『食品工場の製造工程における金属異物混入防止の考え方』(前編)

  • HOME
  • 技術レポート
  • 『食品工場の製造工程における金属異物混入防止の考え方』(前編)

『食品工場の製造工程における金属異物混入防止の考え方』
(前編)
How to prevent metal contamination during the manufacturing process at food factories (Part 1)

1. 食品工場の現状

 金属混入は様々な食品での混入事例があるが、食品と数の多さに際立った特徴は無い。しかし、飲料や調味料など液体製品への混入は少ない。充填包装される直前にメッシュでのろ過工程があると、そこで排除されるためである。
 食品工場では、製品への混入の起こりやすさや喫食時の被害の大きさから、金属異物の混入防止が重要な対策に位置付けられている。食品で問題となる金属異物混入防止の基本的な考え方のポイントをまとめた。

2. HACCPでの金属異物の位置付け

 HACCPでは「健康に悪影響をもたらす原因となる可能性のある食品中の物質または食品の状態」を“危害要因”と呼び、使用原材料に存在する可能性のある危害要因、加工中に発生する可能性のある危害要因について列挙し、その重要度を評価する。これを危害要因分析と呼び、「混入が起こった時の健康への悪影響の重大さ」と「その起こりやすさ」の二つの要素を掛け合わせて最終的な評価を行う。これを金属異物に当てはめると、「健康への悪影響」と「その起こりやすさ」のいずれの評価も高く、リスクが大きいと言える。
 一方、法令上でも金属異物の混入は防止しなければならない。食品衛生法では「人の健康を損なう恐れがあるものを混入させてはならない」とあり、金属異物が混入した製品は法令違反となる。金属混入が疑われる製品が市場に流通した場合、製品回収の判断が必要となる。

3. 『異物混入防止の3原則』の考え方

 金属混入防止対策の活動は様々であるため、個別に対策を考えるのではなく、『異物混入防止の3原則』すなわち、(1) 入れない、(2) 持ちこまない、(3) 取り除く、を基本に考えると良い。

(1) 「入れない」ための考え方

  •  食品を製造する際に用いる機器や器具類には、耐久性や洗浄のしやすさなどから金属が多用されている。これらの金属には、金属疲労や衝撃による破損、組み付け部の緩みなどによるパーツの脱落など、混入の原因となる可能性が潜んでいる。
     また、従事者が使用する物品等も同様である。使用しているボールペンが機器に巻き込まれて破損し、金属パーツが混入してしまった例もある。場内で使用する金属については、「入れない」ための考え方が必要となる。具体例を次に示す。
    (1)-1. 定期的なメンテナンス
     機器やパーツの破損は、未然に防止することが前提となる。定期的にメンテナンスやパーツの交換を実施することで、破損を防止する。適切なメンテナンス方法や頻度は、取り扱い説明書の記述や実際の使用状況から決定するが、最初から完璧に決められることは少ない。定期的な点検やトラブルの発生状況に応じて、見直していくべきである。大がかりなメンテナンスや工事の際には、キリコや金属粉が生じる可能性がある。製造ラインを汚染しないように養生をしっかりと行い、工事後には清掃を行うことが必要となる。
    (1)-2. 日々の点検による事前察知
     使用中の機器や器具の突発的な破損に対する処置も必要となる。使用前に機器や器具に破損や問題がないことを点検することで、適正な状態で使用することができる。さらに終業時にも同様の点検をすることで、製造時に生じた破損を速やかに察知することができ、影響を受けたと考えられる製品に対して何らかの処置を施すことができる。
     終業時の点検は、製造終了後の清掃・洗浄時に実施されることが多いが、分解洗浄時に外したネジやナットなどの小パーツは、紛失しないように注意を要する。紛失した小パーツは、それ自体が異物になるばかりか、機器に巻き込まれると機器を損傷する原因となり、二次的に異物混入原因物を生じさせることとなる。小パーツを一時的に入れておく容器を準備するなど、紛失防止が必要である。点検が適切に行われるような工夫も必要となる。
    (1)-3. 異物になり難い物品の選定
     従事者が使用する備品は、異物になりにくいものを選定することが望ましい。場内で記録を残すために必須であるボールペンも、機器に巻き込まれると破片を飛散することとなる。
     現在は、折っても破片が飛散しない樹脂製ボールペンが市販されているので、破損時の影響の大きさや管理のしやすさ、コスト面など考慮して、導入を検討したい。

(2) 「持ち込まない」ための考え方

  •  製造場内には、従事者、外来者、原材料・包材、通い容器などと共に、金属異物の原因となるものが持ち込まれる可能性がある。場内に持ち込む必要のないもの、持ち込むべきでないものを把握することが、「持ち込まない」ための考え方である。具体例を次に示す。
    (2)-1. 物品持ち込み制限(作業者の持ち込み制限)
    「入れない」として使用する物品を選定した上で、それ以外の物品の持ち込みが無いようにする必要がある。そのため、食品工場では異物混入対策の観点で、様々な物品の持ち込みや使用を制限している。例えば、ホッチキスの針は紛失した際に目視で発見することは困難で、金属検出機でも検出されにくい。したがって、場内へ持ち込む書類に使用することは厳禁である。
     金属たわしや折刃式カッターも同様に持ち込みを禁止すべきものの代表であり、入場口に掲示して従事者や外来者に周知する。作業に必要のないものは全面的に持ち込みを禁止するのが原則であるが、そのためには、使用する物品は会社側が準備し、保管も場内で行うことが望ましい。
     しかし、現場で使いやすい備品の選択や供給が不十分であったり、持ち込み制限についての意図が作業者に十分に伝わっていないと、持ち込みが発生しやすい。物品を提供する側である管理者と、使用する側である作業者とのコミュニケーションの充実、教育訓練や指導が重要となってくる。
    (2)-2. 工事業者や外来者の物品持ち込み制限(持ち込み物品のリストアップ)
     外部の工事業者や取引先など、外来者が持ち込む物品は管理不足になりやすい。直接、製造環境中に物品を持ち込むことにより、製造に関わらなくとも間接的に製品への危害を与える可能性が生じる。特に工事業者は、様々な物品を持ち込む必要性があるため、それらの管理は重要である。工事業者が使用する工具やパーツ類の中に、工場側が使用を制限している物品が含まれることがある。
     工場側は工事業者に限定している物品と意図を伝え、持ち込まないように徹底してもらう。どうしても必要な場合には、その物品のリストアップと使用後の回収チェックを行うことが必要となる。取引業者との連携および工場側のチェックが重要となる。
    (2)-3. 使用する原材料に伴う金属異物
     使用原材料に、想定外の金属混入がないようにすることも「持ち込まない」に該当する。原材料を選定する場合、組成や特性、製造工程などが記述された製品説明書の情報が判断の材料となる。ここに管理している金属異物のサイズが記入されていることが多く、この基準の遵守が取引条件となる。
     しかし、原材料メーカーでの管理が不十分ならば、基準以上のサイズの金属異物が混入している可能性はある。原材料を使用する側では、突発的に金属が混入していてもプロテクトできる工程を設けるとともに、原材料メーカーの衛生管理状況も併せて確認する必要がある。すなわち、原材料を供給する側、購入する側双方が協力し合って安全性を確保することが大切である。

(3) 「取り除く」ための考え方

  •  取り除く管理としては、ストレーナー、メッシュ、スクリーンなどの篩(ふるい)掛け、マグネット、金属検出機・X線装置が代表的なものとして挙げられる。原材料にもともと金属が混入していると考えられるならば、取り除く管理が必要となる。例えば、未加工の魚には釣り針や銛(もり)の先端が食い込んでいる可能性があり、その除去は加工メーカーが行う。
     原材料が加工品であり、加工場で金属検出工程が存在する場合には、混入の可能性は低くなる。しかし、その加工場の金属検出機が大きなサイズの金属しか除去できないのならば、金属が原材料に混入していると想定して管理を行う。つまり、原材料加工メーカーが除去できると保証している金属のサイズと、その原材料を使用する最終メーカーが除去したいと考えている金属のサイズとを比べ、判断する必要がある。
     基本的には、上記の(1)入れない(2)持ち込まないが前提となるが、それだけでは、混入防止として十分とは言えない。異物対策3原則のうち(3)取り除くは、最も重要な管理として位置付けられている。

4. 最後に

 金属異物は、食品メーカーが混入対策にもっとも気を配っているものであり、様々な除去・検出装置や機器が開発、導入されている。
 しかし、これらの装置や機器の原理を良く知り、適切な管理を行わないと、その性能は十分に発揮されない。装置を設置しただけで安心せずに、使用製品や環境にもっとも優れた管理方法とは何かをよく考える必要がある。また混入を抑える管理を軽視せず、食品への混入数そのものの減少も進めるべきである。
 次回の「技術レポート」では、『食品工場の製造工程における金属異物混入防止の考え方(後編)』として主に金属異物の管理、分析方法、装置や機器について解説する。

以上

【参考引用先】

  1. 技術レポート『食品・飲料工場における異物対策を考える』木本技術士事務所
    https://www.kimoto-proeng.com/report/1272
  2. 異物混入対策とは?食品工場・製造現場の事例と原因を解説│ ….
    https://www.foodtechjapan.jp/hub/ja-jp/blog/article_036.html
  3. 令和3年度に東京都内の苦情・相談事例について、要因別、食品別に集計
    https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/foods_archives/violationComplaints/complaint/complaint_r3/index.html
  4. 塩田智哉, 環境管理技術Vol 29 №4 [食品製造現場における異物混入対策~金属異物混入対策~], 環境管理技術研究会, 2011