技術用語解説69『アニサキス(Anisakis)』

技術用語解説69『アニサキス(Anisakis)』

1. はじめに

 アニサキス食中毒は、魚の生食習慣のある日本ではかなり古くからあったと考えられるが、原因となる寄生虫が確定されたのは1960年代である。海産魚介類の生食を原因とする寄生虫食中毒の原因の一つとして、クドアが同定されるまでは、日本で最も多発するものがアニサキス食中毒であった。クドアは主に海産魚類に寄生することで知られる粘液胞子虫である。

 

2. 特徴

 アニサキスは、アニサキス亜科に属する線虫の総称である。人への感染源となる魚介類(中間宿主)に寄生する第3幼虫体の多くは、白色で、長さが20~30 mm、幅は0.5∼1 mm程度の少し太い糸状である。終宿主はクジラやアザラシなどの海洋ほ乳類で、その消化管に成虫が寄生する。 症例由来の幼虫の大多数はAnisakis simplexである。人への感染源となる。
アニサキス幼虫が寄生している魚介類は、サバ、サンマ、カツオ、イナダ、イワシ、アジ、イカなどである。アニサキス幼虫は、60℃で1分、70℃以上の加熱で瞬時に死滅し、冷凍処理(−20℃で24時間以上)で感染性を失う。ただし、酸には抵抗性があるので要注意である。

 

3. 食中毒症状

 通常幼虫1匹で発症し、その主症状は、急性胃アニサキス症と急性腸アニサキス症である。前者は、アニサキスが寄生した魚介類を生で食べて数時間後から十数時間後にみぞおちの激しい痛み、悪心、嘔吐を生じる。後者は、十数時間後から激しい下腹部痛、腹膜炎症状などを示す。これらの急性症状は、アニサキスが胃壁、腸壁に刺入することで生じる。
また、緩和型(慢性)アニサキス症を引き起こす場合がある。これは、自覚症状を欠く場合が多く、胃壁や腸壁に肉芽腫が発見され、摘出した肉芽腫内部に虫体の断片が見つかることで、診断が確定される例が多い。

 

4. 食中毒発生状況

 アニサキス食中毒は毎年発生しており、サバ(加工品としてのシメサバを含む)が最も重要な感染源となっている。原因施設は、飲食店と販売店で大部分を占め、 次いで家庭である。
 以下にアニサキス食中毒発生状況(患者数)を示す。〔厚生労働省HPより引用転載〕

アニサキス食中毒発生状況(患者数)

 

5. 予防方法

 魚介類の生食を避けること、あるいは加熱(中心温度で60℃で1分以上)後に食べることが、確実な感染予防の方法である。また、冷凍処理(−20℃で24時間以上)により、アニサキス幼虫は感染性を失うので、魚を冷凍後、解凍して生食することは感染予防に効果的である。米国のFDA(食品医薬品局では、生食用の魚に関して、−35℃で15時間以上又は−20℃以下で7日間以上等の冷凍処理を勧告している。実際、オランダでは1968年に、酢漬けで生食するニシンを調理前に−20℃以下で24時間以上冷凍することを法律で義務付けた結果、アニサキス食中毒が激減したという過去の報告もある。
 家庭で調理する際には、新鮮な魚を選び、すみやかに内臓を取り除くことが予防に有効である。これは、アニサキス幼虫は魚が死亡すると、内臓から筋肉(食用部分)に移動することが知られているからである。また、一般的な調理で使う程度の食酢処理(シメサバ、マリネなど)、塩漬け、醤油やわさびでは、アニサキス幼虫は死なないため、調理前に目視で確認して、アニサキス幼虫を除去することも予防に効果がある。

以上

【参考引用先】

厚生労働省HP「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html