『緑茶飲料の製造に必要な基礎知識』

『緑茶飲料の製造に必要な基礎知識』
Basic knowledge required for manufacturing green tea beverages

緑茶の分類

 緑茶はその製造方法により不醗酵茶に分類され、製造の第一段階で加熱によって茶葉中の酸化酵素の活性を停止させ、成分に生化学変化をあまり起こさせることなく、揉捻、乾燥させた茶葉である。この酸化酵素の失活に蒸気を用いる蒸製と釜で炒る釜炒製とに分類され、前者の代表的な品種として、日本の煎茶、玉露、番茶があり、後者の代表的な品種としては、中国緑茶や日本製釜炒製玉緑茶がある。お茶の分類を図⒈に示す。

図1.お茶の分類
図1.お茶の分類

これらの違いのほか、産地、収穫時期などの違いにより、それぞれ茶葉の形状、香味、水色などが異なる。
緑茶の代表的な製造工程について次に詳述する。

緑茶製造工程

 緑茶飲料の一般的な製造方法は図⒉に示すが、基本的には他の茶類飲料と同様である。ただし、緑茶飲料の特性や容器の違いなどにより一部工程が追加されたりする。以下に各工程の留意点をについて述べる。

図2.緑茶飲料の製造工程図
図2.緑茶飲料の製造工程図

1. 抽出工程

① 抽出
 製造に用いる茶葉は事前に受け入れ検査を行い、形状、香味、水色などの品質が維持されていることを十分確認してから使用する。
製造に使用する水は、水道法による水質基準46項目(水質基準に関する省令)に適合した水を用い、さらに活性炭処理、陽イオン交換処理、陰イオン交換処理、フィルターによる濾過などを行い、香味や性状を変化させる水中に含まれる陽イオンや塩素イオンなどの成分を除去することが望ましい。緑茶飲料の場合、副原料がほとんどなく、主原料である抽出液の品質がそのまま商品の品質と直結するため、抽出工程には特に細心の管理が必要である。
 抽出は一般的にニーダー方式が多い。バスケットを用いたティーパック方式やコーヒー抽出機を用いたドリップ抽出方式を採用しているメーカーもある。抽出条件は商品の品質により規定され、その指標としては、香味や色調の他、タンニン値、抽出率などの分析値を用いる。抽出機の種類や規模により香味や色調が異なるため、茶葉量、湯量、抽出温度、抽出時間、撹拌条件などを十分に検討し、最適な抽出条件を設定する。
 緑茶は、タンニンの渋み、苦味のアミノ酸類の旨味との調和が特に重要であるため、抽出温度を40~70℃程度と低く設定し、過度の渋み、苦味や雑味を抑えることが好ましい。また近年の緑茶飲料の嗜好トレンドが渋味を抑えた方向へとシフトしているため、低温抽出の傾向がさらに強まっている。

② 茶葉分離、冷却
 抽出終了後はただちに茶殻と抽出液を分離する。一般的にメッシュを用いるが濾布を用いる場合もある。緑茶飲料では茶葉の性状により、他の茶類と比較して、茶殻と抽出液の分離時にメッシュの目詰まりを起こす可能性が高いため、他の茶飲料よりメッシュサイズを粗くするなどの対応をとることがある。
 また、緑茶は特に抽出液の高温保持による香味劣化が大きいため、茶葉分離後はプレートクーラーにより速やかに常温以下まで冷却し、香味劣化を最小限に抑える。このときビタミンC(L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウム)を添加して、酸化防止を行う場合もある。

2. 遠心分離処理

 抽出液の冷却後、抽出液中に含まれる微細な粒子を除去するため、遠心分離機による処理を行う。遠心分離機は用いる機種、流速、背圧などにより、処理後の性状が抽出条件により異なるため、遠心分離機の種類や商品の品質に適切な設定およびその管理を厳密に行う必要がある。また、遠心分離機の代わりに濾布を用いる場合もある。

3. 濾過

 緑茶飲料は、製造後、時間の経過とともに二次的に濁りや澱(おり)が生じる。この濁りや澱は抽出液に含まれるポリフェノール、カフェイン、蛋白質、多糖類(ペクチン、ヘミセルロースなど)、金属イオン(カルシウムイオンなど)のさまざまな成分が関与しているといわれており、特にPETボトルなどの透明容器では商品の品質を著しく損なう。このためPETボトルなどの透明容器の製造では、濁りや澱を防止するための工程が必須となる。
 濁りや澱の防止工程としては、珪藻土濾過やフィルター濾過などによる精密濾過を採用しているメーカーが多い。ただし、濾過処理により、香味に寄与する成分も除去されるため、捕捉粒子径の適切な設定を行う必要がある。また、濾過処理は抽出液ではなく調合液を処理する場合もある。

4. 調合

 得られた抽出液は調合タンクにて適度な濃度に調整する。緑茶は他の茶類飲料と比較して酸素との接触による品質劣化が大きいため、ビタミンC(L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウム)を添加する場合が多い。また炭酸水素ナトリウムなどのpH調整剤を添加してpHを中性域(pH6.0~7.0程度)にし、規定の調合液に調整する。調整液の品質は、抽出液と同様、香味、色調のほか、タンニン値、pH、糖用屈折計示度(Brix値)などで規定されている。

5. 充填

 缶飲料の場合、ブレートヒーターにより、70~90℃程度に加熱され直ちに充填される。加熱による溶存酸素量の低下、高温での体積膨脹によるヘッドスペース量の減少、および巻締時に窒素ガスまたはスチームを注入することにより、酸化劣化を防止している。
 PET飲料の場合、容器の耐熱上、レトルト殺菌ができないため、洗浄されたボトルに、UHT殺菌機により、レトルト殺菌と同等の殺菌強度を有する条件で殺菌された製品液を充填し、紫外線殺菌されたキャップで巻き締める。
また、リキャップ性を有するボトル缶も2000年頃より使用されている。PET飲料と同様、製品液をUHT殺菌後、容器に充填し、液体窒素を注入して巻締、内圧を保たせている。

6. 殺菌

 緑茶飲料は、pH4.6以上の低酸性飲料であり、食品衛生法の規格基準により、致命的な毒性を産生する耐熱性のボツリヌス菌を死滅させ得る条件として、120℃、4分以上、または、これと同等の殺菌強度を有する条件で殺菌することが義務付けられている。また、緑茶飲料は、主に、常温で流通され、ホットベンダーやホットウォーマでの加温販売が行われるため、ボツリヌス菌より耐熱性の高い好熱性細菌が対象菌となる。しかし、緑茶のカテキン類は抗菌性を有しており、特に(-)−エピガロカテキンガレートなどのガレート基を持つカテキンの抗菌力が強い。また、緑茶を100℃以上で加熱処理することにより、緑茶浸出液でよく増殖するB.subtilisに対する抗菌性が増加し、その抗菌成分は分子量の小さいカテキンの重合物であることが報告されている。
 ただ、近年の低温抽出の傾向は、カテキン類、特に(-)−エピガロカテキンガレートの含有量が減少することにより、厳しい加熱処理を行う必要があると警告されており、商品の設計時には十分留意し、好熱性細菌の汚染の少ない原料を使用する必要がある。
 緑茶飲料では、上記の通り、カテキン類の抗菌効果が期待できること、微生物に対する栄養面などから発育し得る微生物の種類が限定されるため、缶飲料では、レトルト殺菌で、115~121℃、10~20分(F0=10~20)のような比較的軽い殺菌が行われている。レトルト殺菌機は、一般的にバッチ式のものが用いられる。
 PET飲料では、UHT殺菌で、レトルト殺菌と同等の殺菌強度を有する条件として、135~140℃、30~60秒の殺菌が行われ、主にプレート式の殺菌機が用いられている。殺菌された製品液は85~90℃に冷却し、PETボトルに充填される。充填された製品は、転倒、パストライザーにより、ボトル、キャップ天面の殺菌が行われる。また、最近ではアセプティック充填方式による製造も広く行われている。

7. 今後の展望

 近年において、緑茶飲料は他の飲料では類を見ない急成長を遂げている。その背景には、品質の向上とともに、緑茶の飲料化率が10%程度という潜在需要の奥深さにあるであろう。今後も、その利便性から、消費者のリーフ(茶葉)から飲料への消費構造のシフトは続くものと考えられ、緑茶飲料市場はますます拡大すると考えられる。国内各清涼飲料メーカーは品質向上の努力とともに、多様な飲用シーンに応じた、消費者ニーズに合う、差別化された飲料を提案していかなければならない。

以上

【参考補足解説】
〈食品工場キーワード〉
2021.02.08 技術用語解説10『茶(緑茶)飲料 (Tea (green tea) beverage )』