『代替肉の市場規模と将来性について』

『代替肉の市場規模と将来性について』
Market size and future potential of alternative meat

1.はじめに

 食糧安全や食料自給率など各種の要因から代替肉がメディアなどで多く取り上げられている。要するに肉に代わる肉「肉もどき」である。代替肉の多くは大豆や小麦などに由来する穀物から得られる植物性タンパク質を加工して、味や色、香りを付けて肉らしくした、フェイク食品である。さらに培養肉や昆虫肉なども代替肉に含まれる。
 近年、これら代替肉の需要が高まり、国内や世界における代替肉市場と代替肉の安全性などについて注目されている。

2.代替肉の市場規模

 世界市場における植物由来の代替肉市場規模は、2020年110億ドル、2030年886億ドルにまで拡大すると想定されている。
(1) 植物性代替肉
 植物性代替肉の主な原材料は大豆である。上市されている商品の大部分は直物由来である。海外と国内のそれぞれの企業動向についてまとめると次のようになっている。
① 海外企業の動向
 海外勢では、米国のインポッシブル・フーズやビオンド・ミートの植物肉の知名度が高い。両社とも植物肉ハンバーガーやナゲットなどを提供している。さらにイート・ジャストも培養肉での知名度が高い。欧米だけでなく中国やイスラエルなども市場展開を始めている。
表1.に代替肉の代表的な海外企業の商品展開状況を示す。

表1.代替肉の代表的な海外企業

企業名
(国名)
代替肉の
タイプ
商品開発・展開状況
ビヨンド・ミート
(米国)
植物由来 えんどう豆を主な原材料とした代替肉を開発、製造する企業である
インポッシブル・フーズ
(米国)
植物由来 大豆を主な原材料とした代替肉を開発、製造する企業である
メンフィス・ミート
(米国)
培養 牛細胞をベースとする培養肉を使った代替肉を開発、製造する企業である
イースト・ジャスト
(米国)
培養 鶏細胞をベースの培養肉を使った代替肉を開発、製造する企業である。培養チキン植物性卵の開発、製造を展開している
ベジタリアンブッチャー
(オランダ)
植物由来 大豆を主な原材料とした代替肉を開発、製造している企業である
モサ・ミート
(オランダ)
培養 世界で初めて牛細胞をベースとした培養肉を使ったハンバーガーやステーキを開発した企業である
スーパーミート
(イスラエル)
培養 鶏細胞をベースにした培養肉を使った代替肉を開発、製造している企業である
ベジファーム
(台湾)
植物由来 大豆を主に原材料とした代替肉を開発、製造している企業で、日本の日清商会と提携して「プラントベースドミートヴーガン」のシリーズを展開している
オムニミート
(中国)
植物由来 えんどう豆や大豆、椎茸などを原材料とした代替肉を開発、製造している企業で、日本でも店舗販売やネット通販で展開している

② 国内企業の動向
 大豆を主原料とした大豆肉の開発を最初に始めた不二製油グループは、大豆肉の基になる粒状大豆タンパクの生産量が国内トップである。その他に大豆製品の大手企業であるマルコメも大豆肉を手がけていて、食肉企業のプリマハムと共同開発を行っている。食肉大手企業としては日本ハムや肉卸のスターゼンなども大豆肉市場に参入している。
 さらに国内ベンチャー企業のDAIZ、ネクストミートなどが注目企業である。特にDAIZの開発した大豆原料はニチレイフーズや伊藤ハムの食品に使用され商品化されている。
 一方、ネクストミートは大豆などを原材料にスライス状の代替肉を開発、製造し提供している。主な国内の代替肉企業の商品展開状況を表2. に示す。

表2. 国内の主な代替肉の商品展開状況

企業名 代替肉の
タイプ
商品開発・展開状況
日清食品グループ 培養 東京大学と共同で牛の筋細胞を基に培養ステーキ肉を研究・開発中。2024年度に基礎技術の確立を目指している。その他にDAIZも出資・参画
インテグリカルチャー 培養 国内スタートアップ企業である。鶏細胞を基に培養肉を使った代替肉を研究・開発、製造を手掛けている。培養肉として培養フォアグラやエビ細胞を用いた培養肉の商品化を目指して開発中
DAIZ 植物由来 国内スタートアップ企業である。大豆を主な原材料とした代替肉を研究・開発、製造を行っているイオン、フレッシュネスバーガーなどでタイアップ商品を展開している
SEE THE SUN 植物由来 森永製菓グループの企業で、「ZEN MET ミンチタイプ」や「ZEN MET ブロットタイプ」など玄米入り大豆ミート「ZEN MET」シリーズを展開している
アサヒコ 植物由来 「たんばく質 10gの豆腐バー和風だし」や「MEATOFFU 豆腐のお肉」など大豆(豆腐)を使った商品を展開している
オオサワジャパン 植物由来 大豆を使った「Good for Vegans 大豆ミート(ミンチタイプ)」や「オーサワの国産大豆ミート(バラ肉風)、(ひき肉風)」などの商品を展開している
大塚食品 植物由来 「ゼロミート ハンバーグ」や「ゼロミート ソーセージタイプ」、「ゼロミート ハムタイプ」、「ゼロミート ナゲット」なと、大豆を使った「ZERO MEAT」シリーズを展開している。スターゼンと共同で業務向け商品を展開している
カゴメ 植物由来 「大豆ミートのキーマカレー」、「大豆ミートのマサラカレー」など、大豆や植物を使った「Plant Based」シリーズを展開している
かるなぁ 植物由来 おからとこんにゃくで再現した「ディーツ焼きとり味」、「ディーツフライ」など、ヴィーガン向けの商品を展開している
キユーピー 植物由来 「HOBOTAMA スクランブルエッグ風」、「HOBOTMA 加熱液卵風」など代替肉ではないが「HOBOTAM」という代替卵シリーズを展開している
ケンコーマヨネーズ 植物由来 大豆と野菜を使った「やさいと大豆ミートのキーマカレー」、「やさいと大豆ミートの甘辛醤油そぼろ」などの商品を展開している
ネクストミート 植物由来 国内のスタートアップ企業である。大豆やえんどう豆などを原材料とした焼き肉用植物肉「NEXT」シリーズを展開している
プリマハム 植物由来 マルコメの「ダイズラボ」シリーズとのコラボ商品「Try Veggie 大豆のお肉でつくったハンバーグ」、「Try Veggie 大豆のお肉でつくったミニフライドチキン」など「Try Veggie」シリーズを展開している
マイセン 植物由来 大豆と玄米を使った「大豆と玄米のベジフィレ」、「大豆と玄米のベジミンチ」などの商品を展開している
マルコメ 植物由来 「ダイズラボ 大豆のお肉ミンチ」、「大豆のお肉のハンバーグミックス」、「大豆のお肉のぎょうざミックス」など大豆を使った「ダイズラボ」シリーズを展開している
ヤヨイサンフーズ 植物由来 「イートベジ NEW 大豆ミートのハンバーグ 80」などの大豆を使った「EAT VEGE」シリーズを展開している
伊藤ハム 植物由来 「まるでお肉!大豆ミートのジャーキー」、「まるでお肉!大豆ミートのナゲット」、「まるでお肉!大豆ミートのハムカツ」など、大豆を使った「まるでお肉!」シリーズを展開している
丸大食品 植物由来 「大豆ライフ 大豆のお肉を使ったナゲット」、「大豆ライフ 大豆のお肉を使ったから揚げ」など、大豆を使った「大豆ライフ」シリーズを展開している
三育フーズ 植物由来 大豆を使った「大豆ミートミンチタイプ」、「和風野菜大豆ボール」、大豆と小麦を使った「グルテンバーガー」などの商品を展開している
日本ハム 植物由来 「ナチュミート ハムタイプ」、「ナチュミート ソーセージタイプ」、「ナチュミート ハンバーグ」など、大豆やこんにゃくなどを使った商品を展開している
不二製油 植物由来 大豆を使った「ニューフジニック」、「まめプラスM(ミンチ)」などの業務用商品を主に展開している

3.代替肉の安全性

 代替肉の需要が高まり、身の回りでも目にする機会が増え、さらに口にする機会はこれからも多くなるだろう。実際に代替肉の安全性について考えてみたい。
 世界の市場にはすでに多くの種類の代替肉が存在する。ファーストフードやレストランなどでも代替肉を扱うところが増えている。具体的には、代替肉は大きく2種類に大別でき、植物性代替肉と培養肉である。現在、主流として上市されている代替肉は、植物性代替肉である。植物性代替肉というのは、植物から得られた植物性タンパク質を肉のように固形成形して、肉のように着色、味付け、香り付けを加えたものである。
 植物性代替肉は植物由来のタンパク質から成り、「植物由来の食品」で決して新しいものではなく、食品の形を変えたものでしかない。代替肉=植物性タンパク質で肉に模した食品である。
 大豆タンパク、小麦タンパク、きのこタンパクなど各種のものが商品化されている。従来、我々が食している豆腐が大豆タンパクであり、グルテンを取出して固めた生麩が小麦タンパクであり、欧米などではクォーンを使った菌性タンパクなどを使用したチキンナゲットやハンバーガーが一般に販売されている。
 しかし、上市されている植物性代替肉は植物性タンパク質だけでできているわけではない。植物性タンパク質を動物性タンパク質に似せるためにはいろいろな細工が必要となる。そのため、色付け、香り付け、食感など限りなく食肉に近づけるなど、目的に応じた各種食品添加物が使用されている。しかし、市販のほとんどの食品には食品添加物リン酸塩や乳化剤として用いるレシチン粉末や液体が使われていることから、特に安全性については危険ない。ただし、食品添加物も種類と量について法規制が定める基準に準拠した使用を守ることが前提条件である。

代替肉の利用状況

(a) 代替肉の利用状況

代替肉の利用意向

(b) 代替肉の利用意向

代替肉について気になること・不安なこと

(c) 代替肉について気になること・不安なこと

(n=10,133件)

図1. 代替肉と聞いてイメージ(利用状況、気になること、不安なこと)調査結果
(出典:マイボイスコム「代替肉」に関するインターネット調査を引用・転載)1.

 培養肉の安全性はどうか。国内では、まだ商品化が進んでいないが欧米では既に動物の細胞を取出し、それを培養液に浸漬して、細胞培養により増殖させた培養肉が一部販売されている。培養肉と聞いてどのようなイメージをされるでしょうか。培養の技術は医療での活用で実用化されたりしているが、食品としての培養肉に対して拒絶反応を示す人もいると思う。培養肉は、動物の細胞を増殖したもので紛れもなく動物性タンパク質である。医療分野と同様の環境設備で衛生的に管理された製造設備および製造工程(高サニタリ化設備)で製造されていれば食品としての危険性はないと考えられる。

4.代替肉の将来性

 近年、国内外において代替肉の需要は高まっていて、市場が拡大している。今後の将来性について所見を述べる。
(1) 植物性代替肉の現状と将来性
 植物性の代替肉が新たに開発されたわけではない。ただし、技術的には現在と程遠い本物とは比べ物にならないものであった。欧米を中心としたヴィーガンやベジタリアンといった菜食主義者をターゲットにした商品であった。
 しかし、近年の植物性代替肉は、見た目も食感も本物の食肉と遜色ない「おいしいお肉」の食品へと進化し、一般の消費者にも受け入れられる商品となった。
 代替肉の味、食感、芳香を本物に近づけようとすると、研究と開発に時間と費用を生じることから通常の本物の肉に比べると割高となってしまう点に課題がある。製造手法・技術の進歩により近いうちに安価なものになると考える。
(2) 培養肉の課題と今後の展望
 もう一つの取組みとして考えられている培養肉も大きな課題として抱えている問題がコストである。細胞培養技術は、医療目的で研究・開発され発展してきている。さらに国内外の法規制、安全性、培養肉に対する抵抗感など一般的な受け入れやすさには課題が山積していると感じる。植物性代替肉との併用や栄養バランスをデザインした機能性食品のような付加価値をもつようになれば本物の食肉との差別化ができると考える。
(3) 植物性代替肉の国内市場の今後の展開
 製造コストをどのように低減するかについては、さらなる開発が必要である。しかしながら国内での植物由来の代替肉の認知度も近年のコロナ禍に伴う巣ごもり需要などから、健康志向のニーズが高まったと感じる。スーパーマーケットやコンビニエンスストアでも代替肉商品を数多く見かけるようになった。環境問題や健康志向、食糧自給の問題といった関心から、代替肉が注目されて行くことは疑いようがない。「おいしいと思われること」、「食べてみたいと思わせること」、「リーズナブルな価格とすること」が今後の展開に向けて必須であると考える。

以上

【参考文献・引用先】

  1. 代替肉のアンケート調査|ネットリサーチのマイボイスコム(株)H.P
    https://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/26902/index.html
  2. 食品工場キーワード 技術用語解説28『代替肉 / 大豆ミート( Meat substitutes / soy meat )』木本技術士事務所H.P https://www.kimoto-proeng.com/keyword/1920
  3. 食品工場キーワード 技術用語解説54『培養肉(Cultured meat)』木本技術士事務所H.P https://www.kimoto-proeng.com/keyword/3005