技術用語解説73『脱臭 (Deodorization)』

技術用語解説73『脱臭 (Deodorization)』

 臭気を除去または減少させることを脱臭deodorizationまたは除臭といい、そのための脱臭剤deodorant、防臭剤deodorizerなどがある。ある匂い物質に反応して完全にその匂いを消す作用をもつ物質や異る匂いを嗅感覚が別々に感じて脳のなかで相殺して無臭化させる (いわば補色に対する補臭の役目をする)ような匂い物質をみいだすことも考えられる。し かし実際に脱臭の対象となる匂いは一般に悪臭であり、その組成は単純なものではなく、多 種類の匂い物質を含む場合が多いので、これを完全に脱臭して無臭化することは難しい。
 悪臭の原因になる化学物質には低分子量のアルコール、フェノール、脂肪酸、アルデヒド、ケトン、アミン、硫化物の一群があり、その他アンモニヤ、ハロゲン系ガス、塩酸、硫酸、青酸化合物、ホスゲン、アクロレインなどがある。環境汚染防止を目的とした悪臭防止施行令 (昭和47年5月31日)では悪臭物質として、アンモニヤ、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、スチレンの8物質が規制対象になっている。これら悪臭物質の匂いの閾値は一般に極めて低く、たとえば空気1cm3中の×10-10g数で表わすと、スカトール0.04、バニリン0.05 ~ 0.005、 メルカプタン0.00044となる。匂い物質に感応する嗅感覚の強さEは、匂い刺戟量Wの対数に比例するとされウェーバー ・フェヒナーの法則E = k log Wで表わされる。したがって悪臭物質の99%除去に成功 したとしても、なお元の三分の一の匂いが残ることになり、生活環境における悪臭問題解決は大変難しいことが理解できる。
 脱臭方法を大別すると次の4つになる。
(1) 物理的方法
 限られた空間での脱臭法には排気、換気、空気稀釈がある。工場廃ガスでは水、海水のシャワー、噴霧による洗浄や活性炭による吸着脱臭、臭気ガスの熱分解、触媒酸化燃焼、加熱金属触媒を通気する脱臭方法がある。油脂工業では脱臭が重要な工程のひとつであり、常 圧または真空下で水蒸気や不活性ガスを高温の油脂に吹き込んで揮発性成分を抜くことが行われる。工場廃水の脱臭には活性炭、粘土、白土、アルミナ、シリカゲルによる吸着脱臭 法がある。更に硫酸第一鉄L-アスコルビン酸を用いた物理化学的脱臭剤が開発されている。
(2) 化学的方法
 グルタールアルデヒド、グリオキザール、ラウリルメタアクリレートや葉緑素を主剤とす る脱臭剤が空気の脱臭に使われる。廃水の処理には吸着剤のほかに酸、アルカリ、酸化鉄、ソ ーダ灰、硝酸ソーダ、消石灰、ゼオライト、塩素、次亜塩素酸、過マンガン酸カリ、オ ゾンが用いられる。これらと悪臭成分との間で酸化、還元、分解、付加、縮合、重合反応が行われる。
(3) 感覚的方法
 別の匂い物質を混合することにより元の匂いの相殺、 中和、マスキングを行うもので、たとえば調合香料を使った香水による快い気分の醸成、ナフタレン、樟脳によるかび臭のマスキング、香辛料やフレーバー物質による肉類の異臭のマスキングは広義の脱臭といえる。嗅感覚に直接作用してこれを麻痺させる悪臭中和剤が報告されている。
(4) 生物的方法
 動物の糞尿、厩肥、飼料に予め微生物を接種し、通気反転して好気的発酵を助長させ悪臭を消す。大豆加工の際の青くさみ(beany flavor)はアルデヒド類が原因で、 ある種の糸状菌の酵素系による還元反応で脱臭ができる。

以上

【参考文献】

  1. 「悪臭防止法の施行について」環境省HP:
    https://www.env.go.jp/hourei/10/000013.html
  2. 「悪臭防止法施行令」日本法令索引HP
    https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?lawId=0000062554&current=-1
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