2020/04/14
三品産業とは
これまでは自動車・電機産業が中心だった工場自動化の裾野が、他産業に急速に広がっている。 代表的なのは、食品・医薬品・化粧品の「三品(さんぴん)産業」である。
加熱・冷却工程を自動ライン化し、器具を運ぶのに無人搬送車を導入するなど可能な部分を自動化し、省人化しながら生産量を拡大するなど顕著な動きが見られている。
三品業界でロボット・FA化が進まない理由は?
食医受託加工・製造企業に対する調査では「ロボット・FA化」について「導入済み」と回答した企業はわずか7%程度にとどまっている。
一方、「導入予定」と「将来的に検討している」と回答した企業は53%と半数を超えている。化粧品受託製造企業に対する調査でも「導入済み」は7%、「検討している」は30%という結果である。
なぜ業界ではロボット・FA化の導入が進まないのか?
経済産業省の「ロボット新戦略」に基づき設立されたロボット革命イニシアチブ協議会(106社、19研究機関・学会)のサブワーキンググループでは、中小食品工場へのIoT利活用の導入課題について次の3つを挙げている。
- 労働力減少
- 多品種切替生産においてロボット自動化に限度がある
- 設備に頼れず多くの人手を必要とする工程が残っている
さらに「ロボットのシステム開発に理解が深まっていない」ことも指摘できる。
一方、ロボット産業界からは三品業界に対して高い潜在需要を見込む報告データも見られる。「産業用ロボット市場の動向」(三井住友銀行企業調査部)によると、ロボット業界の今後の方向性として「その他業界(食品・医薬品・化学品等)での普及も進んでいく」と報告されていた。
産業用ロボットが必要とされる機能は、製造、加工、検査、梱包、搬送等の各工程で異なる。200社を超す食医受託工場では、業務効率化、コスト削減、人手不足問題解消、高負荷作業軽減、ヒューマンエラー低減など、様々な目的で導入の可能性がある。すでに食医受託最大手のアピをはじめ、三生医薬、ファインほか、ファンケルなどの食医工場は一部の工程で導入済みが進んでいる。ロボットメーカーの一部では多品種少量生産に対応した製品開発も顕著である。
川崎重工では、段ボールの組立から梱包まで自動化するロボットが開発されている。複数のサイズに対応でき、切り替えにも細かいティーチングの必要がないことが特徴である。工程全体の効率化や自動化する提案も見られる。
OMCでは、日立グループや安川電機のロボットを使用して、完全自動化された食品工場を提案している。
オムロンでは協調ロボットを用いることで、ヒトとロボットが協調して生産効率を上げるライン作りを提案している。
この他、物流業界ではロボット・FA化の導入が盛んである。
日立物流では、食医・化粧品を対象にした物流シェアリングサービス『スマートウェアハウス』という新システムで今様々な自動化設備を導入している。さらに省人化やコスト抑制などが目的である。
複数の会社が協力し、製造から物流までスマート化を一貫サポートする企業コンソーシアムを形成する動きなども活発である。
ファナックの食品ロボは注目されている。ここ3年で5倍超の成長を見せている。
ファナックといえば、株式時価総額で約3兆4500億円、営業利益率30%以上をたたき出す業界のトップランナーといってよい。徹底した生産の自動化、かつ標準品の集中生産により高い価格競争力を誇っている。自動車工場で溶接や塗装を行う「多関節ロボット」で高いシェアを保ってきからである。
そのファナックが「ゲンコツ・ロボット」を引っ提げて、ここ数年狙いを定めているのが食品や医薬品、化粧品の分野である。「三品市場」と呼ばれ、近年の産業用ロボット業界ではひとつのキーワードとなっている。「食品関係の売上高はまだロボット全体(2013年3月期で約1200億円)の10%に満たないものの、年々確実に増加の傾向」で有望産業といえる。
食品業界の省力化、歩留まりニーズは高いといえる。食品業界では、省力化による人件費の削減や歩留まりの向上による採算の改善が緊急課題としてあげられる。多くの食品メーカーは、新興国での需要増による原材料価格の高騰に悩まされ、価格に転嫁しようにも大手スーパーなど購買力のある小売りは応じてはくれない。そこでメーカー側が自助努力で利益を生み出すひとつの手段として、ロボットによる作業工程の自動化。ここに、産業用ロボットにおけるファナックの高い実績と豊富なノウハウが活かされている。
米中貿易問題の影響からファナックの足元の業績は、スマートフォンの製造設備余剰でロボドリル(小型工作機械)が低迷、稼ぎ頭のNC(数値制御)装置も振るわない状況にある。この局面では、国や産業を問わず、高まるロボットによる自動化需要を取り込んでいくことが求められるようになった。
中小企業と「三品産業」での活躍に大きな期待
日本は、今後少子高齢化社会が進むにつれて、労働力人口が減少する。行政が産業用ロボットの活用を推進する理由は、製造業で予想される人手不足の対策としても期待しているからである。特に補助金制度の対象でもある中小企業や三品産業(食品・化粧品・医薬品産業)は、重点分野に位置付けられている。
三品産業には、まだロボット化の余地が残されているだけでなく、共通して衛生面で高い水準を求められるため、人よりもロボットの方が適しているという面もある。
人口減少という日本の大きな課題に対する切り札になる可能性を秘めているのが、産業用ロボットなのである。
省人化と衛生管理向上を背景に自動化が進む食品・ 医薬品・化粧品業界
2019年7月に、医薬品・化粧品・洗剤業界の製造技術専門技術展「第21回インターフェックスWeek」と、食品機械の技術製品・サービス展である「2019国際食品工業展(FOOMA JAPAN 2019)」が開催された。どちらも自動機械のさらなる活用が期待されている分野だ。業界展だが、近年は特にロボットの活用が目立つようになり、一般メディアの取材も増えている。特に期待されているのは省人化、そしてその先にある無人化である。
医薬品・化粧品・食品業界の人手不足は深刻化
「三品産業」と言われる医薬品・化粧品・食品業界で省人化が求められている理由が、人手不足であることは言うまでもない。機械の利点は、「人間には不可能な精度と速度で、繰り返し同じ作業を安定して長時間こなせる」ことである。しかしながら三品産業は、いまだに人手作業に依存する現場が極めて多く、人手不足の影響を受けている。そのため、三品産業ではまだまだ自動化の余地があると考えられている。ただし、「技術的には自動化が可能だ」といっても、大規模工場はともかく、特に中小規模の工場で現実的に自動化が進んでこなかったのには、それなりの経済的・社会的な背景がある。
活況続くロボット産業、次のターゲットは「食品業界」
最近のロボット産業は、
2018年出荷台数前年比24%増
2025年、3300億円市場に成長が見込まれる
食品製造業は、製造業のなかで最も従事者数が多く、人手に頼っている割合が高い。人不足によって大きな影響を受けている産業のひとつであり、打開策の一手として自動化やロボットへの関心が高まっている。ロボット産業もそこに照準を合わせて展開を始めている。
国際ロボット連盟の統計では、2018年の産業用ロボットの出荷台数は38万4000台で前年比1%増の微増であった。業界別では自動車とエレクトロニクス業界向けが台数では圧倒的だが、注目されているのが食品業界である。16年は8000台だったのが、17年に9000台、18年には前年比24%増の1万2000台まで拡大。特にアメリカでは食品業界向けは前年比64%と急速な伸びを示している。
調査会社のMeticulous Market Researchの「食品ロボット市場予測2019-2025」でも、食品産業用ロボットは25年まで32.7%の年間平均成長率で成長し、31億ドル(約3300億円)に達すると予想されていることから期待が大きい。
同レポートでは、パレタイズや加工、ピックアンドプレイス、包装など食品産業でのロボットの活用領域は多く、人件費の高まりと生産性向上に対して世界的に導入が進められている。特に複数の作業をこなす多能工化できる多関節ロボットが中心になるとしている。
地域的には人件費が高く、厳格な食品安全規制があるヨーロッパが先行して導入が進み、APACも食品安全規制の強化と包装食品の需要の高まりという追い風によって拡大が見込まれているという。
ロボット導入提案が盛況だったFOOMA JAPAN 2019 主要メーカー揃い踏み
昨年開催されたFOOMA JAPAN 2019(2019年国際食品工業展)ではこれまで以上にロボットメーカーとロボットシステムインテグレーター、スマートファクトリー関連の出展で盛況であった。人と並んで作業ができる協働ロボットによる人手不足解消を中心としながら、衛生性など食品業界向けに適合したアプリケーションが数多く提案されていた。
安川電機は、協働ロボットMOTOMAN-HC10DTで人とロボットが同じスペースで働き、小型ロボットMoto MINIでトマト選果機システムでの箱詰めデモを行う。
ファナックはスカラロボットで食品缶の箱詰めと、1つのワークへの教示で異なる種類の複数ワークのハンドリングができる知能ロボットを展示していた。
デンソーウェーブはかんたん、すぐに使える小型協働ロボットのCOBOTTA、さらには食品用ロボットジャケットなどを組み合わせたアプリケーションにも注目されていた。
ストーブリは丸洗いできて衛生性に優れた食品搬送用途向けのスカラロボットを展示していた。
ユニークなデモでは、ユニバーサルロボットは5キログラム可搬の協働ロボット「UR5e」を使い、コンビニ向けの調理ロボットをデモ展示していた。トレーから唐揚げを取り出してフライヤに入れて唐揚げを作り、保温器に入れるまでの一連の工程をロボットが実演てる展示であった。
オムロンも協働ロボットTMシリーズで、弁当製造をイメージしたラインで、番重からの弁当の取り出しと箱詰めの作業を実施。さらにランドマークナビゲーションで誰でも簡単にロボットの設置場所や作業内容が切り替えられる。
ロボットシステムインテグレーター(以下SIerとする)もロボット導入促進の役割を果たす存在となっている。ロボットSIer大手のダイドーは小型協働ロボットによる食品のハンドリングシステムを展示していた。
食品産業など三品産業のプラントエンジニアリングを専門とするOMCはロボットとAGVを組み合わせたシステムを出展し省人化に対応するシステムを提案していた。
FAプロダクツは食品工場へのIoTやスマートファクトリー化のツールのほか、共同出展のオフィスエフエイコムと革新的なロボットハンドとAIによる定量ピッキングのデモを展示し食品業界への展開を図っていた。
新型コロナウイルスの感染が拡大している現在、従来の東京ビッグサイトで開催されていたFOOMA JAPANも当初の計画では東京オリンピック・パラリンピックのプレスとして使用されることから、インテックス大阪での開催が予定されていたが4月14日中止が決定した。
以上