技術用語解説74 『無菌充填包装 (Aseptic packaging) 』

技術用語解説74 『無菌充填包装 (Aseptic packaging) 』

1. はじめに

 無菌充填包装は、超高温短時間滅菌法(UHT滅菌法)により微生物を滅菌した食品を、化学的あるいは物理的に滅菌した容器に、無菌的環境の下で二次汚染されることなく充填する方法をいう。本法によると、食品の熱による劣化を最小限に抑え、また微生物は胞子に至るまで完全に死滅させるため、高品質で長期保存の可能な包装食品が製造できる。
 無菌包装が企業的ベースで実用化されたのは1950年アメリカの無菌缶詰システムの開発にはじまる。その後1961年には液体食品の紙容器による無菌充填包装がテトラパック社により実用化され、ヨーロッパ諸国を中心に飛躍的に発達した。
 近年、無菌充填包装は滅菌技術、包装材料、充填包装システムなどの技術進歩と相まって液体食品、高粘度食品、固形物を含む食品類にまで幅広く導入されている。

2. 内容食品の無菌化

 内容物食品の滅菌は経済性の上から加熱処理が広く利用されている.食品の加熱滅菌に対する必要条件は対象となる微生物を最も効果的に死滅させ,食品自体に与える悪影響を最小限に留めるとことである。
 この悪影響とは、食品中の蛋白質の変性、ビタミンなどの栄養成分の破壊、脂肪分の酸化、褐変・退色や変色、風味の劣化などが主なものである。
 液体食品の場合は130~150℃ で数秒間、連続的に流動させて加熱処理するUHT滅菌方法が採用される。これは加熱温度が10℃ 上昇するごとに、化学反応速度は2~3倍になるのに対し、胞子の死滅速度は10倍以上になるためである。 UHT殺菌装置には直接加熱方式と間接加熱方式(表1.)があり、直接加熱方式では蒸気の凝縮による内容食品が希釈されるため、凝縮水と同量の水分を取り除く必要がある。

表1. UHT滅菌装置の加熱方式

加熱方式 UHT滅菌装置
直接加熱方式
(Direct heating system)
インジェクション式(食品中に蒸気を噴射する)
インフユージョン式(蒸気中に食品を噴射する)
間接加熱方式
(Indirect heating system)
プレート式熱交換
多管式(シェル&チューブ式)熱交換
掻き取り式熱交換

3. 容器の無菌化

 容器となる包装材料の滅菌方法には、加熱、薬剤、ガスなどの化学的方法と、紫外線、 γ線、電子線などによる物理的方法(表2.)があるが、滅菌の効果、充填包装システム、容器の形態や材質を考慮してその方法が決められる。

表2. 各種滅菌方法比較

滅菌方式 滅菌方法 容器材料 特徴
加熱 湿熱(蒸生)
乾熱(加熱エア)
金属、ガラス
耐熱性プラスチック
簡便、内部の滅菌性大
容器材料の耐熱性が必要
薬剤 過酸化水素 アルミ箔、多層フィルム 簡便、薬剤の残留性
ガス エチレンオキサイド 紙、プラスチック 大規模滅菌化、オフラインのみ、ガスの残留性、バリア性材料は難
物理 紫外線(UV)
γ線、電子線
プラスチック
紙、プラスチック
簡便、表層滅菌、被対射物への影響少、滅菌効果大、内部までの滅菌が可能、設備費大

  1. 過熱蒸気を用いるシステム:
    180~200℃ の蒸気による高温加熱滅菌法で容器の素材としては金属、ガラスに限られる。
  2. 加熱エアーを用いるシステム:
    乾熱加温エアーを用いる方式で湿熱加熱には適さない包装材料、例えばコンポジット缶などを滅菌する場合に用いられる
  3. 過酸化水素・加熱エアーを用いるシステム:
    プラスチックまたは紙構成の既成型容器、プラスチックのシートより包装機のインラインで成型される容器の滅菌に採用される。過酸化水素を噴霧あるいは浸漬させ滅菌した後、 100℃ 近くの熱風で乾燥させ、同時に残留過酸化水素を水と酸素に分解して、容器表面より除去する。
  4. 過酸化水素・紫外線・加熱エアーを併用するシステム:
    過酸化水素・紫外線を併用することにより滅菌効果は著しく向上するために低濃度の過酸化水素の使用が可能になる。
  5. あらかじめ無菌化された容器を使うシステム:
    エチレンオキサイド、γ線、電子線照射で無菌化した容器を用いるバッグインボックスなど比較的大型容量の無菌充填システムである。
  6. 積層プラスチックフイルムの製膜加工時の熱により無菌化もするシステム:
    使用時に層の一部を剥離し、無菌化効果を活かすシステムである。

表3.に代表的な無菌包装システムの方式、容器材質、形態をまとめる。

表3. 無菌充填包装システム

包装用紙 容器材料 形態 滅菌方法
紙容器
容器成形方式
紙、アルミ箔
ポリオレフィン
ブリック 過酸化水素・熱風乾燥
紙容器
カートンブランク供給方式
紙、アルミ箔
ポリオレフィン
ゲーブルトップ 過酸化水素・熱風乾燥
過酸化水素・紫外線/熱風併用
プラスチックシートより容器成形 容器:プラスチック
蓋:アルミ/ホットメルト
カップ 過酸化水素・熱風乾燥
紫外線
プラスチックカップ供給 (オフライン) 容器:プラスチック
蓋:アルミ/ホットメルト
カップ 過酸化水素・熱風乾燥・過熱蒸気
過酸化水素・紫外線/熱風併用
バッグ供給
(バグインボックス)
多層プラスチック バッグ エチレンオキサイド、γ線
金属缶供給 金属 過熱蒸気
コンポジェット缶供給 紙、アルミ箔
ポリオレフィン
コンポジェット缶 加熱エア

4. 環境の清浄化

 無菌充填システム自体は一般に密閉系であるが、作業環境の空気汚染度が大切なポイントであり、作業場内空気中に存在する菌は、外部環境との接触度、原料資材の搬入頻度、作業員の密度や動きに大きく左右される。

以上

【参考文献】

  1. 「食品設備・機器事典」編集:食品設備・機器事典編集委員会 発行:産業調査会
  2. 「食品包装講座」著者:芝崎勲・横山理雄 発行:日報
  3. 「食品の無菌包装」著者:横山理雄・矢野俊博 発行:幸書房
  4. 「食品の殺菌」著者:高野光男・横山理雄 発行:幸書房
  5. 技術レポート『PETボトルおよび紙容器の飲料充填技術』木本技術士事務所HP
    https://www.kimoto-proeng.com/report/1665
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