2019/12/05
昨今の傾向として、一般消費者の嗜好の多様化に対応するために、飲料・液体食品製造業では多品種製造型の設備への移行が顕著である。
これに伴い、安全性の保証に加えて、品種切り替え時の時間的効率、歩留りの向上を総合的に考慮した製造システムが要求されている。
多品種製造の課題、検討事項として以下が挙げられる。
① 多様な製造パターンへの対応する多品種製造型の設備
品種ごとに使用する専用食品機械およびタンク類が異なることに対して、これらをフレキシブルに接続できなければならない。バルブ類の応用、スイングベンドによる切り替え、ホースの利用等があるが、フレキシブル度を上げようとすると、複雑化してしまう。一方、接続ミスを防ぐためには、複雑化は好ましくない。
② 製品の交差混入の防止(コンタミリスク回避)
③ 製品歩留りの向上 (製品ロスの低減)
④ 排水処理の負荷軽減
品種切り替えの頻度が多くなると、それに伴って排水として流れる製品成分も増える。製品ロスの低減対策は、製品歩留りの向上だけでなく、排水処理の負荷低減にもつながる。
⑤ 製造履歴管理、トレーサビリィティ
製品の品質・安全性を保証するためにも、フレキシブル度が高い製造に対した製造履歴管理、トレーサビリティが必要である。
これらの課題、検討事項の対応として、配管システムに限らずいくつかの製造システム、またはその要素の活用を推奨している。
図1.は品種数・生産量と、製造システムの対応を概念的に示したものである。
この内の多品種対応システムとして「移動槽方式(以下移動タンクシステム)」を紹介する。
移動タンクシステムは、タンク類を専用食品機械や次工程へ移動することで、プロセス配管を最小限にするシステムである。
・従来バッチプロセス
従来はタンクを固定し配管とバルブを組合せてバッチ生産に用いていた。ラインが連続しているためコンタミのリスクがある。
・移動タンクバッチプロセス
新バッチ方式はタンクを目的の場所に適宜、自由にAGVなどで搬送し、送液ラインが完全に切り離されているためコンタミのリスクがなくなる。
実施事例を図3,に示す。 http://www.iwai.co.jp/products/others_detail_05.html
図3 移動タンクシステムの実施事例〔出典:岩井機械工業(株)H.P〕
このシステムは、タンクが自由に動きまわり製造品種に応じた攪拌機・乳化機を移動タンクに脱着して使用することも可能なシステムを特徴とる。
移動タンクシステムの最重要要素技術の無菌着脱バルブ装置、用役供給着脱装置、動力を供給する電源供給着脱装置などの衛生・安全、信頼性が求められ確立できたことが実用化事例となった。
タンクは容量1,000L標準~最大10,000Lとしている。攪拌機・乳化機を搭載した移動タンクの移動は自動搬送台車(以下AGV)等の移動台車による自動化で目的とする作業ステーションまで移動しタンクの移載を自動で行う。作業が終了すればタンクをAGVへ移載し洗浄などの目的であれば洗浄専用のステーションへ移動して移載作業を適宜行う。
別の方法として1,000L容量であれば省力機器(電動アシストなど)を使用して人手で安全に目的の場所へ移動する方法を採用することも可能である。
従来のバッチプロセス(パイプ方式)は機器間を配管で接続し、液体の流れをバルブなど用いて切替えを行う必要がある。またバルブ点数も多くなるため、制御が複雑となっていた。
新バッチプロセス(パイプレス方式)の方法の一つとして移動タンク方式を用いた場合、配管使用量が削減され、尚且つ配管切り替えの機器類も削減される。またマルチバッチ方式としては、配管切り替えシステムなどがある。http://www.iwai.co.jp/products/others_detail_06.html
図5 コンタミフリー配管切り替えシステム実施事例〔出典:岩井機械工業(株)H.P〕
これらシステムを導入することで、パイプレスプラントが構築できる。
製造品種の移り替りによるプロセスの変更や機器配置の変更を考慮した機器レイアウト、人の動線ならびにゾーニングなどにも気を配る必要がある。このようにパイプレスとするレイアウト変更は工場の稼働停止期間を短縮することにより、新規プラントのみならず既存プラントへの導入を可能にした。
また、製造区域のドライ化を推進し、目標とする衛生レベルを実現できる。
従来の固定タンクやパイプ接続、バルブ類、制御機器点数を大幅に削減できるメリットもあり、それに伴う洗剤量、洗浄時間、材料の使用量削減など環境にもやさしい設備となる。
一口に多品種製造といっても、食品工場ごとに製造条件・要求事項は千差万別である。
そのため万能な生産システムはない。
製造パターン、品種ごとの製造頻度、製造単位量、洗浄のタイミング等を加味し、要求事項に適切な優先順位を設けて設計・計画することが、食品の安全性、消費者嗜好に対応した食品工場の生産システムに求められるものと考える。
多品種生産の多目的バッチ生産の段取り替え、品種切替え、生産計画のイレギュラーな割込み作業による生産変更対応などシステム構築における課題は多い。
AI技術を活用した生産シミュレーションによる製造計画の最適化が図れるなどに期待したい。AGVも無軌道で自由にタンク受入・払出、貯蔵、洗浄、メンテナンスそれぞれ目的に合ったステーションへ移動し最適な生産システムができるようにシステムを構築する。
サニタリー飲料・液体食品製造設備で実用化した「パイプレス移動タンクシステム」は、大手飲料メーカーの市乳工場とアイスクリーム工場に大型タンク10,000Lの移動タンクシステムとして導入して、すでに手掛けてから20年近くになるが現在も稼働中である。
最後にサニタリーの飲料・液体食品分野では国内外初であったこのシステムを構成する要素機械、技術のノウハウを活かした「スマートバッチプラントの構築」に向けて最新技術のAIやIndustry IoT(いわゆるIIoT)、Industry4.0といった技術を新たに融合して生産シミュレーションやスケジューラーなどをさらに進化させることで新しいスマート化製造設備への提案を考えていきたい。
以上