【食品製造向け真空ポンプの正しい選定方法】

【食品製造向け真空ポンプの正しい選定方法】
Correct selection method for vacuum pumps for food manufacturing

 真空ポンプは、システム内に部分的また完全な真空を作り出すために、タンクから空気またはガスを排出する装置である。密閉空間内の圧力が減少することによって空気が吸引される。吸い上げられたガス分子は、空気中またタンクに放出される。原材料選別、食品加工や包装、医療業界、化学工業、半導体製造などのさまざまな産業分野で使用されていることから食品製造機械の設計技術者が知っておくべき基礎知識として解説する。

➢ どのように真空ポンプの選定をするか?

 適切な真空ポンプを選択するには、その原理や特徴を知る必要がある。 技術、潤滑、耐薬品性、真空度また必要な流量を決めるためにはまず、用途に合った真空ポンプを選ぶことが大切である。 またその選択に最も重要な要素は、真空ポンプの品質と必要な真空度を知ることである。 真空には、領域の区分があり中真空、高真空そして超高真空である。3つの違いは、残留ガスの圧力によって測定される分子数の希薄化である。圧力が低いと1cm3あたりの分子数はより少なくなり、そして真空の質は上がることになる。

表1.真空領域の区分
表1.真空領域の区分

次の点にも気を付ける必要がある。

  • ポンプの流量 : 流量は、機械を空にする時間と関連している。したがって、必要に応じたポンプの速度(体積流量)と質量流量の両方を生み出す真空ポンプの能力を測るべきである。流量が上がると機械を空にする時間は短くなる。上記の表1.は、選んだ真空の領域に応じた1cm3あたりに残っている分子の数を示している。
  • 化学的適合性 : ポンプに起こりうる問題を分析することによって、使用されるガスと選択した真空ポンプとの適合性について考える必要がある。
  • 潤滑油 : 真空ポンプに潤滑油が必要かどうかを知ることは大切である。潤滑された真空ポンプは、より効率的で耐久性に優れている。しかしながら定期的な点検が必要である。食品製造、医薬品製造や半導体などクリーン度の要求が高い分野では、ドライ真空ポンプが必須となる。
  • 点検とコスト : 上記の基準に基づいて、点検の頻度を分析する必要がある。これによりポンプの購入価格を含む設備の全体的なコストが決定され、さらに運用コストや点検コストも決定される。

➢ 真空ポンプには、どんな種類があるか?

真空ポンプには主に次のような5つのタイプがある。

  • ロ-タリ-真空ポンプ
  • ダイアフラム真空ポンプ
  • 液封真空ポンプ
  • スクロ-ル真空ポンプ
  • ターボ分子真空ポンプ

真空の領域から真空ポンプの選択はできるが、価格や技術も重要な選択要素となる。

➢ 高流量:最大1600 m³/hのロータリー真空ポンプ

 高性能で低コストのポンプを検討する場合は、ロ-タリ-真空ポンプとなる。
小さくコンパクトで真空度は中真空である。水性サンプルおよび高沸点溶媒に特化している。 蒸気は、ポンプと接触する前に捕らえることができる。
 ロータリーベーンポンプにはオイルが必要である。オイルによる可動部分の完全な密閉、一定で効率的な潤滑、冷却用の放熱が保証されている。それでもポンプの効率的な運転を保証するためには、定期的なメンテナンスをする必要がある。実際にデメリットの1つには、摩耗のリスクを低減するための定期的なオイル交換である。3,000時間毎に交換することが推奨されている。

➢ どの場合にダイアフラムポンプを選択するか?

 ダイアフラム真空ポンプは、腐食や化学物質に対して極めて耐性がある。そのため粘性、酸性および腐食性の製品処理に使用できる。この特徴からダイアフラムポンプは、食品産業(例えば水、チョコレートおよびシロップなどの流体を汲み出す用途で)や化学産業(クリームおよびゲル)および化学工業などで広く使用されている。また回転蒸発および揮発性化合物の処理にも使用されている。連続運転にも最適である。
 ダイアフラムポンプのもう一つの利点は、それらがドライポンプであることである。そのため油を給油する必要がなく、メンテナンスの費用はロ-タリ-ポンプよりもはるかに低くすることができる。しかし本体購入価格は高額となる。その他の重要な点は、ダイアフラムポンプの真空度がロータリーポンプの真空度よりも低く、凍結乾燥には適していない点がデメリットとなる。

➢ どの場合に液封ポンプを選択するか?

 液封式真空ポンプは、ポンプ壁上で遠心分離された液体で作動する。これにより液封が得られ、ポンプの気密性を維持することが可能になる。液封式ポンプは、蒸留所、製油所、発電所、鉱山、砂糖工場などの業界で役立つ多くのメリットがある。 これらの真空ポンプは、液体、小さな固体粒子また蒸気の通過に非常に鈍感である。
 さらに等温圧縮は、爆発性や感熱製品には安全面において理想的である。液封式真空ポンプは、真空濾過、水分抽出、紙処理中のパルプからの水分除去、鉱物のアップグレードおよび灰分処理にも使用することができる。これらの高性能ポンプは最大30,000m³/hの流量で、圧力を低下させたりあるいは、増加させたりすることがでる。ただし液封の飽和蒸気圧には注意するべきである。ポンプの気密性が損なわれるため、ポンプの最小圧力は液封の飽和圧力よりも低くしてはいけない点に留意する必要がある。

➢ どの場合にスクロ-ル真空ポンプを選択するか?

 スパイラルポンプは、清潔で乾燥した真空排気に使用されている。そのため食品産業や医薬品産業などのクリーン環境下、ならびに研究や実験の分野に最適である。スクロ-ル真空ポンプは、液体やガスを渦巻状の羽根(スクロ-ル)を回転させて排気、圧縮する。2つあるスクロ-ルのうち片方のスクロ-ルは固定されていて、もう片方は旋回する。 この偏心運動によりガスが圧縮されることになる。コンパクトで静かなスクロ-ル真空ポンプはオイルフリーである。ポンプの密封はシールでされている。また定期的なメンテナンスが必要である。密封がしっかりされるようにシールの交換も頻繁に必要になる。これらのポンプのデメリットは、シールの機能を弱める傾向のある破片および粒子に対する脆弱性となるので留意が必要である。

➢ どの場合にターボ分子ポンプを選択するか?

 ターボ分子ポンプは最大10-12mbarの圧力まで到達できる。流量は50L/s〜5,000L/sの範囲で変化し、圧縮機と同じ原理で作動する。動翼と静翼の多段組合せにより構成されており、ロータが高速回転し気体を排出するポンプである。
このポンプは、高速回転に耐えられるように磁気軸受に取り付けられることが多い。 そのため到達真空度が最低10-2mbarである一次ポンプが必要となる。
 メリットは、オイルを使用しないのでポンプは汚れない点である。分析機器や研究所での分析などの超真空用途に適している。複雑な技術であるため本体は高額で、従来の真空ポンプよりも厳しいメンテナンスが必要になる。排出速度も気体の種類により変化するため確認の必要がある。軽いガスは急激に速度を落とすので注意が必要である。

➢ オイルフリー真空ポンプと潤滑式真空ポンプの選択方法は?

 真空ポンプの潤滑は、真空ポンプ選択の基準の一つである。潤滑油が必要であるかないかは、機械のメンテナンスについて重要なポイントになる。潤滑された真空ポンプは、より耐久性が高く効率的といえる。しかし定期的なメンテナンスなどが必要となることから、使用用途や頻度を考慮する必要がある。オイルが蒸気を凝縮させてポンプの容量を低下させる傾向があるので、冷却トラップを使用することも推奨する。この装置はポンプ入口に設置され、オイルの蒸気が真空を上昇させることを防止する。冷却トラップを使用しない場合は、潤滑油の色を定期的に点検するなど留意する必要がある。
 潤滑式真空ポンプのその他のデメリットは、オイルによる汚染の可能性があるため、食品および医薬品業界などの特定の産業分野では使用できないことである。ドライポンプはオイル不使用のポンプである。その結果、潤滑油によって吸引されることにより製品が汚染されるリスクはない。したがってドライポンプは、食品及び医薬品といった製薬業界などクリーン環境で使用する際に適しているといえる。しかし湿気に敏感で冷却材がないため、ドライ真空ポンプは高温に対しては留意する必要がある。

➢ 真空ポンプの主な用途は何か?

 真空ポンプは多くの分野で使用されている。主に食品産業や研究所、医療産業および製薬業界、化粧品産業など三品産業、半導体産業、濾過、質量分析などの機器として用いる。これらの用途には、特定の種類の真空が必要となる分野といえる。
 例えば質量分析は10−3から10−4mbarの圧力を必要となる。したがって、超高真空を作る技術に頼る必要はない。食糧及び農業産業、乾燥、真空冶金または蒸留に関する用途である場合、中真空が必要となる。真空ろう付けまたは電子ビーム溶接の場合は、高真空が必要だったりする。表面粗さや粒子加速などの物理学に取り入れる場合は、超高真空が必要であり、用途は多岐に渡る。

以上

【参考文献】
1. わかりやすい真空技術 発行:真空技術基礎講習会運営委員会 (編集)
2. トコトンやさしい真空技術の本 著者:関口 敦 発行:日刊工業新聞社