技術用語解説61『 高真空缶詰 (Vacuum Pack) 』

技術用語解説61『 高真空缶詰 (Vacuum Pack) 』

 全く水を加えないか、ごく少量の水を注加し、高真空で巻締めたのち、缶外部からの加熱によって缶内に発生する水蒸気を媒体として加熱殺菌された缶詰をいう。一般に缶詰の製造においては、殺菌効果を高めるため、内容物が固形物の場合、液汁を加えることによって容器内の空隙を満すことが必須とされている。しかしながら、1957年にフランスで開発されたFlame Sterilizationは、容器内の固形物への良好な伝熱を得るために、必ずしも液汁を必要としない缶詰殺菌技術として登場した。この殺菌法では、ごく少量の水を加え、蓋を仮巻締したのち予備加熱し、缶内に水蒸気を発生させ、缶内の空隙部に残存する空気を置換しつつ缶外へ排出し、しかるのちに本巻締を行い、次いで,缶詰を高速で回転しながら熱伝達を高めたリ、局部的に加熱されることを防ぎながらガスの直火で殺菌する方式を採っている。このシステムは米国で、野菜や果物、特にマッシュルームの塩水漬でよい成績を収めたといわれている。このFlame sterilizationによって製造される缶詰は明らかに高真空缶詰といわれるものであったが、高温のガスフレームの缶容器に及ぼす影響や大量生産向けの連統殺菌装置を使用する点から、世界的にもあまり普及せず、国内でも採用されていない。

 しかしながら、このFlame sterilizationで採用された固形物のみを加熱するという方式は、フレーバー成分や栄養成分の液汁への溶出がないこと、品質改良が期待できる一方で、軽量のため輸送コストの低減が計れる等の利点がある。このため、国内では特別なバキュームシーマーを使用し、高真空で巻締めることによって缶内の残存空気を除去し、加熱媒体は飽和蒸気又は熱水を使用し、静置方式で殺菌することによって、Flame sterilizationと同様の効果を出すことができるバキュームパックと呼称される方式が開発された。通常、高真空缶詰とは、このバキュームパック方式で製造された缶詰をいう。

 5号缶(内容積318.7ml)に固形食品200gを充填し、これに水を10ml注加し、40~74cm Hgの高真空度で脱気、巻締して、その効果を野菜や小エビ、ウィンナーソーセージについて検討し、次のような結果を得ている。缶内の残存空気量の多寡は、容器中心部への伝熱に影響を及ばす一方で、食品成分を酸化して品質を劣化させるため、もっとも重要な考慮点となる。結果的には、真空度と缶内に残存する空気量には直線関係が得られ、真空度が高いものほど残存空気量が少なく、真空度が高いものや添加水量の多いものは熱伝達が良い。70cmHg以上の真空巻締の場合、水煮缶詰の熱伝達とほぼ同じであることがわかっている。このようにして製造される高真空缶詰の品質は、香気成分やテクスチァーの保持、官能検査による綜合判定からも水煮缶詰の品質より秀れていることが明らかにされている。

 固形物サイズは小さいものほど熱伝達が良好であるため、本方式では形の小さいものやスライスした肉薄のものに適している。また、高真空度のため大型缶ほどパネリング(缶胴の一部が外圧によって、押しつぶされ平らなへこみを生ずる現象)が起り易いため、小型缶を採用することが多い。伝統的惣菜である「ひじき煮付」や「キンピラごぼう」等で実用化されている。

以上

【参考文献・引用先】

  1. 「57. 高真空缶詰とは何ですか? – 缶詰・びん詰・レトルト食品情報」
  2. 公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会 https://www.jca-can.or.jp/useful/qa/87