『食品容器包装の最新動向と今後の食品包装の方向性について』

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『食品容器包装の最新動向と今後の食品包装の方向性について』
The latest trends in food container packaging and the future direction of food packaging

1. はじめに

 食品容器包装の重要な役割には、輸送・保管・流通・販売・使用するなどがある。特に食品にフォーカスすると、容器包装商品の顔でありその外観・表示、使い勝手など機能により売れ行きが左右される。その反面、食品容器包装は加工技術、包装機械、包装材料、印刷技術、物流技術などさまざまで技術の集大成であり、その国の生活水準、技術水準を反映している。容器包装技術は、社会環境の変化に対応して、包装に求められる役割も変化し、包装技術も進歩してきた。昨今の食品容器包装に要求される機能とそれに対応した取組み事例を示し、今後の進むべき方向性について詳述する。

2. 食品包装設計の基本 ~食品包装に要求される役割と機能~

 一般的には、包装は内容商品に対する保護性、商品を使いやすくする利便性、商品説明・表示などの情報伝達の3つの基本的な役割がある。その役割を達成するために必要な要求機能を表1. 示す。

表1. 食品包装への主な要求機能

表1. 食品包装への主な要求機能
図1. 近年の包装を取り巻く環境の変化

図1. 近年の包装を取り巻く環境の変化

 一方、包装を取り巻く社会環境は図1. に示すように変化しており、包装を検討するにあたっては社会環境を考慮することが重要である。包装への要求機能は、その時々の社会環境を反映して重要度が変化する点にある。特に近年は、品質保持、ユニバーサルデザイン、環境対応、安全安心の4つがキーワードであり、それぞれの機能について考えてみよう。

3. 品質保持

 包装は、商品の工場出荷から輸送保管、販売までの流通の間に影響する外部環境から内容物を保護する機能がある。内容物に影響する外的な要因としては生物的、化学的、物理的要因があり、それらの影響から内容物を守るために、表1. で示した「保護性」に関する様々な機能が要求される。食品の変質とそれを防止するための包装技術を表2. に示す。

表2. 食品変質を防止する包装技術

表1. 食品包装への主な要求機能

3.1 生物的変質を防止する包装技術

(1)低温流通
 微生物の活動がほぼ停止する低温下での流通で、0~+10℃の温度帯で流通させるチルド食品と-15℃以下で流通させる冷凍食品がある。容器包装は耐寒性と電子レンジ加熱が可能な耐熱性、体温耐ピンホール性・強度が要求される。

(2)ホットパック
 加熱殺菌した食品を、加熱温度を維持したまま容器・包材に充填し密封する方法である。食品の水分活性、pHによる充填温度が設定され常温保存も可能となる。充填し冷却後は内容物が収縮するため、容器は減圧変形対策が要求される。製品例としては、果汁飲料、ジャム、タレ、ソース、ケチャップなどの充填包装に利用されている。

(3)包装加熱殺菌
 殺菌温度によるボイル殺菌(100℃未満)、セミレトルト殺菌(115℃以下)、レトルト殺菌(125℃以下)、ハイレトルト殺菌(130℃以上)がある。容器殺菌は耐熱性、耐ピンホール性が要求される。

(4)アセプティック(無菌)包装
 殺菌した食品をアセプティック(無菌)雰囲気下で充填・密封する方法である。加熱による食品の品質劣化が少なく、食品本来の色や風味を保つことができる。容器包装は高度な密封保証が要求される。製品例としては、パック入りごはん、カップ入りデザート、スライスハム、ブリック型紙パック入り牛乳や果汁などがあげられる。

 これらの生物的変質を防止するための包装技術は、食品の性状、pH、水分活性、対象菌、包装形態、保管・流通条件(常温流通か、チルド流通か)、賞味期限(期間)、生産数量などから最適な包装方法が選択される。

3.2 化学的変質を防止する包装技術

(1)真空包装
 酸化防止、後殺菌の効率向上のために用いる包装技術である。パウチに鋭角的な突起ができピンホールが発生しやすいため充填包材に考慮する必要がある。

(2)ガス置換包装
 酸化防止、微生物制御、肉の発色保持、粉体の固結防止などの目的で用いる包装技術である。真空包装と異なり、シール不良やピンホールが目視では判断できない欠点がある。

(3)脱酸素剤封入包装
 食品に直接触れない封入形態にすることが要求される。脱酸素剤はコスト高、充填作業と管理、誤食の問題があり、包装自体で酸素を吸収する能力を持つ各種の酸素吸収機能付き包材が開発され、食品包装への採用が多くなっている。

(4)青果物鮮度保持包装
 青果物の収穫後も生命活動している青果物に対して、鮮度を保持するために最適な酸素濃度、湿度を包装内に整える包装技法である。青果物の種類、内容量、包装面積、流通条件などを考慮して適度な透過性を持つフィルムが選択される。

3.3 物理的変質を防止する包装技術

(1)防湿包装
 防湿性能の条件から必要とされる防湿性能が計算され、それを基に包装の材料構成を決める。防湿性能を計算するための条件を示す。

  • 内容食品の水分活性
  • 初期水分含量 / 許容限界水分含量
  • 充填量
  • 包装材料の表面積
  • 保管温度 / 湿度
  • 保管期間

(2)緩衝包装
 内容物の落下衝撃、疲労破壊、荷重変形などに対する強度を把握し包装形態、材料構成を決定する。実際の流通条件に基づいた振動試験、落下試験、高積試験、輸送試験を行い、合否判定を実施し決定する。

4. ユニバーサルデザイン

 包装にユニバーサルデザイン(以下UD:年齢や能力に係わりなく全ての生活者に対して安全で使いやすい製品のデザイン)の要求が求められるようになって久しいが、現在の包装においては、安全で使いやすいことは必須の機能であり、それにより商品としての価値を高めることにつながる。国内でも高齢化が急速に進む中でUDへの要求はますます高度化している。
 包装のUDを達成するために、包装設計を行う際に配慮すべき項目を表3. に示す。これらは、本来全ての包装に要求される項目であり、UDという特別なものではないことが分かる。顧客からの指摘をされてから改善するのではなく、商品開発の段階で顧客目線での問題点を見つけて解決して行くことが重要である。

表3. 包装におけるUDへの配慮項目

表3. 包装におけるUDへの配慮項目

(1)高齢者に配慮した食品包装とUD
 総務省の推計によれば、65歳以上の高齢者人口は今年(2024年)9月15日現在、3625万人(前年推計にくらべて2万人増加)で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.3%(同0.2ポイント上昇)となりました。高齢者人口・高齢化率ともに過去最高を更新している。我が国の総人口は減少傾向に入っており、高齢化率は今後も上昇を続けることになる。
 高齢者向けを強調した商品は市場を見てもまだ少ない状況であるが、高齢者が使用することを想定して包装設計された容器包装もちらほら見かけるようになった。例えば、表示の視認性を配慮したもの、安全性、開けやすさ、握りやすさ、内容量など、高齢者の視点から配慮することにより、利用しやすい商品開発が進むことが望まれる。

(2)製造物責任とUD
 製造物の欠陥により損害が生じた場合、製造物責任が問われることになる。製造物の欠陥は、設計形状の欠陥、製造上の欠陥および表示上の欠陥がある。設計上の欠陥を回避するためには、その時の最も優れた技術を採用しておくことが必須となり、解決できる技術があるにも関わらず採用していないことは設計上の欠陥に該当する。

(3)UD包装の進化
 ①使い勝手を配慮したポーションパック
 コンビニなどでよく見かけるポーションパックは一人前の使い切りサイズ包装で、使い残しが発生しないことから食品ロス対策にもなる包装形態である。ポーションパックの中でも液体小袋包装は、開封し難い、手を汚しやすいといった多くの問題がある。
 ②開けやすくなったキャップ
 調味料などに用いられる液体ボトルは、漏れ防止、液だれ防止、液量調整などを目的として、従来は中栓やヒンジキャップが使われてきた。プルリングを引っ張って開封するが、そのリングが指に掛かり難い、引き抜く時に力が必要、引き抜いた時に液が飛び散る、切り取ったリンゴがゴミになるといった問題があった。中栓やキャップの構造は内容物の鮮度を保つ新しい発想、技術が取り入れられるようになった。
 ③加熱食品包装の改善
 電子レンジ加熱は、火傷、破裂突沸による電子レンジの破損、加熱不足による食中毒など重大な問題を起こす危険がある。開発段階で問題点を十分に把握し、解決策を検討する必要がある。電子レンジの加熱の原理を理解した上で繰り返しテストを行い評価することが大切である。また正しい使い方をした時でも重大な危害が発生しない包装設計が必要である。

5. 環境対応

(1)包装での環境対応
 脱炭素社会、持続可能な社会など近年、問題となっている社会への貢献は企業の社会的責任(CSR)であり、企業の継続的な取り組みとして必須となっている。また、商品の流通時や販売店舗先での食品廃棄が社会問題となっており、食品廃棄を減らすためにも包装の果たす役割は大きい。

(2)環境対応の考え方
 食品容器包装の環境対応を検討する場合、次の4つの基本的な考え方を考慮すると良い。
 ①消費者がメリットを感じる環境対応を取り入れる。例えば、安い、軽い、使いやすい、無駄がない、捨てやすいなどを具体的に感じられ販促効果がある。
 ②合理化ができて、コストダウンにつながる。コストアップの環境対応は採用が難しい。
 ③企業の社会的価値・評価を高める取り組みとする。誰が見ても環境に良いと評価されることが重要であり、環境対策の評価が賛否あるものは採用が難しい。
 ④商品の保存性、強度、利便性など、従来加味している機能は同等以上であることが望まれる。保存性や強度を損なってしまっては本末転倒である。

(3)環境対応包装
 ①アルミレス包装
 アルミ箔を使用しないレトルトパウチや紙カップが採用されている。常温流通のレトルトパウチはアルミ箔を使用して酸素の遮断、遮光を行い内容物の品質を保持する。アルミ箔に匹敵するハイバリア性能の透明フィルムが開発されアルミレス化が可能になった。従来のアルミパウチと比較してアルミレスパウチは製造エネルギーが約半分となる。アルミレスによって中身の視認性や電子レンジでの加熱商品への活用が可能になった。
 ヨーグルトなどの乳製品は乳脂肪、乳タンパクが光線に極めて敏感なため、紙カップはアルミ箔による遮光が要求される。開発された紙カップは紙の中間層にカーボンブラックを付着させたパルプを用いることで遮光性をもたせており、アルミレスとすることでコストダウン、エネルギー使用量の軽減に寄与している。
 ②分別に配慮したガラス瓶用紙ラベル
 びんの紙ラベルを簡単に剥せるようにしてほしいという購入者の要望により開発された紙ラベルがある。紙ラベルを貼るための糊の改良により、廃棄の際は手で簡単に剥せるものも採用されている。

6. 包装の安全・衛生

(1)包装の安全・衛生性
 包装の安全・衛生性については、包装材料の安全性、製造工程での異物混入防止、使用面での安全性の3つの観点から考える必要がある。
 ①包装材料の安全性
 食品衛生法が改正され2018年6月13日に公布、2020年6月1日に施行された。器具・容器包装に対しては、PL制度の導入、製造管理規範(GMP)による製造管理の制度化、サプライチェーンの情報伝達の義務化が定められ、合成樹脂製器具・容器包装が対象となる。図2. にUD制度の概要を示す。

図2. PL制度の概要(出典:厚生労働省HP)

図2. PL制度の概要(出典:厚生労働省HP)

 ②製造工程での異物混入防止
 金属片やプラスチック片など人体に危害を与える恐れのある異物混入はマーケットクレームにつながり商品回収などにつながる。異物混入への対策は想定していない見落としなどが起こりやすくトラブルが後を絶たないため、外部の第三者による監督が有効である。特に、ユーザーによる監査は、コミュニケーションを通してお互いを知ることで、より良い商品をつくることができる。
 ③取扱い時での安全性の確保
 誤飲・誤食、火傷、包装容器で手を切るなど、使用の際に発生するさまざまなトラブルがある。UDの視点から開発段階での問題点を把握し解決しておくことが重要となる。誤飲・誤食に関しては、食品以外に使用されている包装容器と類似の形態は避ける。キャップは幼児が飲み込めない大きさにするなどの配慮が要求される。また、いたずら防止機能は商品を守るためにも必要な取り組みである。

(2)包装の品質管理
 包装の品質管理は、包装設計段階の品質保証と日常の品質管理に分けて考える必要がある。包装設計の段階では、決定された包装仕様を規定するための商品規格書が作成され、使用原料、製造工程、計量特性値などが取決められる。この商品規格書には商品ごとのスペック(諸元)を固定しサイレントチェンジ(製品の製造過程において、部品や材料のサプライヤーが発注企業の許可なく、勝手に製品仕様を変更し納品すること)を防止するために有効になる。日常の品質管理では、商品規格書通りの容器包装が作られるための工程管理書が作成され、製造条件、異物混入防止保証体制、品質検査項目、検査頻度などが取決められる。またロット検査書の確認、受入検査、現場査察などが日常の品質管理として実施される。図3. に包装の品質管理の関係示す。

図3. 包装の品質管理

図3. 包装の品質管理

 人員不足による合理化や省人化、あるいは多品種少量生産などによる製造条件の変更が日常的に行われていることにより品質トラブルの要因となることがある。包材メーカーは、、包材臭の内容物への影響や包材と内容物との相互作用などによる危害に対する認識が不足するなど、問題を見過ごしてしまう事例も多く発生している。製造工程の小さな変更も包装設計段階に戻って品質上の問題が起きないか考慮する必要がある。

7. 今後求められる食品包装の方向性

 食品包装に要求される方向性としては、持続可能な社会への貢献として食品ロス削減が重要な課題となっている。食品ロス対策として包装でできることを業界全体で示すことが大切である。
 食品包装としては、美味しさへの追及を忘れてはならない。包装による保存性の向上、美味しさを長く保って流通させるなど消費期限などの取り組みなどが、先にあげた食品ロスの削減にもつながるものになる。
 さらに高齢化が急速に進むことが問題視されている中で容器包装の利便性への要求も高度化している。利便性を高付加価値とした包装商品を購入者目線で開発することも重要になってくる。
 消費者が求める機能性を容器包装に取り込むためには、包装設計段階での方向性を明確にして消費者のニーズに応える必要がある。

以上

【参考文献・引用先】
1. 「食品容器包装の新しいニーズ、規制とその対応」企画編集・発行:技術情報協会
2. 「容器包装材料の環境対応とリサイクル技術」企画編集・発行:技術情報協会
3. 木本技術士事務所HP「食品向け容器包装に関わる国内法規制の最新動向」2024.03.25
技術レポートhttps://www.kimoto-proeng.com/report/3909
4. 厚生労働省HP「ポジティブリスト制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000211251.pdf