技術用語解説72『熟成 (Aging、ageing)』

技術用語解説72『熟成 (Aging、ageing)』

 熟成という用語は食品学以外の生物学、医学、化学、工学など各分野で広く採用され、それぞれ特有の使われ方がなされているが、食品学の分野でも、英語でageing (aging)、 ripening、 conditioning、 storaging、 maturing、temperingなどいろいろの用語が用いられていることからも明らかなごとく、その使用法は対象食品または処理条件、保存条件などとの関連で多岐に渡っている。熟成の用語として次のような説明がされている。
(1) 十分に熟してできあがること
(2) 〔化〕(ripening)物質を適当の温度に時間放置して化学変化を行わせること。発酵やコロイド粒子の粒径の調節などをいう。時効
(3) 動物体の蛋白質・脂肪・グリコーゲンなどが酵素や微生物の作用により、腐敗することなく適度に分解され、特殊な香味を発すること
となっている。
 あるいは、「食品中の蛋白質、脂肪、炭水化物など酵素、微生物、塩類などの作用により、腐敗することなく、適当に分解し、特殊の香味を帯びること」、「食品が熟して十分にでき上ること、その品質を決定づける色、味および香りが十分に発現できるようにすること」などの表現で説明される。
 では、「食品の製造過程で風味や組織の不十分なものを一定条件下に一定期間放置し、目標とする食品に好適な状態を生成させる現象または操作」をいい、「熟成により調味、香辛成分の吸収や調和、微生物や酵素の作用あるいは成分間の相互作用による風味成分の生成や食品組織の変化が起こる」としている。
 熟成については、その要因を化学的変化、物理的変化、生物学的変化に分けることができる。化学的変化は主に成分の化学反応によって行われ、風味の向上につながるものとなる。物理的変化は食品の肉質その他物性の改善につながるものとなる。生物学的変化は微生物、酵素の働きによって風味の向上、物性の改善の両面につながるものとして類別される。
 また、熟成の方法と関連して、熟成現象を化学的変化や酵素、微生物の作用が食品自体に含まれる要因で自動的に熟成の行われる内的要因による場合と、容器からの成分溶出、微生物酵素の添加、物理的な混合攪拌(その後静置または加熱を伴うもの)、凍結、発色剤など薬品添加等によって他動的に熟成の行われる外的要因による場合に分けられる。なお、成分変化については、植物性または動物性蛋白質、脂質、糖または炭水化物の変化のほか、これら相互間の反応なども含めた総合的変化による場合など、それぞれの食品によって異なる。
 次に若干の事例をあげると、上述の内的要因では食肉、小麦粉などが典型的なもので、食肉はと殺後、死後硬直を経て解硬し、肉質を軟化させるとともに風味の向上を図ること、小麦粉でも小麦を製粉後、ドウ形成能を増大させるために熟成工程は必須の条件である。手延べそうめんも普通のめんとは違った油脂を加えためんで、一定期間ねかせ蛋白質と脂質の反応による特有の物性を付与する処理が熟成工程である。果実では一般に成熟に伴って果肉の軟化と風味の向上がみられるが、種類によっては採収後一定条件で果肉の軟化と香味が特に顕著にあらわれる場合がある(西洋ナシ、アボカドなど)。これを追熟(ripening)といっているが、これも広義には熟成と考えて良い。
 また、外的要因では、パン生地ドウ、チーズなどにおける混合攪拌や微生物の利用による熟成、ワイン、ウイスキーにおける容器詰めでの保存熟成のほか、凍豆腐における凍結による蛋白変性を利用した熟成など、同じ熟成といってもかなり異なる作用機作の総称である。

以上

【参考文献】

  1. 「食品の熟成」監修:佐藤 信 発行:光琳 (1984)
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