター ( 3D food printer ) 』
1. 3Dプリンターとは
3Dプリンターとは、3次元(3D)の設計図を基に材料の層を蓄積させ、立体物を造形する機械であり、1980年代から実用化が進んできた。樹脂や金属、セラミックなどの素材を原料として、工業用品や金型など製造業の他、医療や建築などの分野でも活用が広がっている。
3Dプリンターの登場により、これまでの「同一規格化・大量生産による低コスト化」から脱却し、大規模な設備を持たずに短納期で小ロットをオンデマンドで生産することが可能となった。
2. 3Dプリンターを食品分野へ応用
「3Dフードプリンター」は、2016年頃から食品メー カーや先進的なレストランなどで導入され始めた。様々な市場会社が3Dフードプリンティング(食品印刷)の世界市場に関する予測を行っているが、2025年頃までに4億ドル~10億ドルと予測の幅が大きい。現状3Dフードプリンターは一般的に普及しているとはいえず、今まさに黎明期にある技術であり、今後普及の道をたどるのかが注目される。
3Dフードプリンターの技術には、熱で溶かしてチョコレートやグミなどを立体成型する「熱溶解蓄積法」や、タンパク質や脂肪など食べることが可能なフードインクをセットしてピザ生地などを出力する「インクジェット法」などがある。 また、3Dフードプリンターには、食材や食感に対する柔軟性、データに基づく再現性、個人の好みに応じたカスタマイズ、サプライチェーンにとらわれず必要な時に必要なものを必要なだけ作るオンデマンドといった特徴があげられる。
これらの特徴を活かし、3Dフードプリンターは食品ロスや環境問題といった食に関わる社会課題を解決するとともに、便利かつ楽しく、個人の嗜好やニーズに合わせた新たな食の価値を提供することが可能と期待されている。
3. 代替肉や培養肉へも活用
3Dフードプリンターは、大豆などの植物性タンパク質を原料とする代替肉の成型加工にお いても、「肉らしさ」を再現可能な技術として注目されている。
イスラエルのスタートアップ企業Redefine Meatは 3Dフードプリンターを用いて植物ベースの代替肉ステーキを作る技術を 開発した。3Dプリンティング技術により、従来の方法ではできなかった複雑な形状を作り出 すことが可能となり、本物の肉に見た目や食感、風味がそっくりな3Dプリント肉が出来上が るという。2021年前半には同国内のレストランや高級肉専門店などで3Dプリント肉を販売開始されると報道されていた。 また、3Dフードプリンターは動物細胞を組織培養して得られる培養肉においても活用が期待されている。
2021年2月、イスラエルの培養肉スタートアップ企業 Aleph Farms は、牛から抽出した生きた細胞を3Dプリントし、血管のような独自のシステム内で培養して成長、分化、相互作用させることで本物のステーキ肉のように筋肉や脂肪分を含む培養リブロース肉の 開発に成功している。同社は 2022年頃にはイスラエル国内で培養ステーキ肉の販売の開始を目指すというニュースも流れた。
4. 今後の可能性と期待
3Dフードプリンターは我々の生活により身近な分野での活用も期待されている。農林水産省も3Dフードプリンターの可能性に着目しており、政策提言を推進する「政策 Open Lab」が 2018年に発表した報告書では、3Dフードプリンターの特徴を4つあげている。
(1) 形状・食感・素材に対する「柔軟性」
(2) デ ータに基づく「再現性」
(3) 個人のデータに合わせて最適な栄養・食感・香り・色を調整する「カスタマイズ」
(4) 必要な時に必要なものを必要な場所でつくる「オンデマンド」である。
これらの特徴から、3Dフードプリンターは、フードロスや環境問題、高齢化に伴う労働人口の減少や介護食の 必要性、人口増に伴うタンパク質不足といった様々な社会課題の解決に資する技術として期待される。
さらに代替肉や培養肉などの代替タンパク質など新たな食技術との相性が高く、食品・外食業界に限らず、介護、医療など幅広い分野で用いられ、革新的な食のイノベーションを生み出すとことも期待できる。
3Dフードプリンターに関する技術開発は途上段階にあると言えるが、今後の実用化に向けては、3Dフードプリンターによる独自の付加価値の創出や多様な食材に応用できる汎用的で安価な3Dフードプリンター装置の開発を期待したい。
以上
【参考引用先】
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加速する食のDX:フードテック ~3Dフードプリンターが変える食の未来~
東レ経営研究所 2021.7・8 センサー202107月号_CC2020.indd (toray.co.jp) -
楽しい「介護食」を提供する3Dフードプリンター
リコー経済社会研究所 https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/environment/post_690.html