2023/04/24
『水産加工排水の未利用資源を有効利用した事例レポート』
Case report on effective utilization of unused resources of marine processing wastewater
1.はじめに
水産加工工場から排出される加工排液には、多くの種類があるが主に、すり身さらし排液、カニ、ホタテ煮熟液、冷凍原料解凍排液などがあげられる。これらは、単純に濃縮するだけで商品価値のあるカニ、ホタテ煮熟液などを除いて、大部分が汚水処理場に送られている。
これらの加工排液はその他の産業廃棄物とは違って未利用資源として扱えるもので、鮮度良好なものが多く、有効利用できるものも多くある。そこで、食品分離・濃縮で利用されている膜処理技術を応用して排液中のタンパク質等を低分子化し、呈味性を発現させて濃縮する活用と分離された残りの水を資源として再利用するシステムを構築し、最終ゴールとして排液を工場外に出さない水産加工技術の確立を図った事例を紹介する。
2.水産加工排水からの調味液製造の取り組み
水産加工排水のカニ、ホタテ、イカの煮熟液、スケトウタラすり身さらし排液などでテスト評価した内のイカとスケトウタラすり身さらし排液の事例を詳述する。
(1) 遊離酵素型メンブレンバイオリアクタの活用
UF膜装置でイカ煮熟液を処理した事例では、UF膜透過液は分子量が小さくて呈味成分が充分に得られ、濃縮すると良好な味となった。保持液は高分子であることから、呈味性は乏しく、調味料素材としての利用は困難であった。また酵素分解すると苦味を発生した。しかし保持液中には、呈味に重要な働きをするアミノ酸が多く含まれていることから、膜分離することでその呈味性を引き出すことが可能と判断した。そこで苦味を発生させることなく原液中に含まれるタンパク質を低分子化し、透過液中にアミノ酸を得ることを検討した。すなわちここに使用した酵素は生成物阻害を受けるので、UF膜の分画分子量を酵素(分子量2~3万)が透過しないようにすることで、酵素は保持液側を循環し、低分子化された酵素分解物は、逐次UF膜を透過して系外に排出され、酵素は引き続き活性を保持し、連続的に保持液中のタンパク質を低分子化できる。
UF膜の選定においては、図1.に示すようなテスト装置で分画分子量100,000~1,000までの6種類をテストした結果、50,000の膜が透過流束や目詰まりの点からみて、最も良好であった。この時の透過液の分子量は、最大7,000であった。この結果を受けて溶質が膜の表面に付着してダイナミック膜を形成した結果であると推測された。したがって分画分子量50,000の膜にダイナミック膜を形成させることにより、酵素(分子量20,000~30,000)を保持液側に溜めることができると結論付けた。
そこでイカ煮熟液に酵素を添加してUF膜で循環ろ過させたところ、タンパク質の分解が進み、ほとんどすべての液をUF膜透過液として系外に取り出すことができた。さらに酵素添加量についてテストを行い、イカ煮熟液(Bx 1.4°)に酵素10ppm(デスキン、プロチン各5ppm)を加えることにより、原液中のタンパク質を分解し、連続的にUF膜透過液中にアミノ酸を取り出す遊離酵素型膜リアクタを構築することができた事例である。同様にカニ、ホタテ等においても排液でのテストを行った結果、同様に良好な遊離酵素型膜リアクタを構築することができた。
(2) 実用化に向けたパイロットプラントの例
上述の知見を基に、実用化プラント設計の基礎となるパイロットプラント(図2.)を製作し、大量に排出されるスケトウタラすり身さらし排液等からアミノ酸調味料の製造を行った。
① 前処理装置
UF膜の目詰まり(ファウリング)が激しく大きな問題点となったため、次の方法で解決した。パイロットプラントを大きく3つの工程で運用する方式として、まず前処理工程を設けて至適温度45℃の酵素1を図2.の①に、至適温度70℃の酵素2を➁に加えて、各1時間加水分解することにより、加温による凝固物を大幅に減少させることができ、UF膜の目詰まり成分を除去することができた。ここで良好な結果が得られた酵素1と2はいずれもタンパク質分解酵素である。
酵素分解後のSS除去には、当初遠心分離機を用いたが、作業性を考慮してろ過方式を採用し、自動洗浄が可能な10μmのフィルタ③を使用し、良好な結果が得られた。
② UF膜精製装置
A)運転条件
UF膜による遊離酵素型膜リアクタを構成する場合には、酵素タンク➁で添加される酵素(耐熱性タンパク質分解酵素:至適温度70℃)が重要なポイントとなるが、液温を酵素至適温度70℃に上昇させることにより、液の変敗を防止し、かつUF膜透過液の透過流束を上げることが可能となった。
B)UF膜材質
当初は、ポリスルホン製の膜を使用したが、耐熱性に問題があり、半年~1年で破損した。対策として、イニシャルコストは3倍程度のアップとなるが、耐久性を考慮してセラミック膜(日本ガイシ製 1.4m2)を採用したことで、その後の破損はなくなった。
C)RO濃縮装置
スケトウタラすり身さらし排液のUF膜透過液はその濃度が非常に薄いので(Bx 1~2°)、逆浸透膜(RO)装置による予備濃縮を行ってBx 7~8°まで濃縮したのち、減圧濃縮らより高濃度に濃縮する方法を採用し、経済性の向上を図った。
RO膜は、UF膜透過液の温度を考慮して、70℃で使用可能でかつ酸やアルカリ洗浄を可能な膜を選定し採用した。膜の耐久性としては、半年~1年となるため、今後の課題として耐用年数を上げることが実用プラントのランニングコストを左右する重要ポイントである。
③ 膜洗浄
UF膜、RO膜共に現状6~8時間に1回の洗浄を行う必要がある。運転時間を延ばすために自動的に洗浄が行えるシステムし、洗浄剤には、カセイソーダ(NaOH)溶液0.2%と硝酸(HNO3)溶液0.2%を交互に使用して洗浄を行った結果、効果的であった。
3.今後の展開
水産加工排液を未利用資源として位置づけ、有効利用の可能性を実用化に向けた製造プラントの研究開発も含めて検討した結果、スケトウタラすり身さらし排液でのテストでは、次のような結論が得られた。
(1) 良質な調味料素材を得ることが可能である
(2) タウリン資源としても有望である
(3) 有価物回収後の水は、水資源として洗浄水など再利用可能である
但し、さらに商用仕様の大規模製造プラントへの展開においては、技術的な問題、ランニングコスト、商品市場の販路拡大など課題は多く残されているが、未利用資源としての有効利用が進むことを期待している。
以上
【参考文献・引用先】
- 伊藤 章:トコトンやさしい「膜分離の本」2017 年 日刊工業新聞社
- 木本技術士事務所HP 技術レポート
「食品膜技術による分離・濃縮の基礎と応用」2020/07/27
https://www.kimoto-proeng.com/report/912 - 木本技術士事務所HP 技術レポート
「食品膜製造技術に用いる無機膜」2021/07/13
https://www.kimoto-proeng.com/report/1715