技術用語解説49『界面活性剤 (Surface Active Agents:Surfactants)』

技術用語解説49『界面活性剤 (Surface Active Agents:Surfactants)』

1. 定 義
 界面活性剤とは、気相、液相、固相などの互いに混ざり合わない相の境界面(界面)に吸着し、界面の性質を変える(界面活性)作用を有する物質である。食品分野においては乳化剤と呼ばれ、乳化、分散、可溶化、起泡、消泡、湿潤、離型、洗浄等の目的で使用される食品添加物をいう。現在食品添加物として認められているものは、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、および使用制限付きでオレイン酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム、オキシエチレン高級脂肪族アルコール、モルホリン脂肪酸塩等があるが、この他に天然からの抽出物あるいは酵素等による生化学的に改質された天然乳化剤も知られている(表1)。

表1. 化学的合成品以外の乳化剤

代表的な品名
エンジュサポニン
キラヤ抽出物
酵素処理レシチン
酵素分解レシチン
スフィンゴ脂質
植物ステロール
胆汁末
大豆サポニン
トマト糖脂質
動物性ステロール
ユッカ・フォーム抽出物
植物レシチン
卵黄レシチン
分別レシチン

界面活性剤は1分子中に水に馴染み易い部分(親水性基)と油に馴染み易い部分(親油性基/疎水性基)の両方(両親媒性)をもった構造をしており、これらの基のバランスをHLB (Hydrophile Lipophile Balance) と呼び、界面活性能の一つの指標となっている。一般的に は、親油性基は長鎖炭化水素基であるが、珪素、フッ素原子等を含むものもある。親水性基はカルボキシル基、硫酸基、水酸基(糖)、リン酸基等、非常に多岐に渡るが、そのイオン性 により非イオン性、アニオン性、カチオン性、両性界面活性剤に分類される。

2. 機能と用途
 食品は炭水化物、タンパク質、油脂、水、空気(気泡)など互いに混ざり合わない物質の集合体(不均一系)で、無数の界面からなっており、また調理、加工工程でも器具、装置との界面もあり、いわゆる食品の品質、物性あるいは調理性、加工性を改善する目的で、非常に多方面で使用されている。その主な機能と用途例を表2.に示す。

表2. 乳化剤の機能と用途

乳化剤の機能 用途例
界面活性能 乳化

分散
起泡
消泡
湿潤
可溶化
離型
洗浄
W/O、O/W/O:マーガリン、バタークリーム
O/W、W/O/W:クリーム、乳飲料、アイスクリーム
チョコレート、ココア
ケーキ、ホイップクリーム
豆腐、発酵製品類、ジャム
粉末食品類、チューインガム
香料
パン、ケーキ、調理
食品工業用洗浄剤
デンプン
複合体形成能
デンプン粒保護
老化防止
粘着防止
ゲル化防止
インスタントマッシュポテト
パン、ケーキ
めん類、春雨
フラワーペースト、デザート類
油脂改質能 結晶制御
クリーミング性
吸水/
吸シロップ性
マーガリン、ショートニング、チョコレート
業務用マーガリン

バタークリーム
タンパク質改質能 グルテンの改質
その他
動物性調整
豆腐、冷凍すり身
その他 グ防菌/防カビ
可塑化
酸化防止

 界面活性剤は一般的には複雑な混合物であるが純度を上げたり、ある種の化合物が共存すると液晶を形成したり、全く違った相図を示すことがあり、思いもよらない機能性を示す ことがある。例えばモノグリセリドはいくつかの液晶構造を示すが、その中の板状のラメラ型液晶が特異的に起泡性を示し、スポンジケーキ用の起泡剤として広く使用されているが、デンプンに対しても、従来よりも老化防止性を向上させる作用があることが知られてきている。
 またレシチンは食品分野において主要な乳化剤の一つであるが、ボスフォリパーゼA2あるいはDで処理することにより乳化性能等の機能性をさらに向上することが知られ、実用化されている。このように純度を向上させたり、生化学的方法による改質で、安全で、しか も機能性を改良あるいは新規な機能の付与を目的に今後も開発が進められていくと考えられる。

以上

【参考文献・引用先】
1. 「化学的合成品以外の食品添加物リスト」厚生省生活衛生局食品化学課 出版:社会保険出版社
2. 「油脂化学便覧 第4版」日本油化学会編 出版:丸善
3. 「食品用乳化剤」著者:日高 徹 出版:幸書房