2020/04/23
『粉体プロセスを使った三品産業における粉粒体技術の事例』
私たちは日常的にさまざまな形で粉を利用している。身近なところでは、一般的な家庭の朝食メニューは目覚めのコーヒーと食パンなど、あるいは和食派の方であればもちろんお味噌汁にお米のごはんだろうが、いずれも粉粒体として取り扱われる食品である。医薬品や化粧品についても多くの原材料が粉粒体である。実に多くの場面で関わり合いながら生活をしていることにあらためて気が付く。
三品産業(食品、医薬品、化粧品)における粉粒体について以下に詳述する。
1.食品
食品で要求される粉体は粒子径が20~30μm以上で食感としては舌ざわりにざらつき感を感じるレベルである。粉体プロセスで重視されることに粒子径の制御がある。その制御は非常に重要である。なぜならおいしいと判定する粒子径があり、人の五感に大きく影響するからである。
ここでは、数多い食品として粉体のなかで、小麦粉の製粉、乳製品、調味料について事例として取り上げる。
① 小麦粉の製粉
小麦は、図⒈に示すように、皮部、胚乳部、胚芽部からなっており、縦方向には深い粒溝がある。
食用に適さないこの溝は、米のように削り取りでは十分除去できないため、ほとんどの場合、粉砕し小麦粉として使われている。また、胚乳部に多く含まれているタンパク質の一種であるグルテンは、粉状でないと効果を示さないことからも、粉にして加工食品用原料として用いられている。
小麦粉は強力粉と薄力粉、その間の中力粉に分類されているが、これは原料の種類と粒子径によって分けられている。強力粉は硬質小麦を用い、粒子径50~70μm程度で、主としてパンや中華麺の原料として用いられる。薄力粉は軟質小麦を用い、20~40μmに調整され、菓子やてんぷら粉として用いられる。また、粒子径によってもグルテンの含有率が変化することから、分級することによってさまざまな用途の小麦粉がつくられている。
② 乳製品
粉体としての乳製品は、全粉乳、脱脂粉乳、調整粉乳などが代表的なもので、そのほか粉末チーズなどもある。主な牛乳乳製品とその製造工程を図⒉に示す
この図⒉からもわかるように、ごく一部を除いて粉乳化のほとんどは、噴霧乾燥法(図⒊)によって行われている。
③ 調味料
調味料は、グルタミン酸ソーダをはじめ、風味調味料、香辛料、核酸系調味料などに大きく分類されるが、これらを組み合わせたものなどを含めると非常に多くの種類がある。
製法別でみると、次の3つに分類できる。
- 晶析法:
- 液体原料を濃縮晶析により結晶を分離する方法で、食塩、グルタミン酸ソーダ、各種アミノ酸などの製法に用いられる。
- 乾燥法:
- 液体原料を直接乾燥して粉体にする方法で、味噌、醤油、酢、その他天然調味料などの製造に用いる。
- 混合法:
- 各種粉体調味料を原料として、粉砕、混合、造粒などの操作により、目的の機能を持った調味料を製造する方法。風味調味料、複合調味料など、粉末調味料の多くがこの方法により製造されている。
2.医薬品
医薬品は、通常、主薬の使用量はごくわずかであり、単体で使用されることはほとんどない。したがって、、賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤といった各種の添加剤とともに調合・製剤されてはじめて製品となる。
たとえば賦形剤には、乳糖、コンスターチなどのデンプン類が多く使用されるが、ほかにブドウ糖、ショ糖、炭酸カルシウムなどが使われることもある。結合剤には、デンプン類、ゼラチンなどが使われている。崩壊剤には、デンプン類やカルボキシメチルセルロースカルシウムがよく使われる。また医薬品には、薬効、安全性、安定性の3つの重要項目があり、これらを満足させるために、粉体として性状にもさまざまな工夫ないしは制約がある。単に混合しただけの散剤として使用されるのはごく一部で、ほとんどの場合、何らかの形で造粒されている。
日本薬局法には、硬カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤などが規定されているが、このうち錠剤が半分以上を占めている。錠剤の製造は図⒋に示すように、直接打錠のほかは、打錠性を上げるために造粒を行っている。
造粒法としては、転動造粒、撹拌造粒、流動層造粒、押し出し造粒などが主に用いられているが、一例として、最近よく用いられているようになってきた複合型撹拌流動層造粒機の通気部分の構造を図⒌に示す。
また、顆粒や錠剤の付加価値を増すために、コーティングが施されることが多くなっている。これによって、粒子を安定させる、外観をよくする、臭いをなくす、磨耗を防ぐ、胃溶性・腸溶性をもたせる、徐放性をもたせる、などの目的に応じた特徴がつけられる。コーティングに用いられる装置は、回転容器、各種流動層、マイクロカプセル、各種スプレー、および乾式コーティングなどがある。
3.化粧品
化粧品と類似する日用品である家庭用品などについても事例を取り上げておく。
化粧品として粉体は、長期にわたり人体に使用されることから、安全で安定性が良く、かつ使用性がよいといった基本品質が要求される。したがって、多くの基準および規格が定められている。粉体が使われている分野は、ファンデーションや着色料としての口紅、マスカラ、アイライナーなど仕上げ化粧品が中心になっている。よく用いられる顔料を表⒈に示す。
表⒈ 化粧品に用いられる顔料
顔料名 | 原材料名 |
---|---|
白色顔料 | 酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム |
着色顔料 | 無機:硫黄化鉄、群青、酸化クロム、カーボンブラック 有機:β-カロチン、カルミン、カーサミン、タール色素 |
体質顔料 | カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなど |
パール顔料 | オキシ塩化ビスマス、雲母チタンなど |
その他の粉末 | 金属石鹸:ステアリン酸の金属塩 ポリマー:ナイロン、ポリエチレン 天然物:シルクパウダー、でんぷん類 金属:アルミニウム、金箔など |
化粧品用の粉体は粒子径が0.01μm~20μm、粒子形状は扁平状、真球状、中空状、不定形などさまざまで、これらの違いが、製品の使用感や肌への付着性、伸び、紫外線遮断効果などに大きく影響する。
たとえば、化粧品の基礎材料としてよく用いられているタルク、マイカは、扁平状粒子であるため伸びがよく紫外線遮断効果もある。最近ではUV化粧品として図⒍に示すように、扁平粒子に数μmの球形樹脂をコーティングして、さらに伸びや紫外線遮断効果を高めているものもある。また、二酸化チタンに格子欠落をもたせたものは、光の強さに応じて色の濃さが変化することから光感応パウダーと呼ばれ、室内から強い日差しの室外に出ると色が若干濃くなり、自然な白さを保つファンデーションとして使われている。最近の化粧品には、このように粉の機能を巧みに利用したものが多く開発されている。
家庭用品では、毎日使う洗剤や歯磨き剤を粉体事例として取り上げる。粒状洗剤の主成分は陰イオン界面活性剤で、これに洗浄力や流動性を高めるためのビルダーとしてゼオライトが配合されている。洗剤としての粉体に要求されるのは顆粒化の技術、かさ密度の均一性、パッキングのための流動性、吸湿による固化がないことなどであるが、最近はコンパクト洗剤が主流となっているため、顆粒の高密度化も重要な課題である。
顆粒洗剤は、原料液を前述の食品で示した図⒊と同様の噴霧乾燥法によって造粒している。この方法は乾燥と造粒が同時にできることや、連続大量生産に適していることなどの特長があり多く用いられているが、この方法で得られる顆粒は、中空粒子であるため高密度化する必要がある。その方法として捏和により高密度の固形中間体をつくり、これを細粉して最終製品を得る方法、または噴霧乾燥後、撹拌造粒などによって密度をあげる方法などが用いられている。
歯磨き剤は、薬効成分を含むものは「医薬部外品歯磨き剤」、含まないものを「化粧品歯磨き剤」として分類している。いずれも、構成成分のうち25~60%を占めるのが研磨剤で、歯磨き剤の効能のうち最も主要な部分である。その条件としては、安全かつ無味無臭、粒子径1~20μm、モース硬度は2~6、中性で水に溶けないこと、などが要求される。現在使用されている研磨剤は、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、含水ケイ酸、水酸化アルミニウムなどがあり、それぞれ製品の特徴づけのために必要に応じて使い分けがされている。
三品産業について取り上げたが、このほかにも多岐にわたって粉粒体はさまざまな産業で利用されている。粉体プロセスのキーテーマは、「粒子設計」「計測と制御」「スケールアップ」「微粒子プロセッシング」「数値シミュレーション」「ナノテクノロジ」となる。
【参考文献・出典先】
「粉体工学の基礎知識4」さまざまな分野で使われる粉料体 著者:波多野重信
株式会社イプロス
「はじめての粉体技術」著者:波多野重信ほか 株式会社工業調査会
株式会社パウレック
H.P https://www.powrex.co.jp/