前編『HACCP対応食品工場の衛生・環境改善設計の心得』

前編『HACCP対応食品工場の衛生・環境改善設計の心得』
Knowledge of hygiene and environmental improvement design of
HACCP compliant food factories Part 1

 食品工場内は清潔が第一であるが、人間・ネズミ・虫類などが原因となる汚染や異物混入、また室内汚染物質の粉塵や細菌などの有害微生物が発生しやすいといえる。製品の安全性の保持と品質低下を防ぐため、HACCP適応化が指向され、異物混入や有害微生物などの食品への付着抑制技術が要求されるようになってきている。さらに食品工場内の衛生・環境改善について危険・汚染の防止策は重要な位置づけとなっている。
 食品工場内の汚染防止抑制については、小さなことから大掛かりなことまで多く存在する。作業場の構造によっても違いはあるが、製造場内の「汚染作業区域」「準清潔作業区域」「清潔作業区域」の区分を明確にし、クレーム発生を未然に防止する対策として食品工場(製菓焼き菓子工場を事例)における心得について前編・後編と2回に分けて解説する。

■ 作業者の具体的管理

 食品衛生事故は人の問題と管理体制に帰着する。安全な食品を生産する役割と責任は個人個人が分担しているのであり、この認識の徹底と意識付けが重要になる。また同時にその裏付けとなる作業者自身が衛生マニュアルを守り、知識水準の向上を計り、事故を起こさない企業体質を作ることが大切である。

●管理体制

【改善処置方法】

  1. 衛生管理上の役割 (個人衛生・作業基準・品質管理) の認識を徹底し、自覚させることが大切
  2. 作業者に応じた衛生教育と配置による衛生作業訓練の実施 (そのためのマニュアルが必要)
  3. 手の拭き取り細菌検査の実施
  4. 健康診断は年1回以上定期的に実施し、健康管理する
  5. 検便は健康診断とは別途に月1回以上実施するのが望ましい
  6. 衛生管理体制を作り責任者を決めてチェックし、その記録を残す
    (最高責任者 → 食品衛生責任者 → 各部門の責任者)
  7. 担当別または部門別衛生保持に関する問題解決の手順、作業性、再発防止対策、その他必要事項等について定期的検討会を実施
  8. 外部からの汚染物を持ち込まない配慮の教育 (例えば家庭内でペット類を飼っている人等)

●人の問題

【改善処置方法】

  1. 切り傷、化膿等手指に傷があるときは包帯も含めて製品に直接手を触れるような作業は行わない
  2. 用便後の手洗い厳守、常時手洗い消毒の励行、汚したら洗う衛生保持の習慣を身に付ける
  3. 服装は清潔な作業衣、帽子・ネット、履物の着用。マスク、清浄手袋の着用で風采と習慣を身に付ける
  4. 不潔な長髪、長爪の禁止
  5. 作業服、靴の定期的洗濯と消毒を心掛ける
  6. 汚染作業区域から直接清潔作業区域間への移動は絶対に避ける
    ※清潔作業区域へは衛生管理上必要な身なりを整え、手洗い・防塵処理等の過程を経てから入室する
  7. 作業中は腕時計、指輪、マニキュア、厚化粧はしない
  8. 作業場内では所定の場所以外での着替え、喫煙、放痰、飲食はしない
  9. 作業場に入る前は粘着ローラにて異物混入の原因となりそうなものは取り除く
  10. 手洗い後は紙タオルかドライヤで水分を取り除く
  11. 作業中の履物のまま便所に出入りしない

■ 汚染区域 更衣室・作業員出入口

 更衣室は工場に入る前、入室に必要な衣服 (工場専用の作業服や靴等) の保管・服装を整える前室では、作業員出入口は工場内の二次汚染・異物混入・害虫類の侵入等の防止を目的としたチェックの場と認識し、防塵・手洗い・消毒等衛生管理を徹底しなければならない。

【改善処置方法】

目的と注意点 【更衣室】
●工場内に入室するために必要な衛生的な服装を整える
●服や靴を保管する

  1. 空調設備を設置し快適な温度にする
  2. 換気装置を設置する(発塵性が高いため)
  3. 作業衣服・靴の汚れは一目で分かるような保管方法にする
    ※作業服や専用服は個別のロッカー等に保管せず、更衣室を使用する作業員皆の目に触れ、汚れ具合が比較できるような保管方法がよい
  4. 作業衣服・靴は工場内で使用するものは私用のものと別の場所に保管する
  5. 作業衣服・靴は完全に着替え・履き替える
  6. 作業靴裏は洗濯とフェノール等で噴霧消毒する[毎日]
  7. 室内は清掃し清潔にする[毎日2回以上]
  8. 更衣室での喫煙、唾・たん吐きの厳禁
  9. 入室時は指輪、腕時計、マニキュア等は取る
  10. 作業衣の着用前に粘着ローラで首回り、肩、腕、背中、胸等の毛髪、糸屑ほか異物の原因となるものを取り除く
  11. 作業服 (定期的に洗濯し無地で汚れの分かりやすいもの) 、ヘアネット・帽子、専用靴、マスクを正しく着用する
  12. 更衣室とは別途に帽子、靴、手袋等の洗濯場を設置する

目的と注意点 【工場出入口の前室】
●二次汚染・異物混入・害虫類の侵入等の防止

  1. 工場内の出入口に前室を作り、入室に必要な衛生管理を行う (エアシャワ設置、手洗い場他)
  2. 工場出入口・前室に常備するもの
    □ 服装を正す大きな鏡
    □ 消毒液入りシンクまたは噴霧殺菌機
    □ 流水(水、温水)設備とシンク
    □ 紙タオルまたは乾燥ドライヤ
    □ 手洗い洗剤
    □ 毛髪、糸屑排除の粘着ローラ
    □ 爪奥洗い用ブラシ
    □ エアシャワ前後に靴用粘着シート

■ 汚染作業区域 搬入場

 1995年よりPL法 (製造物責任法) の施行、1997年ISO9000シリーズが普及し、1998年はHACCPシステムの本格的導入、さらに2021年HACCP完全義務化となり食品製造工程全体を通しての危害発生防止策が重要視されている。搬入場は「目に見えない・気がつかない異物汚染源」の侵入場所であることから、正しく、目的を持った日常管理が大切となる。

●目的と注意点

  • 搬入口 (汚染作業区域) から工場施設内(非汚染作業区域)は完全隔壁で区画。工場内に直接外気が吹き込むことを防ぐ構造でなくてはならない  改善処置方法:1参照
  • ネズミ・昆虫・寄生虫・小蝿などの侵入を防ぎ、汚染や異物混入防止を実施  改善処置方法:1,2参照
  • 汚染区域の作業者は工場施設内の出入りを禁止し、作業者間の交差汚染が起こらない構造、またはシステムの配慮が必要  改善処置方法:3参照
  • 床の色分け・線区画による区域分け (ゾーニング) をして管理する(汚染作業区域は汚い区域である認識をする)  改善処置方法:3参照
  • 搬入場責任者を決める  改善処置方法:4参照
  • 原材料・資材などの外装に異常はないか、搬入時にチェックする  改善処置方法:5参照
  • 搬入場のシャッタや扉の開閉の回数や時間を少なくする  改善処置方法:6参照

【改善処置方法】

  1. 搬入口は自動シャッタなどの2重シャッタで仕切り、外気の流入を防ぐことが重要ですが、目に見えにくい異物汚染源(小蝿、昆虫、砂塵、糸屑、花粉、カビ…)などの防止は完全ではない。屋外空気を完全にシャットする工夫として特殊エアカーテン(図1.)でエアロックすることが効果的である一定方向に流れる風(風速10m/秒~30m/秒)により屋外空気がシャットアウトされ、菌や虫の侵入を防止する。製品や取付けなどについては建物の構造やスペースなどにより各種方式を採用する。
    特殊エアカーテンの例:
    特殊エアカーテンのイメージ図
    図1. 特殊エアカーテンのイメージ図 (出所:三洋電気(株)H.P)
  2. 窓、排水溝、排気扇、配管、隙間、全ての開放口に対して金網またはフィルタなどを張り侵入を防ぐ
  3. 搬入場(汚染作業区域)と工場内施設(非汚染作業区域)の区別をはっきりさせる。非汚染作業区域の入室には専用の履物に履き替え、専用の作業服に着替え、ヘアネットつきの帽子とマスクを着用し専用の入口から入室することを徹底する
  4. 原材料の受取り・取扱い・品質や内容物の確認など、記録保管の管理をする
  5. 搬入責任者が確認する。疑わしいものは受け取らない
  6. 搬入場のシャッタや扉の開閉は時間を決めて短時間でするのが良い

■ 汚染作業区域 原料倉庫

 原料倉庫は汚染作業区域である。土壌から生産される原料(デンプン、小麦粉、砂糖、香辛料など)は土壌汚染の機会を持ったものであり、他の非汚染作業区域(仕上工程作業場や包装室など)とは明確に区別し、区画して設置することが重要である。

●目的と注意点
【目的】

  • 原材料の品質一定保持と微生物の放出または侵入・増殖を防止

【構造上処置の欠陥に関する改善】

  • 原材料の保管の仕方・取扱い  改善処置方法:1,2,3参照
  • 原材料保管時の管理  改善処置方法:3,4,5,6参照
  • 衛生管理  改善処置方法:7,8,9,10参照

【空調設備に関する改善】

  • 温度・湿度・空気の管理
    菌を除去する、また菌が繁殖しにくくなる環境をつくる  改善処置方法:11,12,13参照
  • 微生物の増殖への対応
    保存中に微生物が増殖する恐れのあるような原料は特に注意が必要  改善処置方法:14参照

【改善処置方法】

  1. 原材料は品質一定の保管が原則。通気のためスノコなどを敷き、直接床面に置かない。また壁面からも適当に離して推積する
  2. それぞれの材料により保管条件が異なるので、液状用倉庫と乾燥物倉庫は完全に区別する
  3. 原料を推積する場合は必ず材料の識別入庫順別などを管理し、先入れ・先出しの原則を守り入荷日の記録を明確にしておく
  4. 作業者の日常・定期点検の不備による危害を出さない、教育の実施
  5. 在庫量は通常の使用量に応じた最小限にとどめ、不適合な材料は処分する
  6. 使用後の袋、缶のフタ、ビン類のキャップなどは完全に締め、外部からの異物の侵入を防ぐ
  7. 倉庫内は常に掃除 (整理整頓の徹底)
  8. 倉庫内は衛生消毒 (防虫・除菌) を定期的に(年4~5回)実施するのが良い
  9. 虫・ネズミなどの侵入防止 (窓の密閉、網戸、暗室の設置、自動開閉ドアへの改良、殺虫灯・捕虫灯の設置など) 用途に応じ改善する
  10. 昆虫・ネズミなどの侵入に対し生息調査を実施し駆除する
  11. 温湿度計の設置 (倉庫内の温度は一般的には20℃以下、湿度は40~50%以内が適当)
  12. 特に粉の中の変敗原因菌の菌数を増やさないため、倉庫内は常にフレッシュな空気の循環が必要
  13. 倉庫内に蔓延している粉塵は微生物(カビ菌・細菌)を含んだ汚染対象菌で、危害発生の原因になる。空気・人・水などに伝播し、工場内へと拡大汚染の起源となるので常に粉塵の回収が必要
  14. 衛生的で温度・湿度管理が可能な場所に保管し、他にも水分活性、pH調整などの措置を講じながら短時間での処理を心がける
    ※微生物が増殖する恐れのある原料・・・水分活性の多いもの
    油脂類、液卵、餡、クリーム類、ジャム類、果実類、香料液、乳製品 (牛乳・チーズ・バター・練乳・ヨーグルト) 他

■ 準清潔作業区域 計量室

 汚染作業区域からの粉塵 (細菌・カビ) や小蝿、ゴミなどの侵入を防ぐため隔壁などで区別する。準清潔作業区域 (計量室) とは材料などを直に取り扱う、汚れてはいけない場所であることを認識し、入室時は着替え、ヘアネットやマスクの着用、服装の点検を実施し毛髪などの異物除去、消毒、除塵してから入室することを意識徹底することが重要である。

●目的と注意点
【品質管理】 改善処置方法:1,2,3,4,5参照

  • 水質・材料など、製品となる素材の安全を確保
  • 品質安定のための計量器具の点検と計量方法のマニュアル化

【異物混入】 改善処置方法:6,7,8,9,10参照

  • 機械・道具からの混入を防止
  • 体についた毛髪・糸屑などの混入を防止
  • 作業場の衛生管理

【細菌汚染】 改善処置方法:11,12,13,14,15,16参照

  • 洗浄・消毒・殺菌により細菌汚染を防止
    (器具・道具類、作業者、廃棄物、落下菌、害虫)

【室内空調】 改善処置方法:17,18,19参照

  • 適温適湿保持 (作業上・保管上) 、品質一定保持や腐敗防止のため室内空調を管理

【改善処置方法】

  1. 水質検査を実施 [年1回]
  2. 材料の受入日など記録保存の確認 [毎日]
  3. 汚染危険原料(腐敗しやすいなまもの、乳製品など)と他原料との分離保管
  4. 計量器のゼロ点合わせ、故障箇所がないか確認 [毎日・作業開始前]
  5. 材料はハカリまたは測定器具を使用し、目測を避け正確に行う
  6. 機械や道具などの部品破損による落下が起きないよう生産前に点検
  7. 機械油などが混入しないよう機械の状態に注意
  8. 入室時の着替え (専用の履物・作業着) 、清潔なヘアネットやマスクの着用、異物除去(粘着ロール)、除塵(エアシャワなど)、手洗い消毒の徹底
  9. 害虫侵入防止策の措置
  10. 作業周囲を清潔にし、整理整頓と定置管理を徹底
  11. 器具や道具類の洗浄・殺菌 (アルコール・熱湯など) の実施 [毎日]
  12. 作業者の怪我や傷の確認、手指の消毒 [毎日]
  13. 作業者の定期的な検便を実施 [6ヶ月毎]
  14. 廃棄物の分別収集と消却 [毎日]
  15. 室内落下菌の防止
  16. 定期的な害虫駆除、消毒 [6ヵ月毎]
  17. 適温保持のための温度・湿度管理を実施、温・湿度計の設置
  18. 空調設備の設置 (温度・湿度・換気の管理)
  19. 換気、空調設備の定期清掃・点検 [6ヵ月毎]

●非汚染区域の望ましい構造

計量室も粉塵が発生し、床・天井・配管やダクト、照明器具などは構造によって粉塵や小蝿、ゴキブリなどが溜まる場所になる。

  • 汚染作業区域からの汚染源侵入防止のため、非汚染区域(準清潔作業区域や清潔作業区域)は隔壁などで区別
  • 床…平滑な材料を使用し、掃除しやすい構造(隅に角をつくらないなど)
  • 天井…平滑で掃除しやすい構造、配管類やダクトは露出させない
  • 照明器具…埋め込みのものが良い (ホコリなど溜まりにくい構造)

■ 準清潔作業区域 焼成室

 汚染作業区域からの粉塵 (細菌・カビ) や小蝿、ゴミなどの侵入を防ぐため隔壁などで区別する。準清潔作業区域 (計量室) とは材料などを直に取り扱う、汚れてはいけない場所であることを認識し、入室時は着替え、ヘアネットやマスクの着用、服装の点検を実施し毛髪などの異物除去、消毒、除塵してから入室することを意識徹底することが重要である。

●目的と注意点
【吸排設備の環境改善】 改善処置方法:1,2,3,4,5,6,7,8参照

【安全衛生管理】 改善処置方法:9,10,11,12,13参照

  • 発生する熱や蒸気への対応
  • 機器取扱い時の安全確保、事故を未然に防ぐ措置・管理

【品質管理】 改善処置方法:14,15,16,17参照

  • 評価・測定・チェック
  • 環境(空調)・機器の日常管理

【改善処置方法】

  1. 一定の室内温度を保持できるよう、強制吸排気装置を取り付けることが望ましい
  2. 室内を適切な温度に上げ下げ可能なように吸排気ファンはインバータ制御が望ましい
  3. 熱気・蒸気・臭気を完全に排除・排出できる装置のシステムが望ましい
  4. 正常な排気をするには吸気が必要です。室内環境を良くする外気からの取り入れ空気は、プレフィルタ等を通し、防塵・防虫などの処理を経てから室内に導入する
  5. 水蒸気・熱気のスポット的発生源の近くには、フード・ダクト及び換気扇で強制排気を行い、排気能力はフード面で0.3~0.5m/秒の吸引能力を有する装置が望ましい
  6. フードは清掃が容易に行える構造とし、オイル受け及び油脂の通過を防止するフィルタを設ける
  7. 換気装置は汚染作業区域の空気が非汚染作業区域に流入しないよう配慮する(吸・排気のバランスをとる)
  8. 排気口は突風などにより外部から汚染された空気の流入を防ぐ構造にする
  9. (例:ダクト開口部を下向き構造にする…等)
  10. 焼成室は完全隔壁で区画し、別作業場へ熱・蒸気が放出するなど、影響を及ぼすことのない構造とする
  11. 水蒸気、熱気などが発生する場所 (室) は壁、天井に耐湿性及び耐熱性断熱材を使用し、結露・カビの発生を防止できる構造であること
  12. オーブン、その他の機器で取扱い違いにより危害要因が発生可能な装置は、取扱いを熟知させる作業者教育の実施
  13. 焼成室は消火器及び二酸化炭素による消火設備の設置を行う
  14. 各種ガスを使用する室内には、ガス漏れ検知器の設置を行う
  15. 品質評価(温度、時間等のチェック等)品質測定 (計量・目視・レシピ・バッチ毎の仕込み状況等…) 、異物混入、膨化状態、焼き色の状態等は常に管理基準に沿ってチェックする
  16. 時間、温度調節、製品の変化、不良品チェック等評価記録簿作成
  17. 室内に温度・湿度計を設置して記録をつけ、季節による温・湿度の変化に対応し品質安定を維持させる
  18. 機械・器具は日々点検し、故障・劣化破損による混入が発生しないよう整備すること

最後に、
 主にゾーニングにおける汚染作業区域、準清潔作業区域における衛生・環境改善設計の心得について解説した。次回、後編は清潔作業区域での心得を解説する。

以上

【参考文献】
1. はじめてのHACCP工場 -建設の考え方・進め方- 編者:金澤俊行・栗田守敏
発行:幸書房
2. HACCP導入のポイント -HACCP制度化へのガイドライン- 著者:宮澤公栄 
発行:食品と科学社
3. 食品工場の食中毒・異物混入完全対策 著者:小松雅一・菅野健次・山川茂宏
発行:中径出版