2023/08/04
技術用語解説66『バイオリアクタ (Bioreactor)』
1.定義
生化学反応を行わせる反応器をバイオリアクタと言う。生化学反応は単一の酵素反応 の場合もあり、一連の酵素反応系である場合もある。補酵素NAD(P)などが関与している生化学反応も含まれる。細胞はその中で多くの酵素反応系が統合的に進行している生物体の最小単位であり、生化学反応が進行しているという意味で、細胞も含まれる。細胞を培養するという意図はあまり明確でなく、主として細胞中の生化学反応を利用する目的の反応器を「狭義のバイオ リアクタ」と定義できる。
これに対して細胞を培養する発酵槽や、さらには生物学的廃水処理装置までも含める場合があり、「広義のバイオリアクタ」と定義できる。細胞としては微生物、動物および植物などすべての生物体が含まれる。
前者の定義は主として日本で用いられており、後者の定義は主として欧米で用いられている。ここでは狭義のバイオリアクタについて解説する。
もっともこの両者の定義もその境界はそれほど明確ではなく、ホローファイバー中に細胞を閉じ込めつつ細胞を培養し、代謝産物を生産させる場合などはどちらの定義もあてはまる。 狭義のバイオリアクタにおいて、生化学反応を触媒する酵素(群)あるいは細胞を反応器中に閉じこめて再利用する場合には「固定化」という。このような固定化生体触媒を用いて連続あるいは繰返し反応を行なわせるシステムをバイオリアクタと定義する場合 もある。しかし、デンプンの加水分解に用いる液化型および糖化型α-アミラーゼのように酵素を再利用しないケー スの方が多い。
2.特徴
生化学反応は常温、常圧、中性付近のpH領域で進行するので、バイオリアクタを用い ることによって従来の化学反応と比べて大幅に所要エネルギーが節減できる。また、基質特異性が厳密であるから、副生成物が少なく、高収率で精製工程も簡略化できる。
固定化して生体触媒を再利用した方が効率的であり、さらに連続操作も可能となるので、固定化バイオリアクタの研究開発が盛んに行われている。現在、表1. に示したような工業化 例があり、L型アミノ酸の製造は世界に先駆けて日本国内で開発された。 L型アスパラギン酸などの単一の化合物を高濃度生産している場合には雑菌汚染の防止にそれほど注意す る必要はないが、糖などを用いる場合には定期的な洗浄、55 ℃以上での高温での運転、原 料の熱殺菌またはろ過による除菌などの雑菌汚染防止対策を検討しなければならない。
表1. 工業化されているバイオリアクタの形式
固定化生体触媒の種類 | 製造プロセス | リアクタの型 |
---|---|---|
アミノアシラーゼ | DL-アミノ酸の光学分割 | 充填層型 |
ペニシリンアシラーゼ |
6-アミノペニシランさんの製造 | 充填層型:撹拌槽型 |
アスパルターゼ | L-アスパラギン酸の製造 | 充填層型 |
グルコースイソメラーゼ | 異性化糖液の製造 | 充填層型 |
フマラーゼ | L-リンゴ酸の製造 | 充填層型 |
β-ガラクトシダーゼ | 低乳糖乳の製造 | 充填層型:撹拌槽型 |
L-アスパラギン酸脱炭素 | L-アラニンの製造 | 充填層型 |
酵素 | エタノールの製造 | 充填層型 |
3.固定化方法
物理的吸着、イオン結合、共有結合などにより不溶性の担体に固定化する担体結合法、生 体触媒どうしを二官能性試薬で架橋する架橋法、高分子化合物で生体触媒を包みこむ包括法およびこれらを適当に組合せた複合法がある。 最もよく用いられているのは、アルギン酸かκ-カラギーナンで生体触媒を包括する方法である。いずれの方法も長所と短所を併せ持っており、目的に応じて使い分ける必要が ある。また、形状も粒状、膜状、塊状などがある。
以上