2021/07/27
『食品製造設備機器における洗浄改善ポイントの発見とモニタリング方法』
How to find and monitor cleaning improvement points in food manufacturing equipment
近年、食品製造設備機器は、構成部品(パーツ)の取り外しが容易に行えるようになるなど「洗いやすさ」に配慮した設計のものが増えているが、それでもまだ洗い残しの発生しやすい部分は依然として存在している。老朽化した設備機器では設計配慮がされていない機器も多く残っている。
洗浄の目的は製造で付着した有機物を製造環境から除去することにある。さらに微生物は作業者の体や衣服、原材料や包装材料、昆虫などによって持ち込まれると考えられ、製造環境を無菌状態に保つことは非常に困難であるが、適切な手段を講じることで一定レベルにまでコントロールすることが可能である。
しかし、製造環境に洗浄不良を起因とした有機物が残っていると、持ち込まれた微生物は少数であっても栄養成分である有機物を餌として適度な水分と温度環境が整ったときには対数的に増殖し、微生物事故の原因となる二次汚染を引き起こすことになる。この汚染リスクを回避するために製造後の洗浄を実施しているが、「どこを、どのように洗浄し、どの程度まで清潔にすればよいのか」などのアドバイスを求められることが非常に多い。そこで迅速検査法のATP検査法や拭き取り検査法など活用がされ始めているが、製造現場作業者の裁量に委ねられた経験則で実施されている場面に遭遇することも少なくない。
客観的な尺度によって洗浄方法を策定し、仕組みづくりなど正しく運用されていることを監視するモニタリング方法について解説する。
1. どこを、どのように洗浄するか
まず洗浄の効率を考えると「汚れの落ち難いところは入念に洗い、そうでないところは簡潔に洗う」としたいが、具体的にどのように区分けするか明確な指針がなく、従来の拭き取り検査(微生物検査)では時間と手間がかかるといった経験に頼った洗浄方法になっているのが現状である。洗浄手段についてもさまざまな洗剤、洗浄器具とその組み合わせで実施されているが、洗浄結果を手軽に評価する手段が数少ない。そのようなケースでの判断方法として迅速検査法のATPやタンパク質検査法などを活用し、積極的入念に洗浄すべき場所とそうでない場所を明確に区切り、効率的な洗浄手段を選択する手順について詳述する。
(1) 従来洗浄している方法で洗浄を行う
汚れの落ち難い場所を見極めることが目的である。普段以上に入念に洗浄を行うことは、判断を誤る結果となるので行ってはならない。定められた洗浄マニュアル通りに実施された状態を標準とすることが重要で作業が多忙で洗浄に十分な時間がかけられないようなケースも検査日程に含めておくことが望ましい。
(2) 清浄性を検査しデータを集める
ここでは洗浄によって有機物がどの程度取り除かれたかを評価することが目的であるので、洗浄マニュアルに「殺菌工程」が組み込まれている場合でも、必ず殺菌前に検査を行う。
汚れの落ちやすさという観点から、3段階に区分することをイメージしながら、素材(ステンレス、樹脂、ゴムなど)、表面状態(鏡面仕上げ、平滑、凹凸あり、傷有無など)、構造・形状(水平、凸面、角隅など)等に留意して検査を実施する。
検査箇所の数は構造の単純な設備であれば少なくて済むが、複雑な場合には多くなる傾向となる。そのため設備機器により異なることから一概に決められないが、ここでは特定することがポイントになる。例えば単純な構造のシンクでは底面と4つの側面の計5カ所程度であるが複雑な構造の機器となると1台あたり数十カ所となる場合もある。ただ見極めが目的であるので、ここでは数多くの検査ポイントのデータが後で触れるモニタリングの最適検査ポイントを定める際の拠り所となるので、許される範囲で多くのポイントの検査をしておくことが望ましい。
少なくとも3回、可能であれば5回の洗浄結果データを集めるとよい。作業者の違いによって検査結果にバラツキが出るので、1回の結果だけで判断するのは危険である。3回あるいは5回の検査結果の中で最も汚染の激しいかったデータをワーストケースとして採用する。
(3) 素材、表面状態別にデータを比較し、目標とする清浄性を定める
ある程度洗浄マニュアルが守られている作業場であれば、最も清潔な箇所をすべての箇所で到達すべき目標値(表1.にATP検査目標値事例を示す)として定めるが、そうでない場合は衛生管理担当者が正しくマニュアル通りに行った際の検査結果を目標値として定める。ただし次に述べる殺菌効果の検証を経たうえで最終決定するのが望ましいといえるが、現在維持されている清浄性で事故が起きていないのであれば、現状の洗浄マニュアルを標準と考えても差し支えない。採用している検査システムのメーカーが推奨する値から差異が発生している場合には再考する必要がある。
(4) 定めた清浄性の目標が妥当であるかを検証する
洗浄は、その後に実施する殺菌作業が十分にその役割を果たすために、その阻害要因となる有機物を除去することが目的である。通常は上述した手法で定めた目標値で十分であるが、それぞれの作業に十分な裏付けデータを要求されるような場合には、微生物検査による検証が必要になる。その際には、定められた目標値まで清浄性を確保した表面に、殺菌の指標菌を付着させ、定められた殺菌作業を行ったうえで微生物検査(拭き取り検査やATP検査など)を実施する。目的とする汚染レベルを下回る状態が実現できていれば、定められた目標は正しいものと判断できる。
(5) 洗浄方法を変化させ最適な洗浄方法を定める
目標値に達していない洗浄箇所については、より入念な方向へ、逆に目標値を十分にクリアしている個所については、より簡略となる方向へ洗浄方法、器具、回数などを変化させた洗浄を行って、 (2) と同様に検査を実施して目標値のクリアを確認する。
洗浄方法の改訂と目標値クリアを確認する作業を繰り返しながら、最も効率的な洗浄方法に集約していくことになる。
このように、ポイントをまとめてみると複雑に見えるが、検査ポイントを決めるプランニングに1~2日、データ取得に1週間、洗浄方法の策定に2週間~1ヵ月あれば最適化された洗浄方法(洗浄マニュアル)を組み立てることが可能である。最適化された洗浄マニュアルは、これまでのような「経験則」によるものでなく、それぞれの洗浄ポイントに清浄性の目標値が定められていることから、今後設備機器や洗浄手段にさまざまな変更が必要となった際にも、ムリ・ムラ・ムダの3ムのないスムーズな移行が可能となり、将来に亘って効率的な洗浄方法が維持できるようになる。さらに新規で食品加工・製造機器を導入する際にも、現状と比較してどの程度洗浄性が向上しているかを、データで比較し確認することにも有効である。
2. 洗浄性の維持と継続するためのモニタリング
清浄性に数値的な目標を定め、それを実現する洗浄マニュアルを作成する手法を1.項で詳述した。そこでは、素材、表面状態、構造・形状別に検査ポイントを設定し、それぞれに数値目標=清浄性の基準値を定めることを説明したが、この基準が厳守され清浄性が維持されているかどうかを検証する必要がある。
検証は定期的な清浄性のモニタリングに頼ることになり、頻度は高いほど良く、チェックポイントは多いほど良いことになる。しかしながら、1.項において検査ポイントとして設定した箇所すべてを常時モニタリングすることは、手間と時間そしてコストを考えると現実的とはいえないことから、ここでは、定められた清浄性を維持するための効果的なモニタリング方法について詳述する。
2-1. いつ検査するか
有機物指標を用いた検証手段である迅速検査法の最も優れた特徴は、「結果がその場で分かる」ことである。この特徴を活かすには、得られた結果を基準と照らし合わせて、逸脱があった場合にはその場で是正措置として、再洗浄が行われなければならない。したがって、検査は毎日洗浄終了後に行うことが基本であり、日に何度も洗浄が実施されるのであれば洗浄ごとに検査することになる。清浄性の検証は洗浄作業とセットになって実施され、洗浄・殺菌作業は「洗浄⇒検証⇒(逸脱時は再洗浄⇒再検証)⇒殺菌」の順序で進み、それぞれの検証結果が記録されて完了となるのがベストである。日々集められている検証記録が残されていれば、万が一何らかの事故が起きても、製造環境の清浄性は目標値通りに管理されており、設備機器の洗浄・殺菌不良による二次汚染の可能性がある際にも証拠となって立証することにも役立つ。
しかしながら、食品製造現場によっては、さまざまな事情によりこのような頻度で検証が実施できない場合には、頻度の削減を補うための工夫を考える必要がある。洗浄マニュアルは上述した方法より適切に定められていることから、このマニュアルが厳守されていれば清浄性は目標値に収まっているはずである。したがって、洗浄後の検査は作業者がマニュアル通りの作業をしているかどうかを検証することになっている。さらに作業者が正しくマニュアル通りの作業を行うための動機付けの意味を持っている。効果的な動機付けのためには、「いつ、誰が検査を受けるか」が明確になっていないことがポイントであり、毎日誰かが検査(抜き打ち検査)を受けていることが作業者全員に分かるように検査計画を策定する必要がある。ある食品メーカーでの一例であるが、作業者をいくつかのグループに分け、毎日どこかのグループで必ず検査が実施され、その結果が掲示板に張り出され全ての作業者に告知されるというような仕組みで年間を通して優良グループには表彰と報奨金が出るなどの活動事例もあり参考にされるとよい。やはり大切なのは作業者の緊張感の維持となることから、週に1度の検査は必須と考えるべきである。
2-2. どこを検査するか
先に洗浄マニュアルを策定する際に「どこを洗うか」を詳述したが、検証のためのモニタリング箇所の設定においても、どこを検査するかは重要な課題である。できればすべての洗浄箇所を代表する「その場所さえ目標値をクリアしていればその他の箇所もクリアである」というようなポイントが設定できればよいが、そのような都合の良い箇所が見つかるわけではない。そのため、ここではモニタリング箇所を定める際の考え方と、定めたポイントの数を絞り込んでいく方法を詳述する。
(1) 検査すべきモニタリングポイント
・リスクの大きいポイント
リスクの大きい場所の汚染が製品の安全確保に重要な影響を与えることが分かっている個所については、特に留意した洗浄方法が採用されているはずである。そのような場所は日常的なモニタリング箇所として設定がされていなければならない。一般的には「中間製品が直接接触する場所で、その場所で二次汚染が起こると、その後に加熱工程などの殺菌工程がなく、製品事故につながる可能性がある洗浄箇所」となる。後にモニタリングポイントの絞り込みについて述べるが、製品品質に決定的な影響を与えるこの種の検査ポイントについては、除外対象となったとしても検査を継続することが望ましい。また、この種の検査ポイントはHACCPにおけるCCP相当のポイントと位置づけて考えるべきであるが、初回の設定時は全体の10%以下とするのが望ましい。
・素材、表面面状態、形状・構造などにより洗い残しが起こりやすいポイント
先に洗浄マニュアルを定めた段階で、入念な洗浄方法に変更を行った箇所、そして同一箇所の検査結果の最大値と最小値の差が5倍以下であった箇所については、洗浄方法の変更が定着したことの確認、ならびに作業者による洗浄結果のバラツキが生じやすいポイントとして取り扱うべきである。この種のポイントは、後に述べる検査ポイントの絞り込みの段階で検査ポイントから除外していく対象となるので、当初は多少多くてもよい。全体の80%の検査ポイントはこの考え方で定めるのが望ましい。
・作業者の衛生安全教育に重要と考えられる箇所
洗浄作業の検査結果がその場で判明することは、作業者自身が行った洗浄作業の結果がその場で、目で見える形で評価されることになり、作業者の教育訓練に絶大な効果を上げるツールとなる。COPによる手洗いは個人衛生の基本であり、洗浄方法の差が敏感に検査結果に反映されるので、教育訓練効果を期待した検査対象として第一にあげるポイントである。また、洗浄手順や使用器具の違いなどが洗浄結果に大きな影響があるようなポイントがあれば、そのポイントも追加することが望ましい。それは、自己流の洗浄方法は手間ばかりかかりきれいにはならず、定められた洗浄マニュアルを厳守することが効率的な洗浄方法であることを周知させることにも役に立つ検査ポイントを選ぶことが望ましい。
(2) 検査ポイントの絞り込み
上述(1)の2項目目で「洗い残しが起こりやすいポイント」として、全体の80%を占める検査ポイントを設定したが、これらのポイントは「洗い残しが起こらず、常に目標の清浄性が確保される状態」で、洗浄マニュアルが徹底された状態になっているかどうかを判断する指標となる。経過を観察することで妥当性と定着具合の見極めが容易になる。
・検査結果の推移を観察し検査ポイントを絞り込む
定められた検査結果が安定して得られるようになった時点で検証の目的は達成されたことになる。判断基準として10回連続して目標値をクリアする結果が得られた検証ポイントは、以後の検査を省略して差し支えないと判断できる。ただし、その後も定期的(1か月に1回程度)に、その状態が続いていることを継続的に検証することを忘れてはいけない。
3. 最後に
迅速で定量性のある検査法を用いた洗浄マニュアルの策定の仕方と、定められた清浄性を維持するための効率的なモニタリング方法について解説した。
「その場で迅速に分かる検査手法」は、迅速性のある検査キットも多く上市されているので、簡便性を考慮した実施が容易なモニタリング方法を活用して食品製造設備機器ならびに現場作業者にマッチした洗浄マニュアルの策定に少しでもお役立てしていただければ幸いである。
以上